わたしが生まれたのは、厳しい家だった。
貴族とはいえ、その中でもすごく厳しいところ…だったと思う。
だから、最初に学んだのは、従うことだった。
従えば怒られなかった。聞き分けのいい子だって褒めてもらえた。
なにより、楽だった。だから、これでいいの。

黒い男の人に会った。
黒い髪、黒い眼の男の人。
どこで出会ったかは…忘れちゃった。
その人に頼まれたの。わたしの家の、伝承の書を見せてって。
だから、従った。いつも通りに。
でも、帰ったら騒ぎになってた。伝承の書がないって。
わたしが持って行ったって、全部話したの。…うん、ちゃんと持ち帰ったよ。
でも、ダメだったみたい。なんで家の外に漏らしたんだって、言われちゃった。
だから答えたの。見せちゃダメなんて言われなかったからって。
…怒られた。殴られた。それで、絶縁だって。どこかへ行って、二度と帰ってくるなって。
もちろん、それにも従った。
でも、どこかって、どこだろう。わからないから、ただ歩いた。

気づいたら、寝ていた。
焚火の横で。女の人が近くにいた。わたし、倒れてたみたい。
なんでこんなところにって聞かれたから、歩いてたからって答えた。
どこに？って聞かれたから、どこかにって答えた。
女の人は困ったようにちょっと考えて、行くところがないなら一緒に来るかって聞かれた。
うん、もちろん従ったよ。
それが、わたしの先生との出会い。

それから…二年くらい、かな。
先生にいろいろ教わりながら旅をしてた。
旅の仕方、料理の仕方、戦い方。
全部、言われる通り教わった。
先生はたまに、自分で考えてみろって言ってたけど、わたしはよくわからなくて。そのたびに先生は困った顔をしていたっけ。

ある日、先生が消えた。
目を覚ましたらいなくなってて、置手紙があった。
ただ一言、"使命を頼む"って。
使命については聞いていた。
先生の使命、断つべき運命。少女の開放。
詳しくは…聞いたことなかったから、わからない。
でも、頼むって言われたなら、やらなくちゃ。
……どうやって、だろ。