俺の名はアドル・フレデリック。小さなウサギの駆け出し冒険者だ。
寿命が短いタビット族なのに10歳で駆け出し？ なんて馬鹿にすんなよ。ちゃーんと理由があるんだ。


俺は辺境の集落出身でな。辺境だけあって治安も最悪。蛮族共から逃げ隠れしながら暮らしてた。
ガキの頃の俺は、ある日薬草採取中にドジっちまって、蛮族に見つかりブッた斬られた。あん時ゃ、もうダメかと思ったね。

意識を失ったあと、次に目を覚ました時には、不思議な格好をした人間の住処に匿われてた。
聞くところによると命を助けてもらったらしい。

その人間は、全身真っ白ケな服と、鼻がヒン曲がりそうな体臭を着こなすオッサンで、自分の事を「カガクシャ」と名乗っていた。
『カガクは人類が生み出した、最も優れた芸術である』
『それ(カガク)を理解し使役する吾輩は、人類最優の芸術家であろう』
なんてワケの分からないことをよく言ってたよ。カガクシャとやらなのか芸術家なのか、どっちなんだ


オッサンは変人だったが、命の恩人でもあった。暫くはオッサンのカガク研究を手伝ってた。
いや、手伝いと言うよりありゃ、丁稚だったな。
オッサンの言う事は九割方、理解不能だったが…ひとつだけ、面白い話を聞かせてもらった

『大破局(ディアボリック・トライアンス)によって崩壊する以前の世界…旧世界と仮呼称しようか』
『旧世界では世界のあらゆる所にカガクが溢れ、繫栄していた。そして逆に、魔法は殆ど発達していなかったらしい』
『魔法も抜きに如何にして蛮族共を撃退するのか、と言いたそうな顔をしているね。…その回答は、吾輩の研究している古文書にある』

【その引き金(トリガー)引かれしとき、弾●は千里を疾く駆け、●●の元に飛来した。太陽の如き炎と●●●が国を覆い、蛮族共を滅ぼした】※●は潰れて読めなかった

『興味深いだろう？ 旧世界にも、今と変わらず“銃”があったと推察される』
『怨敵を滅ぼし、文明をゼロから築き上げる銃…始まりの剣(ソーズオブジェネシス)になぞらえて、“始まりの銃(ジ・アトミック)”とでも呼ぼうか』


正直、心の臓が震えたね。
もしも“始まりの銃”が、まだこの世界のどこかに眠っていたら…それを手に出来れば！　あん畜生の蛮族共を根絶やしにできるかもしれねぇってことだろ！？
俺はオッサンに戦闘のイロハを教わり、傷が癒えてからは身体を鍛えて、冒険者を目指すことにした。ひ弱な人間や、サイズの小さいタビットでも、敵を屠るチカラを得られるのが銃の良いところだよな。

やがて俺はオッサンと別れ、旅立った。
---オッサンはカガクで、俺は自分の脚で。“始まりの銃”を求めて、それぞれの探索を開始した。