“石ころルコエ”は、ドワーフの武器職人の娘に産まれた。
跡を継げるほどの武器への情熱は無く。（武器職人技能１止まりの理由）
他の鍛冶系職への適正もなく。
ドワーフとしては非力で、鍛冶の手伝いとしても半人前で。
器用さも親の求める基準にはなく。
学問で身を立てられる程の知恵もなく。
同年代に愛される愛想も身につかなかった。

かくして、故郷のドワーフ達には“石ころルコエ”と呼ばれるようになった。
どこにでもある程度の能力しかない、ただの“石ころ”。金属に製錬できないクズ石。
両親はルコエを愛した。父親が赤子をあやすために何度も見せられた手品の数々を、手習いでルコエもできるようになる程度には愛された。（手品師技能３の理由。でもこれも食い扶持になる程の腕ではない）
だが、両親が武器職人として名を馳せる程に、隣人のルコエを見る目は冷めていく。
「あんなにいい武器を作る家なのに、一代で終わりなんてもったいない」、と。

でもルコエは別にそれでよかった。
石ころは全てを支える大地であり、点に浮かぶ星々であり、それらの慣れの果てに過ぎないから。
石であることは、ルコエにとって誇りだ。
何もできないルコエでも、足場にはなれる。何もできないから、人生に迷う人々の夜道を照らす反面教師的な光にはなれる。
この気持ちがメンタル的な逃避だとしても、ルコエにとってはこれが救いなのだから、これで良いのだ。

単純作業の坑夫として日雇い仕事をする中、グレンダールの声を聞き、両親の勧めで教会へ出家。
頭が良くないルコエには難しいこともたくさんあった。一番得意だったのは墓守仕事だった。墓石に囲まれて寝泊まりできたから。自分の慣れの果ては美しく切り出された墓石だと思えば、心地よくもなれる。
でも、聖職者としての仕事は殆ど覚えられなかった。ルコエは結局、社会にとっては石ころだ。

ある日、高位司祭が石化した冒険者を治療するところを手伝った日に、ルコエはついに目標を見つけた。
今の自分はまだ肉であって、最期の後の墓石も所詮は依り代。
だが、肉体が本当に石になってしまう、摩訶不思議な出来事も世の中にはあった。
あれが、“石ころルコエ”の、完璧で理想的な最期だと、鮮烈に恋焦がれた。
ルコエの認識は複雑に捻じ曲がっていた。

お世話になった教会の大理石を思い出代わりに持っていこうとして追い出されて。
冒険者としていろいろ経験して。
石ころは、投げれば痛い程度には強くなった。
夢はでっかく、石化能力を持つ魔物の退治だ。そんな仕事が回ってくる日の為に、ルコエは今日も名声を求めて冒険を続ける。