A3-2 一定期間の記憶がない
A5-3 故郷の場所を知らない
C2-1 規律に厳しい環境で育った

6-2 自由のために

　始まりの記憶は確かではない。一寸先も見通すことのできない深い闇の中を進んでいた……気がする。一歩一歩足場を確かめるように、わざとらしく音を立てて。
　ナゼ？わからない。
　ドコ？知り得ない。
　はるか昔、16年前(はじまり)の記憶なんてあるはずがない。
　月明かりなどなく次第に音も消えていく。不安を掻き消すために踏み鳴らしていた足音も、今は消え入るように弱々しい。完全に足音が消えた時。闇の中にありながらソレは佇んでいた。小さな自分に不釣り合いな、3mにも迫る勢いの黒。そしてゆっくりと、悍ましいほどに赤い半月を横たえた。はじめてみる『色』だった。そうか、これはメアリーの部屋。感動、驚嘆、唖然。様々な感情がないまぜになっているこどもを尻目に黒はどろりと溶け出した。体を覆ッて。一緒にトけて。トけテ。くロクなッタ。

　ウガッテ。ヤブっテ、形をナす。美しクて恐ろシイ歪な形ヲ。言葉にするのも憚ラれる異音と共ニ意識がはっきりとしてくる。足は自然と歩を進めていた。その先には暖かな光の明滅。もう音は要らなかった。

　目を覚ましたのはベッドだった。知らない天井だ、なんて冗談を言えるはずもなく混乱していた。起きあがろうとするが全身が痛い。比喩ではなく全身が悲鳴を上げていた。いやホントに。
　曰く、事故に遭ったそうだ。船が沈んでしまったのだ。そこに偶然、運悪く乗り合わせていた僕は頭を打って記憶がすっぽ抜けてしまったのだろう、と。そう聞かされたのが4年前。
　今僕は旅に出る。
『ここでは見れないものがある』
　偉大な先輩にして僕の師匠が言っていた。ここが全てだった僕にはその言葉が酷く魅力的に思えて、気が付けば走り出していた。

「ここから、本当のぼくが始まる！」

　確かな予感と共に産声を上げた。

過去
リュシオール魔法学園の出身。
気がついた時には学徒だった。
異端の招異魔法科であったこと、更にナイトメアであることも手伝って避けられていた。
典型的な不良生徒で気に食わないヤツはグーで殴り倒していた。
同学部に女子生徒がいなかったせいでバチボコに思春期。
物心ついたのは12歳。だと思い込んでいる。使える魔法自体は少ないが、招異魔法科でこれでもかと知識を蓄えたため一目見ればなんの魔法か判別できる。
リュシオール魔法学園について
誰にでも節操なく門扉を開いている。神聖魔法学部にいるタビットや精霊魔法学部にいるルーンフォークが有名。
招異魔法科は別棟として隔離されている。暗殺教室とはよく言ったもの。