彼は双子の弟である。兄の名をカナイと言った。2人ともナイトメアであるが故に、親に捨てられようと2人は一緒だった。
世界は自分たちにとっていくらでも残酷で、だからこそ握り合った手のぬくもりだけが本物だと思えた。
その日、自分は体調が悪いから食べ物を1人で取ってきて欲しいと兄から言われた。
幾つか兄の好物を取れたので、微笑みながら兄の元へ向かう。
――どうしてか、兄は元気そうに自分を待っていて、その微笑みは今まで見た事がないほど柔らかくて。
何故か兄の足元には水の入った桶が2つあって、それがどうしようもなく怖かった。

『カムイ、嘘ついてごめんな。でも、もう安心だからな』

次の瞬間、
頭を鷲掴みされた。
桶に頭を突っ込まれて、驚いて藻掻くと気管の奥まで水が入ってきた。

苦しい
苦しい
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい

――なんで？

……そこで、自分を押さえつけていた力が急に軽くなる。思わず顔を上げたあと盛大に咳き込んだ。
隣を見れば、別の桶に頭を突っ込んだまま動かなくなったカナイがいた。
とてもとても、苦しそうな顔だった。

『兄は自分と共に心中しようとしていた』
それに気がついた瞬間、脳が後悔と懺悔で殴りつけられた。
何故兄と離れてしまったのだろうと思った。何故自分は抵抗したのだろうと思った。何故楽になれたのにこのまま生き続けようとしたのだろうと思った。

――死にたい。
楽に、一瞬で、苦しまないように、死にたい。
……けど、自殺(兄さんの)は苦しいから、嫌だなぁ。

そうして、彼は死を模索するようになった。

https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?mode=making&num=105669