「昔話をしてあげる」
「世界が破滅に向かっていた頃の話よ」

「ずっと昔の、私の何代も前のおばあちゃんが見た出来事」
「最初の超越者。それが生まれるのを見たのよ」

「これは本当の話よ。だから、私は……」

―――あいつか。
　ああ、知ってる。話せば長い。
　そう……古い話だ。
　知ってるか？　冒険者は3つに分けられる。
　強さを求めるやつ。プライドに生きるやつ。戦況を読めるやつ。
　この3つだ。
　あいつは……。

　俺の評論はどうでもいいか。
　そう、あいつの話だ。
　やつは山奥の人知れぬ里――所謂秘境――で生まれたらしい。
　なんでもそこは、かつて神にたどり着いた英雄が生まれた場所だとか。
　ははは。今の世の中、ありふれた話さ。どんな親だって、国王だって、自分たちの正当性を語ろうと思ったら思いつく話の一つだ。
　だがあいつはマジにそれを信じているようだった。
　どのくらいかって？
　……あれは寒い雪の日だった。
　寒さを紛らわすついでに話をしていたとき、こんな寒さで震えてるようじゃ英雄になれないだとか言ってきたもんだから、つい少しおちょくったわけよ。したらそれから一月杖を振り回して追っかけて来てな。いい年なのにあいつもよく体が動くもんさ。
　寒さは結局なんとかなったね。
　……ああ、アンタもあいつに追っかけ回された時に備えて覚えておくといい。
　奴は酒に弱い。匂いだけでダウンするくらいだ。
　逆にチキンはやめとけ。見せただけで地の果てまで追ってくるからな。
　そんなだから二つ名になるんだよ、肉キチめ

　ま、それもアイツの生まれた時代の影響だろう。聞いた話じゃ、守りの剣がほぼ意味をなさない状況だったみたいだしな。
　飢えて失神したこともあるらしい。

　性格？
　そうだな……一言で言うなら面倒くさい。
　いつも仏頂面でいるが、それは奴が他人に話しかけるのが苦手だからだな。なのに、ひとこと喋りだしたら聞いてもいない豆知識だとかを一方的にペラペラ喋りだして止まらなくなるうえ、それに納得したフリでもしないと仏頂面に戻っちまう。逆にこっちの話はまともに聞いてないことがほとんどだ。
　これは依頼の関係で貴族に領地の森に入る許可を取りに行ったときの話だが、突然ディノスの繁殖方法について話し始めやがった。結果的に通れるようにはなったが、あいつの脳内がどうなってるのか俺もわからん。
　ヤツの話は適当に頷いて流しちまうのがベストさ。
　ただ役に立った話もないわけじゃない。
　あれは大量のワイバーンと遭遇したときだったか。
　(中略)

　つまりまぁ、面倒なやつではあるんだが
　力を求めることには貪欲だ。そこは信用していい。

　最後に……そうだな。
　
　よう、相棒。まだ生きてるか？