冒険者向けの宝飾品や魔法の武器・道具などを取り扱う『サンドリヨン商会』を立ち上げた若き女会長。自身も冒険者ギルドに所属して魔神討伐などを行う傍らで、商会が取り扱う商品の宣伝活動を行っている。
　本名はコーデリア・フォン・シュヴァルツラングで、本人はかつて名家である『シュヴァルツラング家』の栄光を取り戻すことを目的としていると謳ってはいるが、実態は度重なる魔神の襲撃で荒廃しつつあるエルヤビビとトゥルヒダールの復興に心血を注いでおり、彼女を幼少期から知るエルヤビビとトゥルヒダールの人々はまるで孫娘を見るような目で暖かく見守っている。

「うふふ、初めてのご来店ですね？当店をお選びいただき、ありがとうございます♪」
「お客様に似合う素敵な品を取り揃えておりますわ。ぜひ、ごゆっくりご覧くださいませ♪」

「えっ、さっきのお客様は初めてじゃ、ない？」
「ねえ、それを先に言ってよーーー！！！」

　肝心なところでどこか抜けており、トラブルメーカー気質のある世間知らずなお嬢様。高貴で気高い大人の女性（本人談）を取り繕おうとしているが、周囲からは全くそう捉えられていない。
　また、利己主義的で傍若無人な態度をとろうとしても、育ちの良さが隠し切れておらず、困っている人がいると思わず助けたくなる根っからのお人好し。面倒見も良く、下手に無理をしないほうが大人として見られるのではないかという説もある。
　一応、彼女が背伸びをしたがるのは神に祝福されしヒト(ヴァルキリー)であることの責任感や、優秀過ぎる従姉や先祖に対するコンプレックスによるものであり、非凡な存在にならなければならないという彼女なりの少しズレた努力なのかもしれない。

　トゥルヒダールにある貴族の豪邸で生を受けたコーデリアは、物心ついた時から母親が居なかった。シュヴァルツラングという没落した貴族の当主をしている鑑定士の父『シャルマン』によって、厳しくも愛されて育てられたが、七歳の頃に父シャルマンが病死してしまう。
　若い娘だけが残され、跡取りもおらず。かつて得ていた名声も廃れてしまったシュヴァルツラング家が辿る末路は、没落ではなく消滅だった。そんな時、コーデリアの前に従姉を名乗る女性『リュセット・サンドリヨン』が現れる。
　高名な魔術師であるリュセットは、コーデリアの将来を案じる使用人達に「コーデリアが独り立ちできるようになるまで支援する」代わりに、「コーデリアの教育をリュセットに一任する」という条件を提示した。使用人達が条件を呑むと、コーデリアをトゥルヒダールの豪邸からエルヤビビの別荘に数人の親しい使用人達と共に移り住ませた。
　リュセットの教育方針はコーデリアを貴族の娘として育てることではなかった。彼女の先生となって外の世界について教えると、神に祝福されしヒト(ヴァルキリー)として何をしたいのかを問った。

『せんせ、わたしはね。みんなのおひめさまになるの。』
『お姫様？』
『うん！』『みんなをね、幸せにするおひめさま。』
『おとうさまが言ってたの。「コーデリアのやりたいことをしなさい」って。』
『わたし、おやしきのみんなも、街のひとも、みーんな大好きだから。』
『―――そっか。それじゃあ、沢山お勉強しないとね。』『賢いお姫様じゃないと、みんなを幸せに出来ないよ？』

リュセットが何故、「コーデリアの教育をリュセットに一任する」などという条件を出したのか。
それは、コーデリアがシュヴァルツラング家という呪いを一身に引き受けているのではないかという危惧をしていたためだ。
「お父様の言いつけに従う」などという返答がくることは覚悟していたが、予想は良い意味で裏切られた。
コーデリアの父、シャルマンは妻を失ったことで変わった。シュヴァルツラング家を自身の代で終わりする覚悟であったのだろう。そうでなければ、最期まで伝統と家名に縛られ続けた男が、「やりたいことをしなさい」などと幼い娘に言うはずがない。

『死人に口なし』
しかし、その想いは受け継がれる。

まだ世界を知らず、幼く無知なこの少女が独りで立つことが出来る日まで。
彼女は見守り続けようと決意した。

　貴族はどうして貴族と呼ばれるのか。
　シュヴァルツラング家はこう答えた。『我々にはかつて古代魔法文明を支配したブルーブラッドの血が流れているのだ』と。
　一般人が聞けば一蹴されそうな理屈だが、彼らは心からそう信じていた。いや、血統主義とも言うべき歪んだ伝統によって、それが当たり前であると信じ込まされたが故かもしれない。
　優れた血を遺し続けるということは、そう簡単なことではない。近親のみで子を成していった結果、奇病により命を落とすことが多かった。奇病だけではなく、母体の負荷も多大なものであったため、女性の生存率も低い。父が娘と子を成すのも珍しくはなかった。
　そうして奇跡的に継がれていった一族、それがシュヴァルツラングだった。

　しかし、奇跡はそう易々とは続かない。最期に残ったのはシャルマンという男性と、彼の娘であり妻であるセレーネだけ。そして、セレーネに更に子供を産めるだけの体力はもう残ってはいなかった。
　血を絶やさぬため、最後の手段として外から母親となる娘を連れてくるしかなかった。それが若き日のリュセットであり、彼女から産まれたのがコーデリアである。
　無事に出産したリュセットは見返りに多額の報酬を受け取ってそれを元手に知識の剣で大成を果たし、"魔女"と呼ばれるのはまた別の話―――