その彫像の土台には制作者である父の名が彫られている。
【蛮族を撃退する力を示すこと】
それは奈落の脅威から人々を守り続けてきた意志の強さだった。
亡くなった多くの遺族の代わりに孤児の面倒を見、彼らを戦士に鍛えていた。
彼女は給仕の仕事しか持たなかったけど、その責任感の強さは人一倍感じていた。
「それでいつから気付いていたんだ？俺が都市から被害を出すように調整された人員だってさ」
「わからない」
「他の子どもたちはみんな俺を信じて蛮族を撃退しに向かったってのにその言葉はわからねえな」
「それは昔と同じだから」
「今回の侵攻の規模を誤って伝えたことに気づいたわけじゃないのか」
「私は…信じていたから」
「なるほどな、【人殺し】だと信じていたからか。どうりで最初から何の変化もないわけだ」
「……感謝してる」
「確かに蛮族を撃退する力を持つべきだな。ついでに人族も」
「ありがとう」
「じゃあな、たのしかったぜ、お前のアホ面を見るのがよ」
「さようなら」
こんな簡単な奇襲が成功するということ。
それがすべてを示していた。
彫像は今もまだ在りし日のままで残っている。その心がけもまた＿＿＿

「セオリは冒険者になったら何がしたいんだい？」
「わからない」
「ははは、まあいいんじゃないか。そのうちに冒険でやりたいことでも見つかるだろ」

「魔導バイクに乗って好きなものを食べながら旅をするのはどう？」
「わからない」
「うんうん、ちょっとずつ探しに行こう。夜空の先にある風景を地平線から眺めればきっといい気分なはずだよ」

「自分探しの旅ってのは若いうちにやってもいいんじゃないか？今しかできない経験があるんだからよ」
「わからない」
「いやー、羨ましいぜ、その気持ち昔の俺ならもっと突っ込んで話せたかもな」

「知識と世界の習慣を学ぶのも悪くない。そうすれば世界の広さが展望の認識に変わる」
「わからない」
「その気持ちを大切にした方がいい。そうすれば宇宙の知識を矮小な愚昧に変えずに済む」

「セオリさん、わからないことがあったら何でも言ってくださいね」
「……わかった」
「？？？」

出産時に母が亡くなり、父は残った財産で虚ろな感情のままセオリを何とか育てていたが、ある時蛮族の大群が襲って来るとセオリを安全な場所に逃がそうと隠れながら移動していたが、どこか諦めの雰囲気が漂っていた。軍の攻勢で大勢は決し、あとは安全な場所に避難するだけの状況になって、蛮族の不意打ちから幼いセオリをかばうために父が身を挺して胸を刺し貫かれた。そして父は虚ろな表情が、満足げに変わりながら死んでいった。だがセオリにはなぜ父が満足したのかわかっていた。父がかばった後、一人でその蛮族を倒して救援と被害者の確認をしていた軍の避難地に向かった。セオリは軍の司令官である「父」と孤児達で組織された部隊に入り、そこで給仕や遺体の清掃を行った。ナイトメアである引け目から訓練や演習に対して遅れがちになり、相対的に周りで実力が一番劣っていたから。しかし軍の司令官である「父」はそんなセオリにもよく面倒を見てくれており、戦闘技術や給仕の仕方を平等に教えていた。状況が変わったのは、上からの命令で孤児部隊が囮作戦を任された時だった。元々絶望的な戦力差を世間に訴え、対蛮族用の軍備を整える信頼を確立するために組織された部隊だったからである。明らかに劣勢で戦闘地帯に孤児達が突撃すれば蛮族たちへの脅威が高まるだろうと期待されてのことだった。セオリは最初からそれに気づいており、それでも居場所を守ろうと「父」の下に一人向かって話をしようとした。しかし「父」もまたかつての父と同じ虚ろな表情をしていた。そこでセオリはかつての蛮族と同じ振る舞いをし、満足げな「父」の言葉を聞いてから、軍事裁判で情報隠蔽のため追放されて、冒険者になった。かつての「父たち」と同じ虚ろな表情をしながら。