容姿・経歴・その他メモ

数年前、ランドール地方を左右に分断する鮮血海の近隣に、グレンウィルという伯爵位の一党がいた。
かの家は山岳部から降りて来る蛮族の討伐を一身に請け負い、『ハルシカの第一の盾であれ』を掲げ、日夜蛮族との争いに明け暮れていた。当主のキング・グレンウィルは戦働きにおいて"無双"に違わぬ活躍をしたが、一方内政事にまるで興味がなく、屋敷では女遊びと訓練に明け暮れていたという。
当然、領内からは不満の声が溢れ、不満を押さえつける為に私兵団を用いてさらに不満が膨れ上がる始末。仕舞いにはハルシカの豪商に兵力の貸し出しを願い、借金まで作ってしまった。
そして翌年、領民の不満と飢饉、山岳部からの蛮族の襲撃が重なり、100数十年の歴史を持つ名家は呆気なく滅んでしまった。
残ったのは、飢えた領民と借金に支配された地獄。そして復興を名目に暴利を貪る商人の群れだけだった。

彼が生まれたのは、そんな"良くある物語"の8年程前。妾の2人目から生まれた彼は待ち望まれた男子であった。
父は喜んで彼を寵愛し、彼は父の寵愛をよく受けた。

「将来は、父上のような良き貴族になりたいです！」

英雄譚を好み、勇者に憧れ、強さを望む有望株。
訓練と貴族の作法を教え込まれ、出世は時間の問題だと誰もが疑わなかった。
だが、それは必然によって裏切られる。

飢饉と侵攻は危うかったバランスを容易に崩し、両親は目の前でオーガに殺された。

「ちッ...父上ッ！！母上ッ！！！！」

必死に侍女と逃げた先、商人の追手に殺されかけた。

「なァ...何で、何故ですか！！！貴方は、私達と同じ人間の筈だ！！」

侍女は、彼を生かすために身を売り、金持ちの娯楽に使い潰された。
...世界への失望と苦痛に彼は呻いた。自身を『無力』という鎖で縛り、呪いへと変えた。

「強く...強く、強くならなきゃ...なにも守れないままだ！」

剣を振る。これしか知らなかったから。これしか、できなかったから。
持ち上げて、斬り下ろす。盲目的なその動作は、だが確かに糧となっているのだ。

━━━それは、荒く打ち出された鍛造品である。夢を無くし、過去を宿し、尚未来に進む愚か者だ。

英雄たれと過去に望まれた。試練あれと未来は言った。

「僕は英雄なんかじゃない。全てを守り切ることなんて、できない」
『でも、この剣が届くのなら、救って見せる』

履歴

もう失くさないと、誓ったはずだった。
剣の届く場所は、守ってみせると豪語したはずだった。

あのとき、冒険者を止めてしまおうかとも思った。だが、こうも考てしまった。
『冒険に別れは、つきものだ』と。
物語はあの時、終ったんだろう。でも僕にはまだ、中等命種としての時間があった。
冒険を続けよう。きっと、それが僕の人生だ。

────あれから、30年が経った。

俺は今や、ギルドを運営するマスターになった。友人が増え、歳を重ねるにつれて後輩が増えて行った。
俺を慕う友人たちを徒党のままにしておくのは、良心が許さなかったのだ。

ギルドの名前は『原石亭』。ひよっこの冒険者が宝石の如き英雄になることを願っている。かの神への不敬を、レイラは笑って許してくれた。
後続に稽古をつけ、森へ狼を討伐しに行く日々。充実はしているが、守る物も多くなった。腕の中すら守り切れなかった前衛風情が、随分と偉くなったものだ。

貴族に生まれ、冒険に魅了され、親友を失って今を生きる。
俺の人生は英雄譚ではない。だから、かつて憧れた竜狩りの神話は、闇に呑まれて消える友は、今も脳裏に張り付いている。

だからこそ、時期を待つ。

試練はとうに終わり、未来は無言でただそこに有る。

「言ったろう？俺は英雄じゃなかった……ここで物語は一度終わる」
『───だが、「俺達(・・)」は伝説になるにゃちと早い…だろう？』

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