その日、空が割れて初めての"夜"を見た。
10歳のある日、生まれ育った奈落の魔域は崩壊した。冒険者によって奈落の核が破壊されたのだ。

私の知っている夜とは、もう一つの紫色の太陽が登る時間だった。
ずっと"家族"として暮らしていたマーマンとは会うことはなくなった。


いきなり小さな"月"の光しか刺さない真っ暗な世界に一人取り残された。
そしてショックで気を失った後、小麦の焼ける良い匂いのする部屋で目覚めた。

"焼きたて酵母"(ドーデン博物誌P.81)
オルフィード湖国にある一つのパン屋。
その女亭主であるリカントの「ニャハ・サンドウィチ」(当時22歳)に引き取られたのだ。
私を救い出した冒険者は彼女と知り合いだったらしい。

初めて彼女の焼いた"くろわっさん"なるものを食べたとき、美味しさ・温もり・甘さ・優しさに涙した。

「そんなに嬉しそうに食べてくれるなんて作ったかいがあったにゃぁ。暫くはうちにいなさいな。」

アビスボーンであることは冒険者に聞いていたのだろうか。
私を不憫に思ったのか彼女もとい母のもとで暮らすことになる。

残念ながら私にパン作りは向いていなかった。
(どんなに失敗しても美味しいと感じてしまうため)


縁があり15歳になる日より
オルフィード湖国軍に入軍。
厳しい訓練と教育をうけ、【オルフィード式蒸発妖精術】の使用を認められる。

「服に煤一つ付けずに勝利せよ」と言われてたので
上着を着て作戦に向かったら上官にどちゃくそ怒られたのは今でも意味不明。
常識をあまり知らない自分に軍行動はやや難しかった。

軍に所属しているとき、
アビスボーンの冒険者適正をよく知っている同僚に冒険者を進められる。

母のもとを離れるのは心細いが、
自分により合っている道なのであればやってみよう。と冒険者業を始めることとなる。

始めて見ると性に合いすぎていた。
パーティの前線で熱く燃え上がり敵を打ち倒す。『私はこのために産まれたのだ』そう実感した。

途中で魔動機術も学び、
様々なパーティで活躍する魔法戦士となったのである。

趣味は軍時代にハマったサウナとパン屋巡り。