“解放されし大地”テラスティア大陸―――そんな名前が付いてはいるが、実のところただの“見栄”なんじゃないかと思っている。
なにせ、どこもかしこも蛮族だらけ。比較的整備された街道にだって、連中は構わずやってくる。“解放”されているなんてとてもじゃないが言えやしない。だから“見栄”、人族が奮い立つための誇大広告ってやつ。
そんなわけで、街から街へ移動するのにも、戦う術のない人達にとっては命懸けだ。
まともな地図でもあれば話は別かもしれないが、そんなものがあったのは、はるか昔の魔動機文明時代の頃の話。
今じゃ詳細に書き込まれた地図は貴重品。国のお偉い方々の会議室で、額縁に入って飾られているような代物だ。
そのアル・メナスの大文明だって“大破局”の影響で、どこも手酷くやられたと伝わっている。
天変地異……実際に見たことはないが、丸ごと消えた島だとか、土地だとか、逆に新しく生まれた場所だってあるらしい。当時の地図だってどれほど役に立つことか。
まともな記録なんざ、ちっとも残っちゃいない。どれもこれも蛮族連中によって焼き払われちまった。
俺にはどうしても、その事実が“悔しくて”ならない。
だってそうだろう？　ヒトの歴史は積み重ねだ。
どこかの誰かが残したモノを、誰かが更に別の誰かに伝えて、そうして世界は繋がっていく。
古代に生きた人々の遺志を、意思を元手に、俺たちは生きているはずだ―――その“証”が失われているのが、どうしようもなく悔しい。
もちろん、個人的な事情もあるっちゃあるが、決してそれだけじゃあない。これは本当に俺自身がそう思っているのさ。
というわけで、まず第一の目的、誰でも簡単に見られるような地図を作る―――目標はでっかく、この世界すべて。
無謀だって？　そりゃ俺一人じゃ無理かもしれないが、行く先々で俺の考えに共感してくれる人が一人でもいれば、手間は半分で済むんだぜ。

それに何より、冒険は楽しい。
俺はこの目で、この広い世界の姿を目に焼き付けたい。これがもうひとつの目的。

前人未到の大地、忘れられた神々の存在証明、とてつもない力を秘めた遺物、構造の理解できない機械人形―――思い浮かべるだけで、ワクワクするだろ？

はじめての冒険を思い出す。
魔法文明の遺跡に挑んだら、まだ動いてるゴーレムに追っかけ回されたっけな。
命からがら逃げ切った先、奇跡的に残っていた数千年前の人々の痕跡―――その中に、ボロボロに朽ちた、一部だけがなんとか読める程度の地図の切れ端を見付けたんだ。もちろん、それ自体に価値なんてありやしない。
けれど俺はその瞬間、胸の高鳴りが止まらなくなった。
顔も、名前も、種族も、何をしていたかも分からない、気の遠くなるような太古の時代に生きていた、どこかの誰かが存在した“証”がこの手にある―――どうしようもなく、“ロマン”ってやつを感じないか？

俺があの時感じた高揚を、感動を、俺の冒険を、この世界に生きる誰かに伝えられたらどれだけ幸せなことか。
だからこそ俺は“冒険者”ではなく“冒険家”として、歩み続ける。
世界を歩き、世界を繋ぐ、ヒトの意志の体現として。