テステムはパイカ種のタビットだが、故郷のことを知らない。物心ついたころには森にある家の中で、本を読んで暮らしていた。家には数多くの本があった。アルフレイム大陸に生息する一般的な魔物について記された本、毒にも薬にもなる薬品について記された本、十人十色の冒険譚に、戦記仕立ての歴史本。多種多様な書籍は、テステムに知識を与えた。本だけが、テステムが外の世界を知る方法だった。
　テステムの両親は、テステムに何も教えてくれなかった。もちろん、最低限生きるのに必要な言語や、生活習慣は教えてくれたが、おとぎ話を読み聞かせたり、森の外について教えてくれることもなかった。結果として、テステムは冒険譚や壮大な戦記小説の世界こそが、この世界の姿であると思い込んでしまった。何より致命的だったのは、テステムが早々に魔動機文明語を覚えてしまい、魔動機文明時代の書籍に興味を持ってしまったことだった。当然ながら、魔動機文明時代の書籍には、大破局が終息したことなど、綴られていなかった。結果として、テステムは外の世界に強い恐怖心を抱くようになってしまっていた。テステムはずっと、残酷な世界に怯えて暮らしていた。
　テステムの両親は昼の間ずっと眠っていたが、夜になると必ず外に出ていた。奇妙なゴーグルを身に付け、背負い袋を身に着けながら出かけては、夜明け前に戻り、新しい本を手に入れてきた。テステムの部屋は書斎と一体になっていたから、部屋はどんどん狭くなっていった。テステムは、両親がどこからこんな量の本を手に入れているのか、不思議に思っていたが、両親に尋ねることはなかった。聞いても、どうせ教えてはくれないだろうと思っていた。テステムはずっと、孤独だった。
　それが変わったのは、テステムが15歳になったころだった。本を読み漁るだけの毎日の中で、テステムは一人のリカントに出会った。名前をマッツ・センチュリーという彼は、テステムの部屋の中に、突然踏み入ってきた。ここは何なのか、お前は誰なのか、この本は何なのか、こっちにあるのは何なのか。テステムは怯えたが、子供のように何でも訪ねてくるマッツにあれこれ質問されると、全て答えたくなってしまった。テステムが、自分は人に何かを教えるのが好きだと気づいたのは、このときだった。
　それからマッツは、定期的にテステムの家を尋ねてくるようになった。テステムはその度に、違う話をした。部屋を埋め尽くす本のおかげで、話題は尽きなかった。何より、マッツはテステムが知っていることを何も知らなかった。とにかく無知で、それでいてなんにでも疑問を持つマッツという男に、何かを教えるのは、テステムにとって快感だった。
　しかし、そんな気分の良い暮らしも、長くは続かなかった。とある冒険譚の話をしている途中、マッツが初めて、テステムに向かって、一つの指摘を加えた。大破局はもう終わっているし、外の世界はそんなに怖くはない。自分の中の大前提が覆されかけたテステムは、マッツの言い分を否定するため、眠っていた両親を起こした。しかし、両親は眠たげな様子でマッツの言い分を肯定してしまった。どうして今まで教えてくれなかったのかと尋ねると、テステムの両親は言い放った。「そんなことはどうでもいい」それは、マッツについての説明を求めるついでに放たれた言葉だったが、テステムはこのとき確信した。自分の両親は、本当に自分に興味が無いのだと。だから、テステムは両親への興味を無くした。
　無くした興味は、マッツに向けた。テステムは自分に興味を向けてくれるマッツを愛おしく思った。ずっと色んなことを聞き続けてほしかったし、ずっと一緒にいて欲しいと思った。だからテステムはマッツの両親に向けて手紙を書いた。マッツにおみやげとして手渡された軽食のバスケットに潜んだそれは、テステムの思惑通り、マッツの両親へと届いた。自分の名前は綴らず、マッツの両親がこちらに出向いてくれるような内容を書いた。結果として、マッツの両親はテステムの前に姿を表してくれた。あとは、両親が隠し持っていた、マギスフィアとサーペンタインガンでどうにかなった。マッツの両親は一発で済んだので、残りの2発は自分の両親に使った。そうして、マッツとテステムは二人きりになった。
　テステムにとって都合がよかったのは、マッツが素直で、実直な性格をしてくれていたことだった。自分の中の正義感と罪悪感に首を絞められながら、それでも許される道を探るように、「ワルでいかつい冒険者になる」と周囲に宣言するマッツは愛おしかった。だからテステムは誓った。自分はこの、マッツ・センチュリーという男の傍に居続けようと。
　マッツが畑仕事をしている間に、テステムは家じゅうの本を売りさばいた。もう、本のことなどどうでもよかった。それくらいに、テステムは冒険者を始められる日が待ち遠しかった。もはや、外の世界への恐怖は欠片も残っていなかった。

レベル5以降
ウェポンホルダー(-1000)
大きな手袋(8000G)＆ロングバレル（-3500)

マッツ（バディ）

大切な幼なじみ。
できるだけ無茶をしてほしくないと思っているが、無茶をしてくれることが愛おしいと思っている。
なので自分ができることをできるだけ増やして、彼を悩ませる方向に動いた。
ウォーリーダーが生えたことにより、戦闘での一番手さえ奪われて苦悩する様を見て内心楽しんでいる。
余談だが、蘇生されたとき一番に見えた顔がマッツだったことがめちゃくちゃ嬉しかった。

ガッツ

マッツの対抗心をいい感じに煽ってくれている人。
自分から関わることはあまりないが、彼がいるだけでマッツが頑張ってくれるので気に入っている。

レベッカ

軍師の先生。
できるだけマッツに興味を向けさせないようにしているが、その必要もなさそうだと思い始めている。
戦闘の際は回復や補助に回ってくれるいい人。

ボーデン

マッツと一番親しげなドワーフ。
男性であるため、微笑ましく思っていたけど、最近使い魔がどんどん増えているので、そのうちマッツも一員にしようとしているのではないかと疑い始めている。
とはいえ、戦闘ではめちゃくちゃお世話になっているのであんまり強く言えない。

オリヴィエ

魔動機術の弟子。
教えたそばからどんどん成長していく凄い子。
当初はマッツから興味を逸らすためにやったことだけど、人に何かを教えること好きな性質のせいで自分で気に入ってしまっている。
最近では師匠と呼ばれるたびにいい気分になって鼻を鳴らすようになってしまった。