いい感じに酔いが回ってきたな、少し昔話をしようぜ。
どこまでが本当でどこまでが嘘かわからない、酒飲みの昔話さ。


物心ついた時には優しい両親がいた。
俺の親父は元冒険者で、とある依頼で蛮族を駆逐していた際に、
蛮族に暴力を振るわれて捨てられた、かわいそうな赤ん坊の蛮族を見つけたそうだ。
親父は蛮族を保護し、その結果パーティーを追放され、その後は放浪者として旅を続けていたらしい。
おかしな人だよな...センス疑うぜ。
親父は放浪の旅ののち、ある集落にたどり着いた。
詳しい話は知らないが、そこの貴族と仲良くなって家族になったそうだ。その貴族の娘が俺の母親だ。

俺は楽しくやっていたよ。いわゆるガキ大将ってやつでさ。
蛮族がゆえの体の頑丈さ、貴族がゆえの気品の高さ、子供のころの俺は負けなしだったね。
俺の見た目が原因で、喧嘩になったことももちろんある。でも最後は仲直りして笑ったさ。いい仲間だった。
父親からは決して膝をつかない戦い方を、母親から貴族としての立ち振る舞いや常識等を教わった。
両親ともに厳しい人だったが、愛にあふれた人たちだった。俺は幸せだったよ。あの日が来るまでは。

集落には、蛮族の肉体を持つ俺が貴族であることに不満を持つものもいた。
奴らは常に、俺たちを貴族の座から引きずり降ろそうと目を光らせていたし、そうする為の仲間を集めていた。
しかし俺は母親のおかげで、少しやんちゃではあったが常識ある人になれたし、同世代の友達もたくさんいた。
奴らの思い通りに事が進むことはなかったさ。奴らはそれに対し焦っていたんだろうな。

なんてことのない日常のある日、俺の親父は病気で急死した。
その知らせを聞いた奴らは、武器を構え屋敷へと乗り込んできた。
実力者である親父がいなくなった今が好機と思ったのだろう、しかし考えが甘い、俺が返り討ちにしてやったさ。
襲い掛かってくる奴を一人ずつ確実に、かつての親父のようになぎ倒していった。
俺はうまくやれたと思っていた。だがこの行動が奴らを焦らせ、最悪の結末へと導いた。
奴らのうちの一人が、魔神を召還した。そして門を固定しやがった。
すでに疲弊しきている俺にはどうすることのできなかった。俺はみんなを守ろうと必死になって戦おうとした。
でも、俺が助けに入ろうとするとみんな口をそろえてこう言うんだ。
「私はいいから、お前が逃げろ！」
ほんとおかしな人たちだよな。俺はこんな体なのによ、今まで散々迷惑かけたのによ。
優しすぎるんだよ、馬鹿どもが。センスがねえんだよ...本当に...

俺は集落のみんなを壁にしてただ一人逃げ延びた。帰る場所を失った俺はこの見た目もあって苦労したさ。
肉体労働者としてある種奴隷のような生活をしながら、なんとかその日を生きた。
そんな生活を続けながらお金を貯めて、装備を揃えることが出来た俺は、放浪者になったってわけだ。


俺の目的はただ一つ、俺と同じような悲しい思いをするやつを生み出さないようにすることだ。
俺は強くなって見せる。強くなって俺の目標が叶ったら、それって最高にセンスがいいだろ。
.........ってのは冗談だ。んなことは不可能だからな。
俺の目標は強くなること、そのために依頼を受けるんだ。
誰かが困っているとか、助けなきゃとか、そんなことは正直どうでもいいぜ。

さて、飲み過ぎちまったな。今日はここらでお開きだ。
もしまた会えたら、その時はまた会おうぜ。じゃあな！