ある日美味しいハナシに出会った。
報酬が高く、拘束時間は短く、アシはつかない。らしい。
冒険者になりたての癖に見栄張って都会に出た。
しかし都会暮らしの動機が見栄だけなのだからよくなかった。

金に困って始めた仕事は最初は悪くなかった。
その日の生活費は多少羽振りが良くてもお釣りがくるし、食う寝る時間もたっぷり。

しかし、ある日を境に空気が変わった。仕事始め、突然クロスボウを渡され、困ったらこれを使えと言われた。
当然の困惑だった。なぜならそのような物騒な話は今までの仕事に無かった。
なぜ？と思うと同時に心当たりが浮かぶ。警邏に目を付けられるような仕事なのかもしれない。

指示役が目を離した瞬間、とっさに逃げ出した。
逃げたところでハーヴェスで生きていくことは出来るのだろうか。
住所は抑えられている。故郷も話してしまった。ここで消息を絶てば家族に魔の手がかかるかもしれない。

思慮の末、自らがハーヴェスにいることを程よく風の噂とするためにこの街で仕事を始めた。
こうしておけば追っ手はこの街を探すんじゃなかろうか。そう思ったからだ。

かくして、あの時忘れられたクロスボウひとつと、ちょっと稼ぎの余りで冒険者を始めた。


あとなんだか前世の記憶があるらしい。
世間を知らない若者を誑かし、安全な指示を飛ばしながら利を得る。そんな記憶が。