【背景設定】
　イタケー家はアル・メナス時代後期に起源をもつディアボロ族です。バルバロスが強力な魔動機や魔動機術に対抗する様々な戦略戦術を編み出した軍師「浸触のエルメース」を祖にし、彼が初めて占領した土地「イタケー」に因んで家名を決定しました。それから時が経ち、4代目家長となるべくして生まれたのがユーリスです。そして同時に初代家長エルメースの二つ名「浸蝕」もまた継ぎました。「浸蝕」の由来はエルメースが好んで用いた戦術の名称だそうです。
　イタケー家は代々より高級指揮官に助言を行う参謀や軍師としての性格が強い家系であり、ユーリスもまた優秀な軍師となるべく、幼い頃より地政学や用兵術、軍政学といった様々な軍事学領域を叩き込まれました。勿論、一般的なディアボロのように白兵戦闘術も教え込まれ、上位バルバロスの肩書に恥じない実力を身に着けました。とは言っても、多くの学問についてはドレイクやバジリスクには到底敵わず、得意の軍事学もまぁ勝負できなくはない程度ではありますが。
　月日が流れユーリスが25歳となった年。同じディアボロ族の女性「ペネロープ」と出会い、数年の交際を経て夫婦となりました。ペネロープは幹部候補生であるユーリスの先輩であり、ペネロープもまたディアボロの中では聡明な頭脳の持ち主でした。故に意気投合し、互いを尊重し合いながらやがて婚姻を結んだのです。しかし戦乱のランドール地方。2人の結婚生活はたったの3年で幕を閉じました。
　イタケーの近くにあるイリオン岬を魔神が占領したのです。元々そこには不可侵を結んでいた男爵級ドレイクの荘園がありましたが......どうにも陥落したようで、イタケーは突如して魔神の脅威に晒されることとなりました。そこでイタケーはルテナントとなったペネロープに海側からのイリオン岬攻略を命じました。ペネロープはこれを承諾し、ユーリスも副官として連れて鮮血海へと出航しました。最初こそ慣れない海戦に苦労したものの、何とかイリオン岬近海へと辿り着くことができました。しかし魔神陣営も防衛線を整えており、彼らも水棲魔神を繰り出して来ました。イタケーからは上位蛮族ディアボロが、イリオンからは奇怪な魔神ドレッドバールが激突しました。何時間にも及ぶ激戦の末、ペネロープは敵将ドレッドバールを討つ寸前まで追い詰めることができました。しかし、最後の最後でドレッドバールは手に持つ大槍をユーリス向かって投げ飛ばしました。連戦に続く連戦で既に満身創痍となっていたユーリスは気付くに遅れ、大槍はもう彼が回避できない距離にまで接近していました。しかし、その槍がユーリスを貫くことはありませんでした。ユーリスを押し飛ばし、代わりに腹部を貫かれるペネロープ。押し飛ばされたユーリスは鮮血海へと落ち、そのまま気を失いました。
　気が付くとユーリスは何処かの知らない浜辺に打ち上がっていました。孤立した状況に啞然とする中、最後に聞いた婚約者の言葉「生きて」を思い出したユーリスは独り、目の前の深い深い山林へと歩を進めました。ペネロープと生きてまた会えることを夢見て。

　あの日、ギールの策謀によって一度......須臾の刻とはいえマーフィアの支配体制は一変した。俺を拾ってくれたニンジョー閣下は死に、ギール率いる急進派は革命を果たした。何たる不義か！......今でもニンジョー閣下の墓前には都度シガーを供えている。
　きっとギールにも、このマーフィアを守るという強い信念があったのだろう。だが不義は不義。俺はそれを許さない。シナモン、メイリー、そして......我が忠僕なる奴隷ミルと共に、ギールの野望に終止符を打った。部屋に飛び散る血と臓腑。普段ならばバルバロスの血が騒ぎ高揚するところだったが......その日に限っては心から喜ぶことはできなかったな。
　組織のボスとアンダーボスが一夜でいなくなった今、どう立て直していくか。そんなことを考えていたのはどうやら俺だけだったようだ。決まり切った答え。その視線。部下の期待には応えるもの。あの日を以て、俺はマーフィアのボスとなった。忙しい日々が始まりそうだ。