10歳の誕生日、彼女持ち前の好奇心で魔剣の迷宮に忍び込み、迷子になっているところを通りすぎた冒険者に保護される。
その冒険者はそれなりに腕が立ち、面倒見がよくなにより子供好きであった。
状況を把握した彼は、エリステラを外まで送っていくことを決意する。
しかしそこは、運よく魔物に遭遇しなかったため奥まで進めてしまった、本来なら少女が絶対たどり着けないダンジョンの下層。それなりに経験を積んでいた冒険者でも、
子供をかばいながらの脱出は困難を極め、やがて冒険者は足を負傷してしまう。
確保できた安全地帯の中、二人は救助を待つしかない。しかし本来、少女が迷い込むことが想定されない場所、なにより救援要請もないダンジョンの奥、
そう簡単に助けがくるはずもない。手持ちの食料をエリステラにほとんど渡し、傷も決して浅くなかった冒険者は、そのうち息絶え、
その場に残されたのは少女一人となった。
疲労、助けがこない不安、それまで一緒にいた大人の死、話す相手がいない寂しさ。
魔物が外にいる恐怖。そして何より、極度の飢えと……『空腹』。
精神が成熟していない少女が正常な判断を下せなくなるまで、そう時間はかからなかった。

行方不明になって2か月後、街の新聞の一角に記載されていた内容には
『発見されたダンジョン奥の小さな部屋には、行方不明になっていた少女が奇跡的に生きた状態で発見されたこと』
『その少女のいた部屋には、腐った血や肉がわずかに残った人骨が見つかったこと』が記載されていた。
発見された少女にダンジョンに入ってからの記憶はあまりないと語っており、「魔物に操られてダンジョンに入ってしまったのでは？」
という結論が周りの大人たちに下され、この事件はやがて静かに風化していった。

心理的な防御反応ゆえか、エリステラ自身、ダンジョン内でのことは本当にあまり覚えていない。
だが、すべてを忘れようとしたときは、必ず同じ夢を見る。

「■■■■■■、美味かったか？■■■■■■■■」
最後まで優しかった彼ならば、絶対にこんなことは言わないだろう。
でも人の道を外れた私は、もう絶対に自分を赦してはいけないのだ。
だから私は武器を握る。私が奪ってしまった『本来彼が遺すはずだったもの』を、わずかでも世界に返すために。