聖印と神像

聖印は雲間から現れた弓持つ左手である。


弓の形をした星空を左手で鷲掴み、姿の無い弓弦を引き、存在しない矢をつがえる輝肌の神。
白い肌は大気の層を無数に重ねた様な光沢を持ち、瞳は上天が如く澄み渡った蒼色をしている。そして白髪は雷光を纏う。大まかな輪郭は人間に酷似している。ただし、耳は鳥の翼の様な造形となっている。

神格と教義

“上天の光”アイテール。それは言い伝えによると「ある日、獣たちが一斉に天を仰いだ時、その頭上を通り過ぎた一陣の風が昇華した存在」とのこと。

【教義】
教義は「獣への博愛と生の謳歌。」
この神は人と蛮族を区別しない。

「死者の蘇生、またはそれに類する行為の禁止。」
この神は生命体の自己同一性は連続性であると考え、定義した。

格言

「人を名乗る愛らしい獣たち。僕からすれば君たちは野を駆ける彼らと変わりない。」

「倒錯に囚われた盲目なる君たち、いつか目を覚ましなさい。死者は蘇らず、離別と忘却は永遠であり、あらゆる命は死ぬのだと、認めなければならないよ。」

「神であれ、人であれ、僕の定めには従わなければ。死した者は不帰であり、取り戻す事は叶わないのだから。」

備考

この神の本質は、恐らく「定義する」ことにある。

【教義への注釈】

この神が死者蘇生を行った者を積極的に罰する事は無い。
死者の復活を禁じる理由は、その行いが全くの無意味であると考えるからに過ぎない。知的生命体の同一性は連続性であるから、一度絶えた者が二度と戻ることは無いのだ。

【司り】

大気と風、弓と神罰、寿命と天命、雷雨と豊穣、星空と太陽、天空、命と知性、永劫と変遷、時と愛。

・大気
呼吸をする全ての存在はこの神の恩恵を受けている。何故ならこの神は澄んだ大気そのものであるからだ。この神は世界の機構であり、故に偏在する。

・風

・弓
弓を持つものはこの神に祈ると良いだろう。弓の聖守護神であるこの神は時折、射手に宣託を授ける。

・神罰
雲間から覗く巨腕に星空の弓。これは神罰の証である。放たれた矢に確かな理由がある訳ではない。この神の気紛れが神罰と定義されるだけだ。

・寿命
寿命は死した後に定められる。死した結果こそが寿命であるからだ。けれど、この神は寿命を先に定める力を持つ。寿命を定められた万物は逆説的に死滅する。

・天命
天の定めたる使命。一般には運命と呼ばれる神の指令。

・雷雨
神の矢は稲妻であり、雨である。偉大なる天より地を駆ける獣への祝福である。

・豊穣
雷雨を伴う嵐は地に繁栄を齎す。強風が荒れ狂う後に多くの命で耕された荒野で新芽が土から顔を出す。雨雲の運び手は常に風なのだ。

・星空

・太陽

・天空

・命
「呼吸する事は生命体の特権である」

・知性
「群れる事は獣の特権である」

・永劫
隣人から隣人へ。先人から後世の誰かへ。例え未曽有の災厄で世界が完膚無きまでに滅び去っても「流れ」が途絶える事は有り得ない。だからこそ、物語は永劫なのだ。

・変遷
万物は流れ、移ろい変わる。それでも「流れ」は後世に続いていく、何処までも。その「流れ」こそがこの神の表象なのだ。

・時

・愛
この神の愛は傲慢な愛である。自らを上位者と認識するこの神は、地上の獣に見下すような愛を注ぐ。けれど、その形は凡人が思い描くような単調なものでは無いだろう。