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冬の魔女の童話集(砂漠の国の章) - ゆとシートⅡ for SW2.5 - ゆと工公式鯖

冬の魔女の童話集(砂漠の国の章)

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概要
効果

●鉄の兵隊さん

 昔この国では、とてもひどい戦争がありました。
 たくさんの人が亡くなり、たくさんのものが壊されました。
 人々はもう戦争が嫌になってしまったので、これからは仲良く手を取り合って生きるため、みんな武器を手放すことにしました。
 手放された武器たちは鋳潰されて、たくさんの便利な道具に変えられました。
 あるところに、ひとりの少年がいました。
 彼は戦争で大切な友を失って傷心していました。彼の友人はたくさんの人に英雄だともてはやされていましたが、彼は友人が自分の元に帰ってこなかったので、ちっともうれしくはありませんでした。
ある日彼が市場を歩いていると、ふと小さな鉄の人形が目に留まります。片足の不格好な人形です。
「それはね、鋳潰した武器で道具を作ったあまりだよ。だけど、鉄が足らなくて片足になってしまったんだ」
 少年はなぜか分からないのですが、その人形を気に入って購入します。
 少年はその後、その人形を生涯大切にしました。
 やがて少年が大人になり、老人になり、寿命で死ぬときにも、その人形は彼の隣にありました。
 彼が目を瞑ると、隣には死んだはずの友人が立っていました。彼はようやく気付きます。
「ああ、君は私のところにずっといてくれたんだね」
 鉄の人形は、友人が大切にしていた剣を鋳潰して作られていたのです。剣が、友人のたましいを彼の元へと運んできてくれていたのです。
 彼らは手を取り合って、神様のいるところに歩いていきました。

●みなみのほし

 むかしむかし、ひとりの女の子が猫をつれて旅していました。
 彼女は悪い魔法使いに追われているので、どうにかしてそれから逃げなければいけませんでした。
 ある日、女の子が森を進んでいると、猫が行き倒れた青年を見つけます。
「たいへん、すぐに手当てをするね」
 彼女は青年を看病して、近くを通りかかった行商人に大切な黄金の髪留めを売って、それと交換に食料を買いました。
 女の子のおかげで元気になった青年は、彼女にたずねました。
「君は急いでいるようだし、あの髪留めも大切なものだったのだろう? それなのにどうして見ず知らずの私を助けてくれたんだい」
「もしわたしがあなたを助けてあげれば、あなたは他の誰かを助けてあげられるかもしれないでしょう」
 青年は感激し、女の子に大切な秘密を教えてくれます。
「では、私は君を助けてあげよう」
「向こうに広がる砂漠を見るといい。あれは王様がきれいなものを独り占めしようとして、みんなからなにもかもを取ってしまってできたものだ。あそこには『何もない』しか残っていない。だからこそ、あそこをとおって南にいけば、悪い人は君を追いかけられないだろう」
「けれど、わたしも迷子になってしまうわ」
「王様も空に浮かぶあの美しい星たちまでは奪えなかった。南の星に向かって歩きなさい。あの星はあの場所からじっとうごかずに、君のみちしるべになってくれる」
 女の子は青年の助言に従って、砂漠の向こうへと歩いていきました。
 女の子が砂漠を超えると、花と緑が生い茂る、とてもゆたかでしあわせな土地にたどりつき、彼女は何不自由なく暮らすことができました。
 そしてもう、女の子を追いかける悪い魔法使いは、二度と彼女を見つけることはできませんでした。

●雪の小鳥

 あるところで戦争があり、ひとりの兵士が死んでしまいました。
 彼は故郷に恋人を残していて、彼女のために国に帰りたいと神様にお願いしました。
 神様は言いました。
「お前を生き返らせてやることはできない。しかし、雪の精としての務めを授けて地上へと送ることはできる」
 彼はそれを承諾して、雪の精として地上へと向かいました。
 しかし彼が恋人に会うことは叶いませんでした。彼の恋人もまた、戦争で死んでしまっていたのです。
 彼はながく、とてもながい間、泣き続けました。彼の涙は吹雪となって、そのせいで一つの山がまるまる雪で覆われてしまうほどでした。
 しばらく経ったある日のこと、雪の精を心配していた春風が、砂漠の街で彼の恋人の生まれ変わりを見つけ、彼にそのことを伝えました。
 雪の精は彼女に会うために砂漠に向かいます。彼は砂漠の日差しで自分が溶けてしまわないように、雪でとても大きな体を作りました。
 それでも砂漠の太陽はとても暑くて、彼はどんどん溶けていきます。それに、大きな体に驚いた人間たちが彼を追い返そうと攻撃してきます。
 それでも雪の精は諦めず、とうとう恋人の生まれ変わりに辿り着きました。そのころには彼の身体は小さくなって、小鳥ほどになっていました。
「まあ、可愛らしいことりさん。あなたはどこからきたの?」
 彼女の手は温かくて、彼はついに何も答えることができないまま、溶けて消えてしまいました。

●悪魔の姫

 青々とした森の中、いばらに囲まれたおおきなお城があります。
 そこは悪魔の王様が暮らすお城です。
 王様には何人かの娘がいて、末の娘はとりわけ綺麗で心優しい姫でした。彼女の肌は陶磁器のように透き通り、目はルビーの宝石のようにきらきらとしています。
 あるときお姫様は森の中、人間の一団が道に迷っているのを見つけます。その中にひときわ目を引く青年がいました。それは隣国の王子様でした。
 彼らは森の獣に襲われて困っていたので、お姫様は彼らのために獣を追い払ってあげました。
 お姫様と王子様はすぐに打ち解けますが、お姫様が悪魔の娘であることを知った家臣たちが怒って王子様を連れて帰ってしまいます。
 その後、お姫様は王子様のことばかりを考えるようになりました。
 彼女を見て、意地悪な姉は考えます。
「彼女をそそのかして城から追い出してしまいましょう。彼女はきっと人間の国で不幸になるわ」
 こうしてお姫様は城を出て、王子様のもとへと行きました。
 しかし、家臣たちが阻んでお姫様は王子様に近づくことができません。
「ならば私は王子をやめよう」
 王子様もお姫様のことを好きだったので、彼はお姫様のために継承権を弟に渡し、国を出ることにしました。
 こうしてお姫様と王子様はともに新しい国をつくって、いつまでも幸せに暮らしました。

●あとがき

  ある日、貧しい国にやってきた笛吹き男が、貧しい家の子供たちに言いました。
  君たちは幸せになりたくない?
  だったら、自分たちで幸せの国を作ろうじゃないか。
  こんな嘘つきだらけの国にいたって、君たちは幸せになんてなれやしない!
  一生懸命働く子には、美味しいご飯と暖かな寝床を。
  そんな当たり前が当たり前の幸せな国を、仲間を集めて一緒に作ろうよ。

 かつて、ずっとずっと北の国の吟遊詩人はこのように吟じたそうです。
 ですが笛吹き男のお話の裏には、ある裏切りがあったのです。
 笛吹き男が訪れたその国は貧しいうえに、その年は大量のネズミが発生して、長い冬を越すための備蓄を食べられる被害が発生していたそうです。見かねた笛吹き男は、金貨1枚でネズミ退治を引き受けて、ネズミを笛の音で操りどこか遠くに追い出します。
 それが終わって笛吹き男は報酬を受け取りに行くのですが、貧しい国の人々は、金貨を彼に渡しませんでした。それどころか彼をネズミを操って国を脅かした詐欺師呼ばわりする始末なのです。
 怒った笛吹き男は罰として、その国の未来を、つまりは子供たちを奪ってどこかへ行ってしまいました……。
 
 笛吹き男は結局、どのような意図で子供たちを連れ去っていったのでしょうか? 彼の真意を私たちはただ推し量ることしかできず、長い旅をする私たちは、しかし未だ幸せの国を見つけられていません。
 どれだけ豊かな場所であっても、それをつけ狙う悪人に見つかれば、たちまち戦火に呑まれて幸せとは程遠い場所になってしまうことでしょう。悪魔の姫と王子様は贅沢な王城での暮らしを捨てて本当に幸せになれたのでしょうか。

 この世界は苦痛に満ち溢れていて、本当の救いなどありはしないのかもしれません。
 それでも、私は幸せの国の存在を信じたいと思います。そして、この本を手に取った子供たちが幸せな結末を夢見て明日を生きられるように、この童話集の最後の一篇は、めでたしめでたしの物語にて幕を閉じさせてもらいましょう。  ————冬の魔女

製作者:マタタビ