月狼亭の依頼にて仲間を庇い、気絶したハガネ。
自己に執着が無い、騎士としても戦士としても誇りを失っていた彼は心配する仲間をよそに、魂が抜けたような顔でウルシラに帰還した。
そこでファルートと再会を果たし、先輩のライダーであるグレイとユリアに指摘を受ける。
本心を言い当てられ、致命的欠陥を突きつけられ、そして騎手と騎獣の絆を見せつけられた。

その背がかつての両親の姿に重なる。自分が目指していたものを、目指しているものを、ようやく自覚する。

ハガネは背を向けていた本心にようやく向き合い、涙ながらに吐露した。騎士になりたい、ファルートと共に強くなりたいと。

ギルドマスターから、失われていたはずの騎獣専有証を受け取り。ハガネは騎士としての道を歩み出す。
リバイバルライダーハガネ。まだ道程は果てしなくとも、彼は前を向いていた。唯一無二の親友と共に。

リバイバルライダーとして、ファルートと共に数々の依頼をこなしたハガネ。かつて涙に濡れながら背を向け、逃げ去った過去と向き合う覚悟が整った。
精霊亭のマスターレイラに、両親の遺品を探し墓を建てたいと希望を告げる。そこでハガネはレイラから、両親のいた場所が奈落の魔域に呑み込まれたことを知った。

あの状況から奈落の魔域に飲み込まれたなら、両親の魂は解放されていない。いや、あの時襲ってきた蛮族ごと取り込まれたなら奇跡的に生きている可能性すらある。
ハガネはすぐに調査に向かうと決め、月狼亭の冒険者と、そしてファルートと共にかつて両親と別れた場所へ向かった。

魔域では、両親が残したミスティックインクによる導きにより、遺体となった両親に会うことが出来た。寄り添うように眠る父と母、そしてハガネとファルートに宛てられたメッセージと遺品。
ハガネは涙を流しながらも、両親の遺志を受け取り前を向いて。成すべきことを成すために歩みを止めなかった。

アビスコアの前に佇む、試練のように立ち塞がる蛮族たち。騎士として隣に、後ろに立つ仲間の代わりに攻撃を引き受け、血を流しながらも怯まず戦った。アビスコアを破壊し、雨のあがった平原で空を仰いだハガネは。父親の遺した剣と、母親の遺した聖印に、誰かを守れる騎士になると誓ったのだった。

旅の掃除屋の力を借りて、両親の墓を建てたハガネ。
鉄壁の盾、折れない心、不屈の闘志を胸に、鋼鉄の騎士として前へ進み続けるのだった。

ある日、精霊亭の悦の魔剣の分体であるえっちゃんから、武器のマテリアなるものの情報を受けた。友達を連れてきて欲しいとの事で、これまで何度か冒険に同行して貰い親密になった人達に声をかけ、精霊亭を訪れた。
エミリゼオ、ジェフレッド、エトに。偶然居合わせた精霊亭冒険者のラッドにも同行を頼み、宝石が取れる洞窟へ。

正直、浮かれていた。
友人と呼べる相手は幼少の頃からファルートだけ。友人を集めてこい、という言葉にはそんな無理難題を…と思ったこともある。
それでも、思い当たる人に声をかけて了承してもらって、こうして私的なお願いについて来てくれる。なんだか照れ臭いような誇らしいような擽ったいような、悪くない心地だった。

慢心も出てきていたのだろうか。
魔物が現れ、いつも通りの陣形で、いつも通りに戦う。
ファルートはいなかったが、装備は十分に整えた。
ルーチンのように前線に出た仲間を庇い、敵の攻撃に備える。
頭のどこかでは、この先にあるだろう目的のもののことも考えていて集中力を欠いていたかもしれない。

魔神が、槍を構えながら突進してくる。
しまったと思った時には、もう遅い。
射線を遮ることが出来ないほどに接近されてから、頭上を通り抜ける槍を見送っていた。
振り向けば、煌めく宝石の槍に貫かれたエミリゼオが短い悲鳴と共に鮮血を撒き散らしていたところだった。
その光景が、嫌にゆっくり見えたのを覚えている。
思わず、視線を横にずらす。その先ではジェフレッドが戦慄いていた。

後悔するのは、まだ早い。津波のように押し寄せる自責の念を一旦振り払って、エトとラッドが開いてくれた道を通りエミリゼオをアウェイクポーションで起こした。
悲鳴をあげ、怒り、嘆いている。自分の責任だ。無用な死のリスクを負わせた。敵の行動パターンは知っていた、なのに通してしまった。

起きたエミリゼオも含め、敵は仲間が倒してくれた。
戦闘が終わり、エトとラッドがすぐにエミリゼオを治療してくれる。
自分も神聖魔法で、謝罪の言葉と共に重ねて治療をする。
そして帰還しようと、提案した。

怪我が治ったエミリゼオは、そのまま魔物の処理に向かった。
謝罪を向けたジェフレッドは、ハガネも怖かったろうと慮ってくれた。
ラッドは声をかけてくれれば、また同行してくれると言ってくれた。
エトは危険は承知していたからハガネは気にする必要が無いと伝えてくれた。

責められた方が楽、そういうこともあるだろう。
でもこの時は、ハガネには、この言葉が、嬉しかった。
責められていたらもう、立ち直れなかったから。
ただ、自分の不甲斐なさと、それから友達を傷つけてしまった後悔に。
涙が止まらなかった。
自分を待つように輝きを放つ洞窟深部に背を向けて、洞窟を後にした。

帰還し報告をすると、えっちゃんはまた次声をかけて欲しいと言い、温泉を勧めてくれた。
フォウネルに相談するといいと、囁きながら。

温泉へ向かう最中、ずっと悔いていた。
もう二度と私事に仲間を巻き込まない。
マテリアが無くても戦える。
自分には友人を作る資格がない。
騎士になる資格もない。
ぐるぐるぐるぐると、悪い考えが浮かび巡る。

温泉では、エミリゼオがいつもの調子で喋り続け。
ジェフレッドは柔らかく小さな手で背中を流してくれた。
エトとラッドも身体を清めてから、皆で湯に浸かる。

ｰｰｰｰさて、次はいつ行こうか。
当たり前のように、エトがその話題を切り出した。
私はいつでもいけるぞ！とジェフレッドがばしゃっとお湯を飛ばしながら手を上げる。
ラッドとエミリゼオも、予定がない日を教えてくれた。

まだ、一緒に行ってくれるのか。
諦観と悔恨に支配されていた思考に、温かいものが注がれていくような感覚。

本当にすみませんでした。
私事に付き合わせてごめんなさい。
許してくれるのですか？
危険ですからもうやめましょう。

数多の言葉は、感情の噴流に巻き込まれて消えた。
皆が自然に話す中で、自分一人だけがぼろぼろと泣いていた。
4対の目に見守られる中。
ありがとうございます、と。
よろしくお願いします、は。
涙声でだが、告げることが出来た。

諦めることは、しなくなった。
あとは二度と失敗しない、二度と友人を傷つけないために。
えっちゃんの言う通り、フォウネルに相談しに行くことにした。