ゆとシートⅡ for SW2.5 - ゆと工公式鯖

イージリオ - ゆとシートⅡ for SW2.5 - ゆと工公式鯖

イージリオ

プレイヤー:ニック

種族
アルヴ
年齢
18
性別
種族特徴
[暗視][吸精]
生まれ
密偵
信仰
ランク
穢れ
1
12
5
8
3
7
10
9
10
1
成長
21
成長
27
成長
9
成長
5
成長
23
成長
10
器用度
36
敏捷度
46
筋力
24
生命力
19
知力
41
精神力
19
増強
1
増強
2
増強
2
増強
増強
2
増強
器用度
6
敏捷度
8
筋力
4
生命力
3
知力
7
精神力
3
生命抵抗
13
精神抵抗
13
HP
49
MP
46
冒険者レベル
10

経験点

使用
93,000
残り
3,956
総計
96,956

技能

バトルダンサー
10
スカウト
10
レンジャー
10
コンジャラー
9

戦闘特技

  • 《シャドウステップⅡ》
  • 《武器習熟A/スピア》
  • 《薙ぎ払いⅡ》
  • 《変幻自在Ⅰ》
  • 《武器習熟S/スピア》
  • 《マルチアクション》
  • 《舞い流し》
  • 《トレジャーハント》
  • 《ファストアクション》
  • 《影走り》
  • 《サバイバビリティ》
  • 《不屈》
  • 《ポーションマスター》

練技/呪歌/騎芸/賦術

  • なし

判定パッケージ

スカウト技能レベル10 技巧 16
運動 18
観察 17
レンジャー技能レベル10 技巧 16
運動 18
観察 17
魔物知識
0
先制力
18
制限移動
3 m
移動力
48 m
全力移動
144 m

言語

会話読文
交易共通語
地方語(ウルシラ)
魔法文明語

魔法

魔力行使
基準値
ダメージ
上昇効果
専用
コンジャラー技能レベル9 操霊魔法 16 16 +0 知力+2
技能・特技 必筋
上限
命中力 C値 追加D
バトルダンサー技能レベル10 26 16 14
《武器習熟S/スピア》 3
武器 用法 必筋 命中力 威力 C値 追加D 専用 備考
ミスリルスピア 2H 18 -1=15 43 10 17
ブレードスカート 16 10 10 14
技能・特技 必筋
上限
回避力 防護点
バトルダンサー技能レベル10 26 18
防具 必筋 回避力 防護点 専用 備考
ポイントガード 1 1
他1 アイソアーマスク 1
他2 多機能ブラックベルト 1
合計: すべて 19 2
装飾品 専用 効果
ラル=ヴェイネの羽冠
アイソアーマスク
ラル=ヴェイネの金鎖
魔法の発動体(専用化)
スマルティエの銀鈴
怪力の腕輪
背中 野伏のセービングマント
スマルティエの風切り布
右手 巧みの指輪
左手 疾風の腕輪
多機能ブラックベルト
ブレードスカート
軽業のブーツ
叡智の腕輪
所持金
16,885 G
預金/借金
0 G / 0 G

所持品

武器

アールシェピース(組み立て式のもの)
クーゼ(アックスS)
ロングバレル(ガンA)

防具

フルメタルアーマー(金属鎧S)

一般装備品・消耗品

冒険者セット
着替えセット*7

生活費・宿泊費

保存食*7

薬品・ポーション

救命草*4
魔香草*5

冒険者技能用アイテム

スカウト用ツール
魔香のパイプ
MC5点

装飾品

宗匠の腕輪
俊足の指輪
怪盗の足

名誉点
638
ランク

名誉アイテム

点数
冒険者ランク
『ニ舎四房の九人』-50
多機能ブラックベルト20
「彼方から僕らも虹へと」-20
野伏のセービングマント20
黄樹の運び人-30
魔法の発動体専用化100
「夜の闇に紛れた暗躍」-10

容姿・経歴・その他メモ

注意

このキャラクターは暴言・暴力を行うことがあります。

経歴

許嫁がいる(いた)
伴侶がいる(いた)
高レベルの魔法をかけられたことがある

困ってる人を救うため

身体データ

170-11
ALC6

履歴

俺の生まれは、貴族様の治める小さな田舎町。その一角の何軒かが、俺たちアルヴの住んでいい家だった。
快適だったとも。領主さまが直々に許可してくれてたから、そこに暮らす人間やリカントから迫害されずに済んでいたし。ありがたいことにハルーラ様の神殿まで建ててくださって。数日に一度はそこで町民の方から吸精もさせていただけて。
こんないい場所他にはないと住んでるアルヴの誰もが言ってたし、外へ出たことのない俺も多分そうなんだろうと思っていたさ。

俺が15になったときだった。隣の家に住む幼馴染が、俺の許嫁だと告げられた。
俺もあいつも、別に好き合ってたわけでもない。ただ同じ年頃のアルヴが俺とあいつだけだってのはわかっていた。
俺はあいつに聞いた。これでいいのかって。こんなんで俺らの将来が決まっていいのかって。

「私は別に構わないわよ。好きな人がいるわけでもないし。
この町に生まれたんだもの、こうなることは知っていたわ」

そうやって目を逸らすあいつ。嘘つきめ。雑貨屋の長男のことが好きなくせに。

「……ねえ、そうやって私だけ責めるのはやめてよ」

ため息をついてあいつがこっちを見る。
一つ下のくせに、そうやって呆れたような目で見つめてくる。その真っ赤な瞳が、昔から嫌いだった。

「あんたこそ領主さまのとこの息子といい仲のくせに。男同士で気持ち悪い。
とにかく、私のせいにして逃げるのはやめて。自分が嫌なら嫌だっておじさんに言ったらいいじゃない」

また目を逸らされる。腹の痛いところを狙いすましたように刺す口調も、昔から大嫌いだ。
でも一言多かったと後悔してるんだろ。明日には謝りもせずに、アップルパイを持ってうちに来るんだ。馬鹿の一つ覚えみたいに同じことばかりするから、うちの家族はそのアップルパイを見るたびに俺らのことを揶揄ってくるんだぞ。
ああ、畜生。そうだよ。お為ごかしで現実逃避だ。全部人のせい、誰かのせい、誰かのために、お前のために。
そうじゃないと動けない。親父になんて言えるわけない。言ったところで殴られるだけだ。そうだとわかってるから、お前だって何もしてないんじゃないか。

あいつは、とっくに覚悟を決めてたんだろう。
ここで暮らすなら、恋を諦めなきゃいけない。同じ年頃のアルヴと結婚して、子を遺さなきゃいけない。
俺はいつまでも大人になれなかったし、好きなやつだって諦めたくなかった。
それでも、諦めなきゃいけないときが来たんだと。そう言いたいんだろ。

俺の恋人は森の散策が趣味だった。
有事に備えて必ず馬に乗り、護衛をつけるよう領主さまはおっしゃっているようで、これ幸いと俺を護衛に指名してくれた。
ご子息の護衛は他の何よりも優先されたから、俺はいつでもあいつについていけた。
だから俺はこの時も、森の中で別れを告げたんだ。もうこんなことは続けられないんだって。
あいつはさ、丸い顔をしていて、顔に合わせたみたいに鼻も丸くてさ。目は小さくてきょろりとしてて、目の代わりと言いたげに眉が太かった。いつだって優しい顔をしてて、そのときも優しい顔で微笑んで、
「そろそろだって思ってた。ねえ、いつ街を出ようか」
そうやって事もなげに言うんだ。
俺は全然ついていけなくて、なんでだって、どうしようもないことを繰り返した。

「だって、父さんはアルヴ同士の婚姻しか認めてないし。いつかこうなるだろうなって思ってたんだ。
そのときまでリオが僕を好きでいてくれたら一緒に街を出ようって、勝手に決めていたんだけれど。
大丈夫だよ。ちゃんとお金は貯めてあるんだ。旅支度だけ整えて、少し長めの散策をするって父さんに伝えたら、僕らは明日にでもこの町を出れるよ」

まん丸の顔で、その上に丸い鼻と太い眉と、小さな目を乗っけてるくせに、こいつはいつだって俺の欲しい言葉をくれるんだ。

「あとは、リオが僕のプロポーズを受けれくれたらいいんだけど?」

そうやって得意げに笑うこいつを、世界で一番愛していた。

俺はこのとき、幼馴染のあいつも、手を引いてくれるこいつも、気付いたら一足先に大人になっていたんだと思った。
俺が将来なんて考えずにただだらだらと日々を過ごしていた中で、こいつらは未来を憂いて何かを積み重ねていたんだって、自分が恥ずかしくなった。
けど本当に大人だったのは、あいつだけだった。
俺とこいつはただの禁断の恋ってやつに浮かれていただけ。先なんて見えてなかったし、何も考えちゃいなかった。ただ根拠もなく大丈夫だなんてのたまって、手を繋ぐことに酔っていただけだった。

俺らが町を出て1年半。
俺たちは宿を借りて、仕事をして、なんとなくそれらしい生活をしていた。
俺の恋人様は残念ながらお坊ちゃまで、力仕事どころか家事の一つも難しかった。だが俺は元々槍一本でこいつの護衛をしていたこともあり、冒険者の真似事をしてなんとか日銭を稼ぐことができた。
こいつの白くて丸い手が荒れてがさがさになるのが、嫌で仕方なかった。でもこいつはこっちの方が男らしいなんて笑って、苦労を苦にもしない笑顔を見せてくれたから、俺だって堪えられた。
こいつとの最後の記憶は、疲れて帰ってきた俺がベッドに横になって、お疲れさまと言われながら頭を撫でてもらい、おやすみと挨拶をしたところだ。毎日のことだった。ただの日常だった。なぜこの記憶ばかり、擦り切れるほど思い出さなきゃいけないんだろう。彼はきっと望まないだろうが、ただただ呪うばかりだ。

目を覚ますと、自宅、だった。
あの領主が収める、俺が15年暮らしてきた、俺の部屋のベッドで目を覚ました。
頬がひどく傷んだ。触ると熱をもって腫れているようだった。よく見ると腕や腹、足にも打撲や怪我を負っているようで、治療の痕があった。
俺が飛び起きてリビングに行くと、親父が起きたのかと一言言った。家族は俺から目を逸らした。俺はどういうことだと、親父に問いただす他なかった。

彼は、死んだのだという。

俺たちを追い、領主さまは捜索隊を出したのだそうだ。そうして時間はかかったもののやっと俺たちを見つけ、無理にでも連れ帰ろうとしたところ、不慮の事故で彼は死んだらしい。彼が死んだあとの俺は手が付けられなくて、槍を持って暴れるものだから、同行していたもので取り押さえ、操霊術師が俺から彼の死んだ記憶を抜いたのだと、そう説明された。

大嘘つきめ。

知っていた。ああ、知っていたとも。
どうしてこの街に俺とあいつしか同じ世代の子がいないのか。この領主がどうしてアルヴを重宝しているか。
弱みに付け入り汚れ仕事をさせていることも。珍しい種族を好事家たちに高く売りつけていることも。全て知っていたとも。
その所有物に大事な息子を攫われて、領主さまが黙っているわけがない。
きっと殺されるのは俺のはずだった。俺を殺して彼の記憶を抜き取り、家に帰す計画だった。そうじゃなければ記憶を操る操霊術師など都合よく連れているものか。
けど、彼は。
誰よりも優しく、ときに大胆で、予想のできないことをする。俺の愛する恋人は。
きっと俺を、かばったのだろう。
俺が生きているのは、きっと親父の尽力もあってだ。親父は長年汚れ仕事をしてきていたから、人よりも多くの貯えがあった。よく見れば家財が随分と減っている。領主に頭を下げ、同行した操霊術師に頭を下げ、金を吐き出し、俺の命をここまでつないでくれたのだろう。
だがそれを、一欠片だって感謝する気には、ならなかった。

俺は、彼が亡くなるそのときに、彼に何を伝えれただろうか。
こんなことになってすまないと謝れただろうか。日々の感謝は言えただろうか。どんなに伝えても伝えきれないだろうが。
愛していると、伝えられたろうか。
彼は、俺に何か遺したのだろうか。もう俺の中に彼の最期は何一つ遺されていない。ただただそれが、悔しくて呪わしくて仕方なかった。

久しぶりの自室で、ぼんやりと座り込んでいると、外が騒がしくなった。
馬車に乗った憲兵が俺を迎えに来たらしい。
領主さまは俺に何の罪をつけたのだろうか。誘拐か。監禁か。窃盗か。あまつさえ彼を殺した罪を、俺に被せたのだろうか。
復讐しようとも思わない。彼はもう、いないのだから。

ーー彼が昔教えてくれた。
操霊魔法には、死者と対話する術があるのだと。
死んでも会いに行くと言ってくれた彼に、早く会いたい。

設定資料集
経歴

領主の依頼内容について

実際の依頼内容は二人を連れ帰ることであった。
領主は自身の息子を連れ帰り、イージリオを売り飛ばすつもりであった。
領主にとってはイージリオは憎むべき相手でも何でもない。彼にとってアルヴは商品のようなものであり、例えるなら家畜や、競走馬のようなイメージが近しいだろうか。そんなものに入れ込んだ息子を嘆くことはあっても、商品に対して特に思うところはない。ここで種馬にすらなれないというのなら、金にするだけのことだ。

幼馴染

次世代のアルヴに関してはすでに別の男性アルヴを購入済みであり、イージリオの幼馴染にはその男が宛がわれることとなっている。もともと近親相姦で血が濃くなりすぎないよう、定期的に外からアルヴを購入しているため、購入に対してそこまでハードルが高くない。

操霊術師

彼は領主の家に昔から雇われている操霊術師である。
二人を連れ帰る際、特に記憶の操作などは依頼内容に含まれていない。
領主の息子が操霊魔法に対して多少なりとも知識があったのは、この男が領主家の教育係も兼任していたため。

恋人のあれこれ

性的な事情に関する深掘りです。閲覧時はご注意ください。

無知と浅慮と

イージリオと彼の恋人は、駆け落ちをするまで清く正しい交際を行なっていた。
森で二人きりの逢瀬を重ね、手を繋いだこともあればハグをしたこともある。触れるだけではあったがキスもしていたし、吸精はそのほとんどを恋人相手に行っていた。
だがそれ以上には、発展していかなかった。

まずはイージリオが男性同士で行う性の発露なんてものを知らなかったことが一つの要因だろう。
そもそも彼は、性的な知識にひどく乏しかった。
周囲に同年代のものはいたが、アルヴに対して性的な話を振るものも、恋愛感情をもつものもいはしなかった。
彼の育った街では、アルヴに孕まされればどうなるか、大人は子供たちに教え込んでいたからだ。
他種族の女にとってはアルヴとの恋愛は命に関わる話であったし、男たちもアルヴに性的な話をすること自体が悪いことのような気がしていた。アルヴという種族はこの街で疎外感を味合わずにはいられなかった。
イージリオは同性どころか異性との性交渉すらうまく想像できないありようだった。第二次性徴から自然と自慰は覚えたが、それだけだ。
性欲はあった。恋人もいた。だがそのぶつけ方は、知らぬままだった。

またイージリオは平民で、恋人は貴族だった。
恋人はそれを何一つ気にしなかったし、イージリオも気にしていないものと思っていただろう。だがどうしても、彼らの環境はそこにある明確で残酷な差を、忘れさせてはくれなかった。
恋人はたしかに将来の勉強に忙しくはあったが、少しの気まぐれで休憩に出歩くことが容易な立場だった。それに比べてイージリオは家業の手伝いとそのための鍛錬、街の奉仕とその1日の大半は労働に占められる。
イージリオが恋人との逢瀬を続けられたのは、次期領主の護衛がなによりも重要な労働として認められていたからだ。
いつでも気まぐれに会いにこれる彼と、彼に会う日をねだり許してもらう自分。それだけでも立場の違いというのは大きいのに、高級なお菓子を分け与えられ、稀少な本を読み聞かせてもらい、そうやって逢瀬を重ねれば、二人は完全に与えるものと与えられるものの関係となってしまう。
イージリオにとっては恋人は、自分より身分の高い手の届かない存在。彼を性の対象にするなど、おこがましい話だった。
だが恋人は、日々鍛錬を重ね、野生の草木に詳しく、獰猛な動物や魔物に襲われようと怯まず戦うイージリオを尊敬していたし、彼が自分より下だなとと考えたこともなかった。ただその賞賛をどんなに素直に伝えても、次期領主様から護衛への賛美となってしまうのが、彼らにとっては不幸だったのかもしれない。

そうやってイージリオは性への知識も乏しく、恋人を性の対象として見ないままであったから、清い交際になんの不満も持ち合わせてはいなかった。
そして恋人も、イージリオが先を望んでいないのを察して、それを無理強いすることはなかった。彼もまた、アルヴに性的なものを提案したり強要することがいけないことだという環境で育ったものの一人なのだから。

そうして二人は駆け落ちをした。
恋人は領主に探されているだろうこともあり、外へ働きに出ることすら危なかったし、そもそも肉体労働ができるほど鍛えてもいなければ、接客業ができるほど民衆の暮らしに詳しくもなかった。
必然的にイージリオはギルドに通い稼ぎへ出て、恋人は借りた宿の一室で家事をする生活が続いた。

その日の依頼は晩まで村の警護依頼だった。たまたま日中のうちに、畑や家畜を襲う魔物の巣を発見し駆逐できたから、早くに帰還できるはこびとなった。
夕方自室の前に立つと、中から衣擦れと掠れた声が聞こえてきた。それに気付いたのは、斥候としての訓練の賜物だっただろう。なんだが入ってはいけない予感がして、扉の隙間から中を覗き込んだ。二人で暮らしていたが部屋は一部屋しかないものを借りていた。屋敷から少々の資金を持ってきてはいた。しかし日々の稼ぎは少なく、贅沢ができるほどではなかったからだ。だから慎重に隙間から覗き込むと、それを見ることができてしまった。
こちらの服を抱きしめ、口に含み、鼻腔いっぱいに匂いを嗅ごうと呼吸を荒くして、何度も自分の愛称を呼びながら、己を慰める恋人の姿。
イージリオは扉を開けることなく、音を殺して逃げるようにその場から立ち去った。

時間潰しに街をぶらつきながら、イージリオは脳裏に焼き付いた光景に頭を抱えた。彼は恋人に性欲があるなんて思いもせず、その対象が自分であるなんて考えてもみなかった。そんな自身の浅慮を恥じたし、己の鈍さにも愛想が尽きる思いだった。
一度可能性が示されてしまえば、雄として恋人とまぐわいたい気持ちが生まれてはいた。しかし抱きしめてキスをしたとして、果たしてその先は。想像は追いつかず、ただズボンが窮屈で堪らなかった。
晩まで時間を潰し自室に戻ると、いつものように恋人が出迎えてくれた。いつも通りにも関わらず恋人の顔を見るのがどうにも気恥ずかしくて、用意してもらった夕飯を平らげた後は早々に寝床についた。疲れているとの言い訳を疑いもしない彼が、ベッドに潜り込む自分におやすみと口付けてくれるのがひどく切ない気持ちにさせる。熱をもって腫れるそこは、痛いくらいだった。

そうして後日、イージリオは宵の口に娼館を訪れていた。性欲を発散させるためではない。結局のところ彼は、自身の性について誰にも打ち明けることができなかったのだ。
ここにきて、ギルドで働き、信頼できるものも仲の良いものもいないわけではなかった。だがそれでも、いやだからこそだろうか、そんな人たちに男性同士の性交渉についての相談など、のってもらうことはできなかったのだ。
彼は娼館へと入り、言われるままに説明を受け、あれよあれよと部屋に通されて大人しくしていた。そうしていると自分と同じ年頃の女性リカントが部屋へと来て、妖艶な笑みをこちらに向けてくる。
イージリオは急いた様子で女性の手を握り、真剣な眼差しで告白した。
「わりぃ、あの、俺…!! 男同士ってどうやってえっちするのか、聞きたくて、その…!!」
「……冷やかしなら帰って」
その結果、大変冷ややかな目で店舗スタッフを呼ばれそうになったのだが。

彼にとって運が良かったのが、付けられた娼婦が面倒見が良く、それなりに人を見る目も持っていたことだ。
彼女はイージリオがこういった搦手でセクハラをしようとするタイプの男ではないと思ったし、前料金が支払われているのなら時間分くらいは可哀想な若者の相手をするというのもやぶさかではないという気持ちでもあった。
娼婦はイージリオと共にベッドに座り、部屋に備え付けてあるローションや浣腸器を見せながら、性交、口淫、手淫に至るまで時間の限り伝えた。彼女は親切にも、当然といった表情で手淫や口淫を勧めたし、商売逞しく娼館と提携している雑貨店、ようはアダルトグッズの販売店なのだが、そこも紹介してくれた。
イージリオは基本素直で単純な質ではあったのだが、手淫や口淫を勧められると表情を濁らせた。いくら性知識に乏しいとはいえ、異性との性行為では女性器に男性器を挿入することは知っていたし、彼の思い描く行為というのは究極そこだったからだ。手淫や口淫は彼が思うに、足りないよう気がした。それだけでは不完全燃焼のような気がしてならなかった。そのために彼の目指すところはやはり、アナルセックスということになるのであった。

勧められた雑貨屋でグッズを買い、自室に戻って恋人に見つからないよう隠す。そうして考えることは、この道具を使うのがどちらなのかということ。
つまるところ、女役はどちらなのか。
本当であれば恋人と相談しなければならないのだが、イージリオはまたも一人で頭を悩ませていた。
イージリオは男性器を弄るような自慰しかしていなかったし、娼婦に説明されてまず想像したのは自分が男役として恋人を犯すものであった。だがそちらをベースで考えていくと、どうしてもつまづくところがある。
恋人に女役を頼むのであれば、この器具を見せて使い方を説明し、必要であれば使うのを手伝い、そうしてローションで解していく必要がある。その考えに間違いはないだろう。
問題は、恋人にそれをさせることに大変な抵抗を覚える、イージリオ自身であった。その感覚を言葉で伝えるとするならば、恐れ多いにも程がある、といったところだろう。彼にとって恋人とは本来手の届かぬ存在。高貴な貴族様なのである。そんな方に対して俺のちんこを入れるために準備しておけなどと、どうして言えるだろうか。
結果、イージリオは考えることをやめた。どちらが上になるにしろ下になるにしろ、買った道具の使い方を知っておくのは悪くないはずだ。まずは自分の体で試し、それからのことは後で考えることとした。
そうすることで結局、自分が女役になることはわかっていたが、それはわからないふりをした。
さあまずは、恋人が買い物にいっている隙に浣腸の使い方からだーー。

支配的な恋慕は無自覚に

娼館でグッズを購入して数ヶ月。浣腸の使い方は慣れてきたし、後ろも問題なく広がった。
やはりというかなんというか、ここまで解すというのはそれ相応の努力と時間が必要で。イージリオはこのときにはすっかりと、女役は自分がすることになるのだと腹を括ってしまっていた。

そうしてギルドの依頼も軽かったある日。もう眠ろうかという時間に合わせて、イージリオは身体の準備を整えて自室へと戻った。
恋人はイージリオが戻ってくると柔らかい声でおかえりと声をかける。
「明日も早いんでしょ? そろそろ寝ようか」
彼はいつものようにそう言ってくれるが、イージリオはらしくもなく目を泳がせて、恋人の腰掛ける椅子のそばに立った。
「あ、あのさ……」
イージリオは、恋人より少し背丈が高かった。イージリオはアルヴにしては長身だったし、恋人は人間にしては背が低めだった。またイージリオは体を鍛えていたから、彼の方が一回り程度その身が大きかった。
「俺、お前と、その」
その体格のいい彼が顔を赤くして、困ったように眉根を寄せる。一度だけ交わった視線は逃げるように彷徨い、ちらちらとベッドの方へ流れていた。
「えっちなこと……したくて……」
掠れて、小さな声だった。見下ろしているはずなのに視線はさらに下に逃げて、恋人の胸元の方を見ていた。
すぐ返事は来ずに、数秒の間が開く。
イージリオはいつの間にか掴んでいた椅子の背もたれからぱっと手を離し、一歩二歩と後ずさった。
「ご、ごめ、忘れてくれ。な、なんでもなかった」
「ま、待ってリオ。落ち着いて」
恋人はイージリオを追うように立ち上がり、背もたれを失って宙を漂っていた、その大きい手を掴む。
「何かあったの?」
恋人が自身の言葉に配慮が足りなかったと自覚したのは、イージリオが顔もあげずに言葉に詰まっていたからだった。
「あっ、と……、違うよリオ。嫌なわけじゃなくてね、むしろ、その……」
その申し訳なさそうな表情に、恋人は必死に言葉を紡いでいく。緊張で、イージリオを掴む手に力がこもる。
「僕も、リオと……、そういう、こと、したいって、思ってた、けど……」
その声に今度はイージリオが金色の瞳を恋人へと向ける。今度は恋人が目を逸らしていたため、二人の視線が合うことはなかった。恋人の頬にも、はっきりと朱が差していた。
「でもリオは、そういうのしたいって、思ってなさそうだったから……。僕の勘違いならいいんだ。でも、何かあったのかなって」
その言葉に、イージリオは喉を鳴らす。
「だ、って、お前」
脳裏に浮かぶイメージ。それを伝えんと、乾いた喉で必死に話す。
「一人で、してたから……」
取り繕い、それらしい理由をつけてやる方が、恋人には親切だったろうに。彼はぎょっとした顔をしてイージリオの方を見た。
「なら、俺と、したらいい、だろ……」
その小さな瞳に、両目をぎゅうと閉じて俯いている赤髪のアルヴが映る。
自分も羞恥で唇が震えたが、彼の手も同じくらい震えていた。自分も顔を赤らめているが、目の前の彼も耳まで赤くなっていた。
「リオ」
恋人が優しく声をかけながら、イージリオの頬を撫でる。イージリオが固く閉じていた目を開けると、ひどく近い場所から、恋人が顔を覗き込んでいた。
「キス、してもいい?」
その近さに心臓の鼓動が早まる。
したらいいだろ。
そう答え終わるか否かで唇を塞がれる。あまりこういった急くようなキスはされたことがなかったから、びくりと怯えるように身体を震わせて、身を硬くした。
呼吸を止める。いつもするキスより、長い気がする。だがそれでも息が苦しくなるほどではなく、恋人が離れていく。
「リオ、ベッド行こうか」
その言葉に頷くことしかできない。手を引いてもらい、彼が座る隣に腰掛ける。
いつもそうだった。自分がリードしようと思っても、気付けば手を引かれている。森で逢い引きしていたときも、駆け落ちしたときも、そして今も。先へ進めてくれるのはいつだって彼の方だ。
「ねえ」
片手を繋いだまま、また頬を撫でてもらう。少し荒れてしまっている手のひら。そこに首を傾げて、自らも頬をすり寄せる。
「えっちなことって、どういうことをするのか」
幼子にかけるような、ゆっくりと優しい声音。指先がゆるゆると動く。頬を撫でて、唇に指を這わせて、下顎の柔らかい部分をなぞられる。ささくれだった指先が、ちくちくとする。
「リオ、知ってる?」
その優しい問いかけに、一際大きく心臓が高鳴った。
「あ、俺、ちゃんと調べてきた…!」
興奮するような、焦るような声色で、雰囲気もなくぐっと恋人へと詰め寄る。恋人は面食らった顔をして、押されるままに身を引いた。それをいいことに肩を掴み、力で恋人の身体をベッドに押し倒す。
「り、リオ…!?」
「大丈夫だから」
慌てる恋人を尻目に、肩を掴んだのとは逆の手を恋人の身体へと伸ばした。その手は迷うことなく、ズボンと下着を引っ掛けて、そのまま脱がそうとする。
「ちょっと、ま、待って…!」
そうやって慌てる恋人が、させまいと手を伸ばして自身のズボンを掴む。困惑で八の字に曲がった眉と、恥じらって赤く染まる顔。
この表情に、ぞくりと本能が刺激される。下着の中で一物が脈打つのを感じる。本能だと、馬鹿らしい。これから本能とは外れた行為をするというのに。
「なあ」
甘えるような声を出しながら、恋人の手を撫でる。
「信じろって……」
固く握り込まれた手を、解かせて、握り込んで。そのままベッドに縫い付ける。観念したように目を逸らす恋人。満足げにそれを見下ろしながら、下を脱がせた。露わになった陰茎はすでに半勃ちで、感嘆と安堵に息をつく。よかった。自分でも彼は興奮してくれるらしい。
「ん…」
片手でそれを支え、身をかがめて先端に口付ける。口を開けて、舌を這わせる。先端に唾液を垂らして、そのままぱくりと咥えやる。歯を当てないようにと気をつけながら、舌を絡めて咥えこむ。苦し気な息遣い。根元まで咥えるとえずいてしまい、慌てて身を離して半分ほど外へ。一度口から離すが、熱を冷まさないようにと、先端、雁首、竿へ口付けて、咥えず根元に舌を伸ばす。根元から先端へ、先端から根本へ、ゆるゆると舐り、濡らし。そうやって陰茎全体を唾液で濡らすころには、そこは完全に臨戦態勢に仕上がった。
「リ、リオ…」
呼ばれて見上げると、恋人は何か言いたげにこちらを見下ろしている。
「よくなかったか…?」
「あ、いや、気持ちいいよ…」
うまくできたのではと一息ついていたところだったのだが。思うところのある瞳に首をひねらせる。すぐに思い当たる節を見つけ、「あ」と小さく声を漏らした。
「大丈夫だって」
イージリオは歯を剥いてにっと笑ってみせた。それはただの強がりだったが、誤魔化すように勢いよく上体を起こし、
「準備、してあっから……」
自分のズボンと下着も脱ぎ去る。恋人の上に跨り、性器を優しく掴んで自ら腰を揺すって、その位置を調整しようとする。
「ちょっと!? そんな、急に……!!」
腰を引いて、自身も身を起こそうとする恋人。さすがに暴れられてはと、また肩を掴んでベッドに押し付ける。
「わ、わるい、でも……!」
前屈みになったおかげだろうか、押し倒すと同時に、運よく位置に当たりがついた。あとはゆっくりと腰を押し付けて、
「本当に、大丈夫、だから……」
ずるりとそのまま、根元まで飲みこんだ。
初体験の感想はというと、苦しくて異物感が激しいというものであった。歯を食いしばりながら、楽になりたくて荒く何度も息を吐く。しっかりとローションで慣らしていたのと唾液による滑りで、痛みもなく挿入できたのだから、まずは上出来というところだろう。
「リオ」
恋人の瞳が、熱に浮かされていないことを除けばだが。
腕一本分の距離。ベッドの上からこちらを見つめる瞳に、心臓が怯えるように跳ねて身をすくませた。思ったよりうまくできているはずだ。きちんとリードできていると思う。やっぱり自分とはしたくなかったのだろうか。でもしたかったって、言っていたし。ぐるぐると心配事で頭がかき回される。

彼の前だけだ、イージリオがこうして叱られる子供のような態度を取るのは。
彼はどちらかといえば単純な質で、わかりもしないことは考えないし、思い悩むよりは聞いてしまうのが楽だという思想の持ち主だ。
そんな彼が顔色を伺ってしまうのは、厳しい父でもしっかりものの幼馴染でもない。恋人である彼だけだけだった。
それはこれが身分違いの恋で、彼が貴族で、何よりも敬うべき領主さまのご子息で、自分はその領民でと。これも要因ではあるだろうが……。
結局のところ初恋なのである。
絶対に嫌われたくない。自分がふさわしくないなんてことはわかっている。重々承知だ。だから背伸びして、下駄をはいて、先回りして。できるかぎりよく見られたい。離れたくない。
無理をすればするほど不安だった。彼には選ぶ相手が数多いる。自分よりふさわしい相手が星の数ほどいる。だが自分には彼だけなのだ。失望されたくない。愛してほしい。自分だけを見てほしい。

そんな自分には気付いていた。
ただ相手も同様に考えるものだという思考には、至らなかった。

「この準備って、全部一人でしたの?」
「ぇ、あ……」
間違えられない問いだと、イージリオはそう思った。怯えから一拍間を空けたが、こくこくと首を縦に振る。
恋人が身を起こす。今度は無理やり押さえつけることなど、できるわけもなかった。
「誰かに、教えてもらった?」
彼が身を起こすと、イージリオも怯むようにその身を後ろに下げる。だが離れるには限界がある。未だ繋がったままなのだ。
真っ直ぐにこちらを見てくる恋人の瞳。それに応えなければいけないのに、視線は彼から逃げるようにふらふらと泳いだ。
「わ、かんなかったから、娼館に行って…」
「娼館?」
恋人の片眉が、ぴくりと動く。
「ち、違うって!!」
そこでやっとだ。イージリオが何を聞かれているのか察したのは。
「何にもしてない!! ただ娼婦の姉ちゃんに、男同士のやり方聞いただけだって!!」
両手で恋人の肩を掴んで、泣きそうな目で必死に弁明する。
「やり方聞いて、道具も必要だって、ローションとか色々買って、売ってる場所とかも教えてもらって、それだけ、まじでそれだけだから……!!」
「落ち着いて、リオ」
恋人が手を伸ばして、イージリオの頭に触れる。その声に先ほどまでの厳しさはなく、いつものような優しい声色だった。
「ごめんね、大丈夫。リオが一生懸命なの、よくわかったよ」
抱きしめて、頭を撫でて、背中をさすって。恋人のその声に、その優しい手のひらに、強張っていたその身の緊張を解く。身体を小さく丸め、恋人の肩口に顔をうずめた。
「慣れてるように、見えたから……。それでびっくりしたんだ。ごめんね、失礼なことしたね」
なだめるように、落ち着けるように、腕の中でよしよしと撫で続ける。

恋人は別段、イージリオの浮気を疑ったというわけではなかった。彼が神経質になったのは、イージリオがその純朴さから、食い物にされているのではと思ったためだ。
それは自分が愛されている自信からくるものというよりも、イージリオの嘘を吐けない性格を信用しているからだ。彼が他の誰かに浮ついた感情を持とうものなら、平常を装えるわけがない。少なくとも自分には。
ならば気にするべきは、彼を騙して食い物にする存在。練習だ、恋人のためだと自分も触れていない身体に誰かが触れたかも知れないと考えるだけで、感情が抑え込めそうになかった。
イージリオの想像以上に、彼は独占欲の強い男なのだ。そうでなければ立場を捨てた駆け落ちなどするものか。彼の立場であれば、適当に子を成したイージリオを屋敷に迎え入れ、飼い殺すことだってできたはずなのだから。
そして付け加えるならば、イージリオのそこは、挿入に対してぴくりとも反応しなかった。これで自分に内緒で遊びまわっているなどとは、到底思えなかったのである。

「すげえビビった……」
顔を上げずにされるがままになりながら、甘えるように抗議の声を出すイージリオ。その様子に含み笑いをしながら、力を込めて抱きしめて、
「びっくりさせたね。ごめんね」
優しく耳元で囁く。
「顔を上げて、リオ」
そういうと素直に顔を上げてくれる。頭を撫でていた手のひらで、頬を撫でる。
「仲直りしよ」
恋人がそう言うと、慣れた様子で恋人の顎に手を添えて、イージリオは口付けた。その様子だけで、いつもの儀式なのだということが窺い知れる。短い口付けを終え、鼻がこすれるような位置で、恋人を見つめながら、
「……許してやる」
拗ねた口調でそう言った。恋人はこのイージリオの強がりが、可愛くて仕方なかった。

頬を撫でていた手。恋人はそれを、するりとイージリオの耳へ移す。
「なんだよ…」
イージリオの不思議そうな声に、適当な相槌を打つ。くすぐったかる様子すらない。
「リオ、そのままね」
そう言い含めて口付ける。角度を変えながらバードキスをして、最後に長めに口を塞ぐ。そうしてすぐに気が付く。イージリオが、キスの間ずっと呼吸を止めていることに。そっと顔を離すとゆっくりと息をし始める。肉体仕事をしているのだから、肺活量も人より多いのかもしれない。
「なあ……」
不安げで、急くような表情のイージリオ。
「動かなくて、いいのか……?」
「んー……」
もぞもぞと、腰を揺するような仕草。それにも曖昧な返事をして、イージリオの肩を押す。彼は特に抵抗なく布団に横になってくれた。
「じっとしてて」
不安そうな視線は無視して、さらに手を這わせていく。首筋を撫でて、鎖骨、胸筋に触れて、胸の中心に触れる前に、
「なあ……!」
羞恥に表情を曇らせて、イージリオが声を荒げる。
「俺はいいって……」
何をされているのか合点がいったようだ。だが乱暴に恋人を止めることはしなかった。ただ気恥ずかしそうに身を捩る。
「んー……、でも」
イージリオの言葉を聞いていないのか、柔らかいそこをふにふにと指先で押す。イージリオは嫌がるように眉間にしわを寄せるが、そこに羞恥以上の何かはなさそうだ。
「リオにも、気持ちよくなってもらいたいし」
そうは言うものの、手ごたえは薄い。元々感度のいいタイプではないのだろう。するすると腹筋に手を這わせて、自分とは異なる、分厚い身体に息をつく。
這わせていた手をベッドについてキスをしようと身を乗り出すが、イージリオが息をつめたためぴたりと身体を止めた。その様子を上から観察する。何度も息をついて、荒く呼吸を繰り返すイージリオ。下腹部に体重がかかって辛いのだろう。そろりと身体を戻すと、安堵が顔に出てしまっていた。
難儀な状態だと、恋人は頭を悩ませる。開発もされておらず、感度の良くない身体。日頃からしていたキスには心地よさを感じているようだが、この体勢では苦しさの方が勝ってしまう。さて、まだ触れていない場所とすれば。驚かせないように胸を撫でて、腹筋へと流す。そうして足の付け根、そこから萎えている陰茎を撫でるが
「ぃ……!!」
指先で先端を撫でると、びくりとイージリオの身体が跳ねる。
「ごめん、リオ。痛かった?」
「……平気」
水仕事で荒れて、ささくれだった指先。めくれ上がった皮膚が刺さったのかもしれない。どこまでも不自由で上手くいかないものだと、困ったように眉を寄せてしまう。せめてもと、指の腹ではなく爪側、背の部分でゆるゆると撫でる。これでダメなら、打つ手はないが。
「っ……」
イージリオが嫌がるように身を捩る。その仕草を裏切り、それは少しずつ固さを帯びて勃ち上がっていく。
イージリオは、自分が恋人のものを咥えて勃たせたときは安堵したし嬉しかった。だが立場が逆になるとひたすらに羞恥が際立って、恋人の方を見れなくなる。恋人も恋人で健気、というにはいささかグロテスクなそこが、更なる刺激を求めて震えているのを、どうしたものかと見下ろしていた。握って扱いてやりたいのはやまやまだったが、この荒れた手のひらでは痛みが出てしまうだろう。まるで猫を撫でるように、いやそれよりも弱い力で、愛でることしかできそうにない。
「リオ」
羞恥で逸らされた眼を、自分に向けさせる。
「自分で、できる?」
恋人の瞳は常とは異なり、熱に浮かされているのが見て取れた。言われた意味が分からずに答えに窮していると、恋人はイージリオの手を取って、彼自身のものを握らせた。
「なんで……、俺、いいって……!」
「リオにも、気持ちよくなってもらいたいから」
再度そう言い含めて、握らせた手の甲を指先で撫でる。
「僕の手じゃ、痛いかもしれないでしょ?」
撫でられた肌が、さりさりとする。
「ね?」
「…………次は、しないからな」
恋人のお願いを、断れたためしはないのだが。意地を張ってそう言って、結局は了承してしまうのだった。

右手で扱いて自分を慰めるなんていうのは、もう何度となくやってきたことのはずなのに。尻に一物を埋めたままするのは、常と違う心地がして、歯に衣着せぬ物言いをするのであれば気持ちが悪かった。それに恋人を見上げると、その糸目から見える小さな瞳と、必ず視線が交わるのだ。これで羞恥を感じないものなど、いるわけがなかった。
だが自分の身体のことだ。どこをどうすれば気持ちいいのかなんてわかりきっている。続けていればたまらなくなって、身体がじんわりと汗ばむ。呼吸は荒くなって、欲に溶かされた情けない顔をしているのが自分でもわかる。
丁度そうやって性欲に何もかもが引っ張られそうなときだった。
「うっ……!?」
恋人が、腰を軽く引いたのは。
「ローション、足した方がいいかな」
このまま抜いてしまうのかとも思ったが、恋人はこちらの内腿あたりをさすりながらそんなことを言ってくる。
「リオ、どこにあるのか教えて」
身体を弄られたときから思ったが、手つきがいやらしくてこちらが恥ずかしくなる。せっかく忘れかけていた羞恥を思い出さされる。
「鞄の、中……」
ベッドの足元に他所行きの鞄が転がっている。いつもであれば依頼を受けるとき用の道具が入っているだけなのだが、今回はそれに加えて浣腸器やローションも入れていた。部屋に個人用のトイレなど付いていないのだから、仕方ない話だ。
運がいいことに、恋人が大きく体勢を変えずとも、手を伸ばせば鞄をとることができた。中を漁り、それらしい瓶を取り出してイージリオに確認する。イージリオは肯定するようにこくりと頷いた。
鞄を床に戻し、瓶の栓を抜く。それをイージリオの陰茎に、直接垂らしていった。
「こっちはいいってぇ……」
弱りきって眉を八の字に歪めるイージリオ。それに対していいからとローションを垂らし続ける恋人。彼は満足するまでそこに垂らした後、自分の手のひらにローションを取ると、ゆっくりとイージリオの中から陰茎を引き抜く。そして自分自身にたっぷりと塗りたくって、どろどろになった先端をまたそこへと押し当てた。
「挿れるよ……」
水音を立てながら、ゆっくりと埋め込まれる。他人の意思で、他人のペースで沈められるそれは、さっきより異物感が強い気がする。その癖遅すぎるくらいのペースから身体を気遣われてるのが察せてしまえて、こちらを見下ろす視線から興奮が見て取れて、先程とは違うむず痒さが刺激される。
「リオ」
羞恥に耐えていたところに、声をかけられる。
「手、動かして」
それは恋人にとってお願いだった。だがそんなことイージリオには関係がない。断るという選択を、ほとんど放棄してしまっているのだから。
命令、とさほど違いがない。
「っ……」
摩擦の少なくなった陰部から、ぐちゅぐちゅと恥ずかしい水音が漏れ出す。ローションを使う前より刺激が弱くて、手の動きが早くなる。恥ずかしい。恥ずかしいことをしている。この恥ずかしい姿を、見下ろされている。
じっとこちらを見ながら、ゆっくりと腰を進める恋人。根本まで挿れると今度は入口まで引き抜いて、また根本まで差し込んで。こちらを舐めるように見つめながら、徐々にスピードを上げて腰を動かしていく。
これは、これはなんだ。これが性行為というものなのだろうか。自慰をしている感覚と近くて、それでも明らかに異なっていて。いやらしい水音と二人分の荒い吐息。腹の中を揺さぶられる気持ち悪さ。陰茎の刺激が気持ちよくて、恋人の視線に羞恥が駆り立てられる。いつもと同じはずの快楽に、いつもと異なる感情と感覚が絡みついて、妙な心地にさせられる。想像していたような極上の快楽や、愛情の上位互換のような、そういった幻想とは違う。恥ずかしくてやめたいのに、気持ちいいからやめたくなくて、気持ち悪いからやめてほしいのに、気持ちよくなってほしいからやめてほしくなくて。感情がかき乱されて、バラバラと崩れるようなのに、その上粘性の高い何かに絡めとられて一つに包まれているような。一概に言いようもなく、うまい例えも見つからない。今自分が必死にマスをかきながら感じているこれは、そういった何かだった。
「リオ、リオ……!」
身体を倒して、こちらを覗き込みながら、恋人が自分の愛称を呼ぶ。
「イきそ……、リオ、リオは……? リオもイけそう……?」
絶頂はまだ遠いような気がしていたのに、その切羽詰まった声を聞くとぞくぞくとする。耳や目は、生まれつきいい方だった。熱っぽい目でこちらを見下ろしながら、上擦った声を上げる恋人。彼に頬を撫でられるとこちらまで熱が上がるようだ。
「ん……、もう、ちょっと……」
「うん……っ、ごめ……、先、イくかも……!」
そう言いながら必死に腰を振っている恋人を見上げると、ただただ愛おしさが募る。
「イけよ……、大丈夫、いつでもきて、いいから……」
手を伸ばして恋人の頭を撫でる。猫っ毛の黒髪が指に絡む。そのまま力を入れて抱き留めた。鍛えた胸板に顔を埋められると、熱い吐息がくすぐったい。
「うっ……、はぁ……、はっ、イく、イく、出しちゃう……!」
必死になって腰を打ち付けてくる恋人が、可愛らしくて仕方がない。苦しさには大分慣れてきていた。そんな恋人の様子を、息遣いを、声を、興奮の材料にして、ローションか先走りかわからなくなってきた液体で陰茎を何度も擦り上げる。そうやって、快楽で思考がふらついて、前後不覚になる前に、
「っ……!」
恋人が一番奥に腰を打ち付けて、射精していた。腹の中で陰茎が跳ねる。娼婦の女から、腹の中に出さないように言われた気がする。
だが、これは。
こちらの体に擦り寄って、孕みもしない身体の奥に種づけようとぐりぐりと腰を押し付けて、荒い息を吐いて、潤んだ目でこちらを見上げて。
愛するもののこれを、止めれなどしなかった。
「よかったか……?」
目を細めて、射精が落ち着いてきた恋人の頭を撫でる。不安はなかった。恋人の様子を見て確信していた。だからこれはただの自己満足の確認行為。言葉が欲しいだけのわがままだ。
「気持ちよかった……」
それに対して、表情を緩めて返してくれる恋人が、ただただ愛おしい。
「ねえリオ……、リオも、このまま……」
まだ固いそれを押し付けながら、恋人がこちらの手の甲を撫でる。言葉で返事はしなかった。ただ促されるまま、見下ろされるまま。右手を動かし扱いて、自分自身を慰める。目を逸らしても視線を感じた。羞恥で顔が赤らむ。快楽に思考が曇る。切なげに眉が寄り、何度も短く息をつく。水音が静かな部屋に響いて、頭がくらくらとする。腹筋に何度も力が入りぴくぴくと動くのが、射精感が高まって陰嚢が迫り上がるのが、恋人に見られているのだろうか。
「っ……!!」
嬌声を上げることはなく、奥歯を噛み締めながら射精した。手のひらの中に精液を閉じ込めて、理性が降りてくる寸前。
「リオ、すごく可愛かったよ」
ありがとう。
そう言いながら恋人が額にキスを落とし、腰を引いてもう萎えたものを引き抜いた。異物感がなくなる瞬間の心地良さに、熱い息を吐き出す。

従順な愛情は無自覚に

腰を揺すって、自分の陰茎を相手の陰茎に擦り付ける。ローションも使っていないのにお互いの先走りでひどく滑りがいい。ベッドに横になった恋人が、切ない声を上げながら自分を見上げている。
今日は恋人がベッドに転がり、その上にイージリオが覆い被さっていた。
自分の中に必死に陰茎を擦り付けている恋人も可愛らしかったが、こちらの腰遣いで身を捩る彼にも、ひどくそそられるものがある。
「リオ」
熱に蕩けた表情で、恋人がイージリオを見上げる。
「ちょっと待ってね……」
そう言いながら恋人は、そっと右手を重なり合った陰茎へと伸ばした。以前は水仕事で荒れていたその手。初めてのあの夜から、彼は指先が荒れないようにとハンドクリームを愛用していた。それが功を奏し、駆け落ちする前と全く同じとは言えないものの、行為の邪魔にならないくらいに手荒れは改善していた。
「っ……」
二本をまとめて軽く撫でて、その先端に手のひらを擦り付ける。どちらとも付かない詰めた息遣い。陰茎と同じぬめりをもった右手で、両方を優しく握り込む。
「続き……、腰、動かして……」
合わせるから
何を何に合わせるかなど、聞くだに野暮というものだ。ゆっくりと、先程と同じように腰を揺すっていく。
「っ、……は、ぁ」
柔らかい手の感触。手のひらや指先で直接刺激したり、敏感なところがより強く擦り合うように押さえたり。自らの腰遣いだけでは得られなかった快楽に声を震わせて、夢中になって擦り付ける。
「あっ、リオ、はげしっ、すぎ……!」
今度はイージリオの動きに恋人が抗議するような言葉で鳴いた。その可愛らしさ声に、動きを緩めるどころか更に速めて応える。小さく嬌声の響く部屋で、熱に澱んだ瞳と熱に蕩けた瞳が交差する。
「イっ……、イっちゃう、リオっ……!」
強い刺激に、添えた右手はもはや器用に動かない。ただ竿を包み込んで、擦り付けられるままである。ふいに右手に力が入る。予期しない刺激に、イージリオが喉奥で息を詰めた。
「ぅ……、ぁ、あぁっ……!」
強い締め付けの中で腰を押し付け、恋人の腹の上にたっぷりと射精した。快楽の波が落ち着いた頃、ぼんやりと恋人を見下ろす。どうやら右手が強張ったのは彼が先に射精したからだったらしい。自分の下で頬を赤らめて荒い呼吸をする恋人が見えた。その腹には、自分だけではないだろう量の白濁液で汚れている。

「付き合ってくれてありがとう、リオ」
自分の腹を濡れたタオルで拭きながら、恋人は笑顔で礼を言った。
「こういうやり方もあるって聞いたことがあって、試してみたかったんだ。
ねえ、リオどうだった? 気持ちよかった?」
恋人の言葉に、曖昧な相槌を打つイージリオ。良くも悪くも、嘘がつけない性格だ。恋人の前ではと、枕詞がつくが。気持ちよかったか? それはもう、ものすごくよかった。気持ちよさだけでいうなら今までで一番だったかもしれない。
だがどうしても、不完全燃焼なのだ。
別段犯されたいという強い願望は抱いていない。尻で強烈な性的快楽を感じたこともない。それでも。それでもどういうわけか。それをしないとセックスをしたという気持ちにならない。どうしてなのかは、イージリオ自身にもわからなかった。
それは性行に対する第一印象から抜け出せないせいかもしれないし、恋人に気を遣わせているという後ろめたさからかもしれない。はたまた娼館にまで行き、数ヶ月かけて準備までした身体を惜しんでいるのかもしれなかった。
そして顔に「足りない」とはっきり書いてあるイージリオを見て、恋人は困ったような嬉しいような苦笑いを浮かべるのである。彼はただ、イージリオの体に負担がかからず、一緒に気持ちいいと思えるような行為がしたいだけなのだが。
「リオ」
優しい声色で、声をかける。腹を拭いたタオルは、適当な洗いカゴに放った。
「続き、しようか」
その言葉を聞いてぱっと表情が明るくなる。そういった素直なところが愛らしいと、恋人は常々思っていた。
「あ、あぁ……! 仕方ねえな、ちょっと準備してくる」
そう言いながら服を着るイージリオに、恋人が声をかける。
「リオ、今日は僕が慣らしてみてもいい?」
その言葉にイージリオは怪訝そうな顔を向け手を止めた。下着とパンツは履いていたが、シャツは袖と頭を丁度通したところで、鍛えられた腹筋が露わになったままだ。
「慣らすって、お前が?」
「うん」
「……俺のを?」
「うん」
確認して、改めて顔を顰めるが、「だめかな?」なんて困った表情で見つめられれば、「別にいいけど……」としか返しようはなかった。
半端になったシャツの裾を引き、道具が入った布袋を掴んで部屋をあとにする。

「なあ、面倒なだけだぞ?」
「そんなことないと思うけどな」
ローションを手渡しながら、やはり何もわかっていないとイージリオは思った。きっと物珍しさもあるのだろう。あとは気持ちよくさせられるという男としての自信か。だが自分の身体は自分が一番よくわかっている。
俺はこっちでよくはならない。
やり方を教えてくれたリカントの娼婦も言っていた。感じるようになるのは難しいと。だから手淫や口淫を勧めていたのだ。
だからきっと恋人の気遣いは徒労に終わる。ただ広げるだけの作業になってしまう。そのことが申し訳ない。でも本人がやりたいというのだから、イージリオにはどうしようもないことだった。
願わくば、恋人が早くこのことに気付いてくれますよう。

ーーはたして、わかっていなかったのはどちらなのか。

二人の部屋は基本質素な作りであったが、それに不釣り合いな大きめのクッションがベッドには転がされていた。ここで暮らし始めた最初の頃、恋人は慣れない家事に身体のあちこちを痛めていた。それを見たイージリオが、少しでも楽になればと買ったものがこのクッションだ。しかし貴族といえども10代の青年。クッションに頼るよりも身体が生活に慣れる方がはるかに早く、結局クッションは枕の代わりとしてベッドが定位置となった。
イージリオは特にそのクッションついて思うところなどなかったが、今まさにここにこれがあってよかったと、過去の自分に感謝していたところだ。
恋人に促されるままうつ伏せになり、軽く足を開いて膝を立てていた。どうやらこの体勢が、ほぐすのには適しているのだという。言われるがままにしてみるとかなり恥ずかしい格好だったが、渋々という調子で腰を上げていた。

大きめなクッションを両腕で抱きしめ爪を立てる。漏れ出そうになる声を、クッションに押し付けることで抑える。訳が分からなかった。感じるはずなどないのに、後ろを弄られると、前まで快楽が響く。触られてもいない場所からだらだらと先走りが流れ、股を濡らしているのがわかる。
「〜〜〜〜〜ッ!!」
背筋を駆け上がる快楽。前までどころか脳天まで貫かれて。身体をのけぞらせて、クッションに思い切り顔面を埋める。酸欠なのか、視界が点滅する。上気した肌の上、そこを汗が伝う。涙が溢れそうになるのが情けなくて、歯を食いしばり必死に堪えた。
「リオ」
前後不覚になった頭に響く、優しい声。
「ねえリオ、今度はイけた?」
熱でぼんやりとした思考。なぜ恋人が、こうやって何度も確認するのかがわからない。恋人の方がよく見えているだろうに。
そう思いながら、イージリオは首を横に振った。
その返事に弱りきった顔をするのは恋人の方だ。イージリオの反応を見るに、そう下手な愛撫をしているわけではないと思うのだが。これでも絶頂には今ひとつ足りないらしい。もしそうならイージリオを大分生殺しにしてしまっていた。前も一緒に扱いてやればすぐイけるだろうが、あと一歩でメスイキさせれるのではと欲をかいてこの様だ。
そう思いながらも、前には手を伸ばさず後孔に入れたままの指をまた蠢かせる。奥まで突っ込んだそれをゆっくりと引き抜き、入口の柔らかさを確かめるように広げる。指の太さに広がっていたそこが、強い抵抗もなく形を歪ませた。かなりの時間をかけて慣らしたおかげだろう、柔らかくなった肉はこちらの動きに従順で、ひゅくひゅくと緩く律動を繰り返していた。イージリオのふうふうという息遣いが、苦しいのか気持ちいいのか判断つかず少しだけ不安だ。
一度は浅く引き抜いた指を、また肉壺に埋めていく。折り曲げて、その指先や関節で内部を押して確かめながら、丁寧にゆっくりと内を暴いていく。
びくんと身体が跳ね、腰が逃げる。
再三痛ければ言うようにとイージリオには伝えておいた。何も言わないのだから、痛みによる反応ではない。左手で腰を掴むと、こちらで引き寄せる前におずおずと姿勢を改めて、身体を差し出してくれる。そういう健気な姿に愛情を募らせて、もう一度弾力をもったそこを優しく押しつぶす。今度は逃げないよう自分で身体を抑えつけているのか、背中を反らせながら腰を艶めかしく揺らしていた。びくびくとこちらの動きに合わせて痙攣し、指を咀嚼するように締め付けてくる。最初に壁の薄さを指摘してから、声は聞かせてくれなかった。
声は聞けなくとも反応でわかる。やはり前立腺が一番気持ちよさそうだ。内壁も大分丹念に愛撫しておいたから、どこを刺激しても甘い反応が返ってくるが、イかせると考えればここを重点的にゆすってやるのがいいだろう。ゆるゆると指をピストンさせて、入口から奥まで優しくこねる。
「ふっ、ゔ、ゔゔぅ……!」
リズミカルにとんとんと叩いていると堪えきれなくなったのか、唸るような声をあげてまた腰が逃げた。片手で引き寄せながら、リズムを速めていく。僕に気を遣ってずっと身体を抑えつけているのが目に見えてわかった。抑えきれずに噛み殺しきれない悲鳴を上げて、身を捩るのも。
ひどく、煽情的だ。
長身で力も強く、魔物にすら怯まない彼が、自分の下で乱れて組み伏せられる。垂涎ものの光景だ。イージリオに中イキまで覚えてほしかったが、一晩でここでこれだけ感じられるようになっただけ僥倖じゃないだろうか。たとえイージリオがイけなかったとしても、絶頂にこだわらずこの後は抱いてしまおう。恋人は性欲が旺盛な方ではない。それでも愛するものがこうも欲に溺れる様子を見せられて、何も思わないほど淡白でもなかった。
ふいに、強く指が締め付けられる。身体を強張らせ、先ほどよりも強くクッションを抱きしめていた。イっているように見える。けれど先ほどから、この程度の反応はさっきからよく見ていた。声をかけようと口を開くより前に、イージリオの身体から力が抜ける。
「え、リオ!?」
そのままベッドの上に、横向きに崩れた。律儀にクッションは口元にあてたまま、荒い呼吸を繰り返している。半分程度閉じられた瞳は潤み、ぼんやりとどこかを見ていた。
意識が飛んでしまっている。
何度か呼びかけて揺すってみるが、反応は薄い。だがどうしてもすぐに確かめたくて。やりたくはないのだが、仕方ない。
「……イージリオ」
愛称ではなく、名前を呼ぶ。イージリオは即座に目を見開いて、片手をベッドについて身を起こそうとした。それを手で制して、ベッドに横にさせる。
公私を分けるために、恋人としての呼び方と領主の息子としての呼び方は変えていた。こちらの呼び方をしないのはイージリオが萎縮してしまうのが申し訳ないというのもあるが、本音を言えば恋人としての呼び方より強く反応するこれが、好きになれなかったからだ。
「リオ、気持ちよかった?」
呼び方を戻してもまだ困惑の表情だった。名前を呼ばれた緊張が抜けないためだろう。質問にこくりと頷くのを見ると、緊張だけでなく快楽も抜け切れていないようだ。
「もっと、してほしい?」
そう言いながら股座まで手を伸ばし、倒れた拍子に抜けてしまった指で穴をなぞった。イージリオの喉から引き攣った悲鳴が上がる。指を怖がって腰を引いて、ベッドの上で身体を丸めていた。
「もう、いい…!」
いらない。
首をふるふると横にふっている。怯えたままの視線は彷徨い俯いて、こちらを見ようとはしなかった。その答えに、全ての合点がいく。
「リオ……!」
あまりの嬉しさに、両手を挟むように頬に添えて、真っ黒な瞳と目を合わせた。
「リオ、イってたんだね」
「は……?」
イージリオは理解できないといった表情で、何度も瞬きしていた。
「イ、イってないだろ……!?」
パニックを起こしたのか、こちらの手を掴み身を捩っている。再び逸らされた視線。その先には、未だ精を吐き出せずに硬いままの陰茎が、ひくひくと震えていた。
「……そうか。リオ」
優しく頬を包み込みながら、ゆっくりと声をかける。
混乱した彼でもわかるように。
無垢な彼でもわかるように。
「お尻でイくときはね、射精しないことがあるんだよ」
それでも理解できないのか、イージリオは口を開けて、こちらを見るばかりだった。
「ねえリオ」
わかっているのだ。本当はもう休みたいだろうことも。そして自分がこう誘えば、断れないことも。
尻の谷間に、硬くなった自身のものを押し当てる。イージリオは身体を強張らせて、泣きそうな目で、懇願するような表情でこちらを見上げていた。
「続き、してもいい?」
怯えてクッションに爪を立てて、ゆっくりと首を縦に振ってくれる彼が、ひどく愛らしくて愛おしい。

エゴと独占欲

イージリオが依頼に出かけている間、恋人は物思いに耽っていた。
この村にきて半年程度経った今、恋人はひどく手持ち無沙汰だった。この狭い一部屋でできる家事というのは限りがある。かといって娯楽に興じようにも、外に出れないこの状態でできる娯楽は家事よりもさらに少なかった。貧乏子だくさんとはよくいったものだ。まあ別段自分たちはひどく貧乏しているわけではないのだが。

イージリオがどこまで理解しているかは定かではないが、実際のところ恋人が外を出歩くのにさして大きな問題はなかった。
彼らの停留している村のある場所は、恋人の家が統括する領地ではない。二人旅が長く続けられるわけもなかったので近隣ではある。それでも領主のお膝元からは離れている村を、恋人は駆け落ち前から選定していたのだ。
村人たちはこの地の領主ならまだしも、近隣の領主、しかもその息子など知るわけもなかった。彼らに顔を見せたところで自分たちの逃避行が露呈する心配などほとんどない。そもそも彼の顔の知れ渡っているくらい場所なら、住むこと自体が難しいのだ。日用品の買い出しや水汲みなど、一切外へ出ないということはできないのだから。
ただそれでも出来る限り恋人は外出を控えている。それには危険を避ける意味合いがあった。彼の言葉遣いや立ち振る舞いは、あまりに上品すぎるのだ。駆け落ちする前、指南役の教師からもよく言われていた。幼いころから礼節やマナーを学んだものは、一般大衆の中にいればどうしても目立ってしまうのだと。特にそういったものを好んで襲う盗賊などに、自分は格好の標的だ。彼らは人の手のひらを見ただけで貴族かそうでないかを当ててみせるという。遠征の際も決して一人で行動してはいけない。護衛をつけていない貴族だとわかってしまえば、そういった連中が集まってくるのだから。
それを言い含められているのは、護衛役のイージリオも同様だった。こうして二人は同じ見解を持って、恋人の外出は最低限のものとなっていた。

だが恋人は今、どうしても外出をしたい要向きを抱えていた。その用事が二人にとって絶対に必要なものであれば、恋人は迷わず外に出ただろう。それをせず悶々としているということは生活にはーー、昼の生活には、必要のないことなわけで。
つまるところ夜の生活に関わるグッズ、ローションを買い足しに行きたかったのだ。
元々そういったグッズを買ってきたのがイージリオだったこともあり、消耗品の補充はイージリオが行っていた。当然ながらそれを承知の上で、恋人はイージリオに頼らずそれが欲しかったのである。

恋人は、イージリオと性的な行為をしたいという欲求を変わらず持ち続けていた。ただ彼のその欲求は、イージリオの持つそれとはいささか形が異なる。あくまで挿入にこだわるイージリオと違い、恋人は性的な接触ができればそういったこだわりはなんらなかった。身も蓋もない言い方をしてしまえば、気持ちよければそれでよかったのだ。
彼の見た限り、イージリオは特に後孔から快楽を得たいという思いはないように見えた。まあ今は双方が性的快楽を感じられる性交をしたいという恋人のわがままから、イージリオの身体を弄くり回していたため、彼としては多少イージリオにそういった欲望が生まれていてくれていると嬉しいとは思っているのだが。それはさておいて、元々イージリオにそういった欲求はなく、あるのは挿入に対するこだわりだけのようであった。
挿入するという行為のみにこだわるなら、どちらが上でも関係はないはずだ。
それなのに自分にそういった提案をしてこないのは、イージリオが気を遣っているのだろうと恋人は思った。イージリオと特に話もせずそう考えつくのだから、彼は自身の恋人について随分と深く理解しているようだ。ただ自分も別段女役で得られる快楽に興味はないし、イージリオも恋人を犯したいとは強く思っていないのもわかってはいた。

だからこれはただのエゴと独占欲だ。
イージリオと対等でいたいというエゴと、彼のどんな表情も手に入れたいという独占欲。

イージリオも初恋の恋人に大分イカれていたが、恋人もイージリオには異様なほど執着していた。
組み敷いて蕩けさせるのもたしかに好きだった。前後不覚となって何かに縋り付く彼は極上の甘露によく似ていた。
しかし自身の獰猛さを抑え付け、快楽に溺れそうになるところを律し、優しさと恋慕を湛えた瞳で見下ろされるのもまた、前者と甲乙つけ難いほどの悦楽だった。
それに気付いたのは、兜合わせをしたときだった。初めは彼の体に無理がかからない性交を試そうと思っただけだ。だがそこから見えた光景は、想像以上に扇情的で、自身を虜にするには充分すぎる様相だった。しかしながら、兜合わせでは彼の気難しいこだわりを覆すことはできなかったようだった。
やはり挿入という儀式が、彼には必要らしい。

つまるところ、行き着く先はひとつなのだ。

恋人は悪戯心が頭をもたげていた。イージリオがしたことと、同じことをしてやりたかった。こっそりと自分の体を慣らしておいて、ベッドの上でネタバラシしたなら、彼はどんな顔をするだろうか。そうしてやりたい欲求は日々膨らんでいき、もはや抑えきれなくなるのは時間の問題だった。
いや、もはや抑えきれなくなっていたという方が正しいか。
恋人は出掛けるたび、情報収集をしていた。そんなに大きい村ではない。村人たち御用達の娼館も、雑貨屋もすぐに目星がついた。後はできるだけ日の高い時間帯、人通りの多いときを見計らって、買い物に行くだけだ。
こんなもののために野盗に目をつけられるリスクを犯すのかと言われれば、口を閉じるしかない。大袈裟なと笑い飛ばせればいいのだが、そうできるほどの腕力もなければ、治安のいい場所でもなかった。
だが恋人は近々そこへ買い物へ行くのだろう。イージリオには内緒で。
性欲というのは、抗いがたいものなのだから。

食欲に似た何か

「ねえリオ、触ってみて……」
恋人の手が、イージリオの手を握る。ゆっくりとそこへ導かれ、生唾を飲んだ。呼吸が荒い。頬が紅潮し、手が震える。緊張か、恐怖か、畏怖か。そのどれものでもないこれはーー。
これは、覚えのある感覚だった。

恋人がそれをくれたのは、まだ森の中で逢瀬を重ねていたときの話だ。色とりどりの焼き菓子だった。卵と砂糖と果実の種。それを混ぜて焼いたものに、クリームやジャムが挟んである。少し掴んだだけでボロボロに崩れてしまい、口に運ぶまでに四苦八苦した。
「マカロンっていうんだよ」
恋人はそう言いながら小器用にマカロンを掴むと、イージリオの口元に運ぶ。あーんという声に合わせて口を開き、その甘さを味わった。上品な淡い甘味。舌で潰すだけでマカロンは崩れて、唾液に混ざって溶けてしまう。
「おいしい?」
美味しいとは答えたが、上品すぎるその味はよくわからなかった。

だから導いてくれる手を咄嗟に振り払ったのは、
「リオ?」
自分の粗野な手で、繊細な彼を傷つけるのではないかと怖かったからだ。
恋人がこちらの顔をじっと覗き込んでくる。そんなつもりはなくとも、拒絶したバツの悪さから目を逸らした。
「……怖い?」
問いには答えられず、口は閉ざされたまま。その声色にバカにするような意図は読み取れなかった。むしろ鼻で笑うように言われていたのなら、カッとして顔を上げられたかもしれない。
「リオ」
また手を握られる。優しく撫でられて、もみほぐされて。その声からは、愛おしさや慈しみが感じられた。
「ゆっくりでいいから」
手のひらも気持ちもすくいあげられる。優しい声に、柔らかな手。幼子のようにあやされる自分。
それが、恥ずかしくてたまらない。
「触って」
有無を言わさぬ命令と、それとは対照的な肌の柔らかさに絡め取られる。恋人はイージリオの手のひらを頬に押し当てて、自身の手との間に挟み込んだ。柔らかさと温かさを沁み込ませてから、そっと手を離す。
そう、いつもリードしてくれるのは彼だ。イージリオの歩くペースに合わせて、隣で手を引いてくれる。彼がそこまでしてくれるのだから、自分は彼に合わせて、進んでいかねばならないのだと。そうやって言い訳を用意してもらっていることには、気付かなかった。

頬を撫でる。顎の輪郭を指でなぞってから、鎖骨に触れる。ざらりとした麻の感触。恋人は麻のシャツを着て、下には何も履いていなかった。この村に来るまではよく絹の服を着ていたのを思い出す。
シャツの裾から手を差し込む。鍛錬により分厚くなった皮膚とは違う、大事にされたきめの細かい肌。彼の柔らかな肌が好きだ。ここで暮らし始めてから、その肌に細かな傷がついていくのがたまらなく嫌だった。でも恋人が気にしていなかったから、自分も気にしないふりをした。腹から胸へと、滑らかな感触を味わってから手を引き抜く。
彼の優しさが好きだ。その優しさを象徴するような、手のひらが好きだ。だから指を絡めて持ち上げて、その甲に口付けた。見下ろすと半端にはだけたシャツの下から、いつもは日に当たらない部分が見えて。それどころか太腿も股間も、隠されることなく晒されていて。
たまらない。
だがこれは“勘弁してくれ”という意味も含まれた、“たまらない”という感覚だった。

他種族がどのような感覚だと思っているのかはわからないが、イージリオにとって吸精とは食事だった。他人の魔力で喉を潤し、食欲を満たす行為。それが吸精だ。
だが恋人が出来る限り自分から吸精を行ってほしいと言ってくれたとき、その気持ちもわからないわけではなかった。吸精には接触が不可欠。父が鍛錬を積めば触れずとも行えると言っていたが、イージリオにはまだできそうにもなかった。そして仮にできたとしても、相手に触れずに吸精をすることはあまり褒められた行いではない。食事は食材に敬意を払うもの。野菜や獣相手ならまだ多少の不敬が許されるだろう。だがそれが生きた人族であれば、相手を軽んじるような行いは決して許されない。相手に触れもしないということは、触れる工程を略していると思われても仕方ない。礼を失している、というのが少なくともイージリオの暮らす町での通説だった。
だから触れずに吸精が行えるものでも、町に住むアルヴは必ず相手の手を取って吸精をした。そもそも接触せずに吸精を行えるものは少数であり、アルヴ以外の町のものはそんなことができることすら知らないのかもしれない。
恋人はそうやって自分以外の誰かがイージリオに触れるのを嫌がったのだろう。それがわかっていたからイージリオは恋人に理由を聞くことなく、出来る限り彼から吸精を行なった。
イージリオに取って吸精は食事。それを施しと考えるものもいるだろうし、手作り菓子のような愛慕を感じるものもいるだろうが。彼の考えは少し、一般的なものとは異なった。
彼にとって吸精による食事は捕食なのだ。獲物を狩りその肉を喰らうような感覚だった。神殿で首を垂れながら吸精を行うときですら、相手を騙して魔力を啜るような、そういった優越感をもっていた。謙虚で堅実な両親と共に育ったというのに、どうしてそのような感覚が育まれたのかはわからない。思春期特有の全能感に、他人の魔力なしでは生き抜けない劣等感の裏返し。それらが混ざって根付いたものかもしれないし、得てして真実は闇の中だ。
だから恋人に吸精をするときイージリオは、貴族の子息を捕食する優越感が身を焼いたし、愛しい彼で自身の醜い感情を満たしていることが恥ずかしかった。
醜い感情というのは、押し込んで、ひた隠さなければならない。恋人に見つからないよう、見咎められないように。

恋人を抱くときも、同じだ。
「全部、入った……?」
恋人が、自分の首に腕を絡めて縋り付いてくる。初めて押し入った内は狭く絡みついてきて、ため息が出るような心地だった。
「ん、入ってる。根元まで、ずっぽり」
「リオ、下品」
わりい。恋人の咎めるような瞳に苦笑いを返し、あやすようにキスをした。キスに蕩けた顔をしてくれる恋人を見下ろして、凶暴な衝動に蓋をする。
このまま口を塞いで、彼の中を蹂躙出来たらどんなにか。
ゆっくりと腰を引くと、雁首が入口のきゅうと締まったところに引っかかる。そこからまた押し入ると竿がその締まったところに扱かれて、温かい体内で優しく揉まれる。恋人の艶っぽい吐息が耳元で聞こえ、首にすがる腕に、腰に絡まる脚に、時折力が入り抱きしめられる。出来るだけ深く息を吸い、長く吐き出した。恋人の身体は腰に手を添えるだけだというのに、自分の理性は逃がさないように抱きしめる。この綺麗な首筋に歯を立てたい。手首を掴んで身体を押さえつけて。腰が浮き、ベッドが激しく軋むまで腰を打ちつければどれほどか。
そんなことを想像しながらただただゆっくりと腰を引いて、押し込んで。
「ねえリオ……。リオ」
「ん」
赤らんだ顔の恋人が、瞳を潤ませてこちらを見上げる。
「もっと、激しくしても、大丈夫……」
「……わかった」
頼むから煽らないでくれという言葉を飲み込んで、少しだけピストンを早くする。
「リオ、もっと……。もっと、大丈夫だから……」
強請られてからしか動きを激しくできない。身体はこんなに望んでいるというのに。足りないのは覚悟か自信か。
いや、そんなもの足りなくていい。それで恋人を傷つけずに済んでいるのなら、それは必要ないものだった。

「もっと……」
そうやってイージリオを見上げながら、恋人は恍惚とした表情を浮かべていた。
こちらを傷つけないようにと歯を食いしばって泣きそうな顔をしているイージリオが、可愛らしくて仕方ない。性欲を隠そうとして隠しきれなくて、支配欲を殺そうとして殺しきれなくて。それは全て自分のために行っているとわかるから、愛おしくて仕方ないのだ。
無軌道な手の動き。触れて撫でて離れたと思えばまた触れて。触れたいという性欲と触ってはいけないという自制心。食いちぎりたいというのに啄むだけでなんとか収めて、抑えきれそうになければ離れていく。こちらが抱きしめても抱き返すことはしない。どれほど息を荒げても自分から繋がりを深めることは決してない。
自惚れだろうか。肌を重ねたくないのではと思われても仕方のない態度。そんな態度を突きつけられても、少しもそうだとは感じなかった。
ただただ、大切にされている。それは確信で、それ以外などありえはしない。
愛おしかった。自分のために耐える彼が。強さと弱さを同時に内包して、それを自分に見せまいとする彼が。愛おしくて仕方がなかった。
そうして恋人は苦しそうに息を吐くイージリオを手に入れた。

君とこれに血の繋がりがあろうとも

夜がすっかりと更け人々が寝静まった時間、とある地方貴族の屋敷にて。暗くなった廊下を、一人の少年が歩いていた。丸顔で、ころんとした鼻が特徴的な少年だ。小さい目と太い眉はいかにも純朴そうで、彼の人のよさがその顔から滲み出ていた。
彼の前には灯りをもつ燕尾服の召使。召使は迷いなく彼を目的の扉の前まで案内する。そして何も言わずに扉の傍に控え、直立したままとなった。扉をノックするのは、少年自身の役割らしい。
「失礼します」
「ああ、入りたまえ」
部屋の主から許しが出ると、召使が扉を開く。部屋には中年の男が一人、ゆったりとした部屋着で少年を出迎えた。
「夜分遅くに申し訳ありません」
「いやいや、この時間に呼び立てたのは私だ。畏まらなくていい」
少年は男に向かって恭しく頭を下げる。すると男は椅子に腰かけたまま笑い、彼に座るよう勧めた。促されるままテーブルを挟んで男の向かいに座ると、男の服の素材がいかに高級なものであるのかが見てとれる。ただそのさらさらとした生地が包む体というのは、肥えてたっぷりと脂肪を蓄えた腹に、脂が浮き出た肌。このご時世恰幅がいいということは有り余る富の象徴でもある。だがそれを差し引いても不潔感のある見た目がひどく醜いと彼は思った。

この中年は、ここら一体を治める地方貴族の領主であった。その私室に呼ばれた少年もまた貴族の子息ではあったが、この男の息子というわけではない。
この貴族と彼の家とは、同じ地方貴族の中でも密接な関係を築いていた。片方の領民が飢えればもう片方の領地から食物を分け与え、片方の領地が魔物に襲われればもう片方の私兵が助けに赴いた。祝いの席がある折には互いを招待し親類縁者を交流させるなど、家としても親密な関係を作り上げていた。
力のない貴族たちがこのように徒党を組み支え合うというのは決して珍しいことではない。ときには自身の子供を婚姻させ繋がりを強めることすらある。血を繋げ、絆を深める意味合いか、人質とする意味合いかの違いはあるかもしれないが、とにかく珍しいことではなかった。
今回の訪問もその交流の一環。次期領主となる少年に今後ともより良い関係を築いてもらうため、自領にて歓待するのが男の目的であった。また少年の父としても、親密な関係にある家について学んでほしいという思いがあり、少年に学びの機会を与える交流は望むべきところだった。

しかしながら、歓待も勉強もこんな夜半にやることではない。
ならばこの密会は、両家の交流とはいささか意味合いが違っていた。

中年の貴族が少年の住む屋敷を訪れたときのことである。とある商品について、男が話そうとしたのは。
「失礼。息子はまだ13です。そういった話はまたの機会に」
彼の父が男を制すと、いかにも残念そうな面持ちで男は口を噤んだ。会談の後、汚らしく品のない男だと父親は小声で男を罵っていた。
少年は比較的人気のないところで、帰路に着く前の男に声をかけた。先程は父がすいませんと、悪くもない父親の態度を謝罪する。
「実のところ、ああいった話が苦手なのは父の方なんです」
その言葉の意味合いを察すると、男は粘度の高い笑みを浮かべた。たしかに父の言うとおり、品のない笑みを浮かべる男だ。
それからニ言、三言会話をし、少年は男に密会の約束を取り付けた。

「どうぞ」
そういって、少年の前に紅茶が差し出される。部屋にいたのは屋敷の主人だけではない。部屋まで案内してくれた召使と同じ、燕尾服に身を包んだ少年が同席していた。歳は来賓の少年と同じくらいだろうか。主人のグラスには紅茶ではなく、高級そうなボトルから酒を注いでいた。
「君の父君は息子の前で高潔でありたいのだな。一昔前は、私とこういった話もしてくれていたのだが」
主人の前にグラスを置く召使の腰を、男が無遠慮に鷲掴みにする。少年は少しだけ身を固くし、恥じらうように客人の方へ視線を流した。だが、けして抵抗はしなかった。
「特に前回のこれはよかった。(あで)やかな髪色が気に入ってね、歳がいく前に早々に買い付けてしまったよ。だがそれも正解だった。やはり赤子から手がけると違うな。愛着が湧くし、自分好みに育てられる」
饒舌に語りながら、傍らの少年を撫で回す。腰に始まり、尻や足、背中、頭や頬。少年はありがとうございますと男の言葉に礼を言い、されるがままだ。
紅茶を口に含み、恐縮ですと謙遜の言葉を紡ぐ。男とは趣味が合わなそうだと、少年は思った。召使の彼の腕は細かった。そしてその装飾品にも、目につくものはない。鍛えれば肉体的も魔術的にも兵士足りえる種族であるはずだが、そういった訓練はしていないのだろう、完全に愛玩用だ。仮に屈強さを嫌ったとしても、当家であれば魔術のひとつも学ばせるだろうと少年は思った。男が無力な少年を好むのか、それとも教育下手なのかまでは流石に推し量れなかったが。
この召使の少年にも才能があるはずなのだ。魔術を学び、賢人のように知識を詰め込める才能が。武道を収め、斥候や野伏として立ち振る舞う才能が。
当家に残った、彼のように。
「これはよく働いてくれている。私室の管理を任せているが、物覚えがよくて助かっているよ。礼儀作法やマナーも覚えたのだったか。もうどこに出しても恥ずかしくないな」
少年の内腿を撫でながら声を出して笑う男に、愛想笑いを返す。よくできたジョークでも言っているつもりなのだろう。それもそうだ。きっとこの少年がここを出ることはない。少なくとも少年期、いや青年になってもここで飼われ続けるのかもしれない。そうして愛玩に適さなくなってから彼はどうなるのか。仕事ができても作法を覚えても所詮は穢れた種族。屋敷の召使として表立って使う器量などこの男にはあるまい。この狭い屋敷の中、人の目につかぬ部屋で一生を終えるか、当家には内密に暇に出されるか。どう転んでも掛け値なしの幸福とは言いがたい未来が待っていそうだ。
「覚えがいいのはこちらも同じでなあ。さて、彼にもお前の頑張りを見てもらおうか」
「かしこまりました」
男は酒で唇を濡らし、少年から手を引いた。少年は滞りなく返事をし、賓客を一瞥だけして自身のタイを緩め始めた。

同情はする。恨みも甘んじて受け入れる。この少年は自由の少ない一生を送るだろうし、その原因は当家であるといって間違いない。
だが決して、自分が彼を救うことはない。
貴族の子息として産まれた自分は恵まれていた。恵まれているからこそ、自分の座っているこの席に限りがあると知っていた。全員が自分と同じ席には座れない。隣に侍らせられるものにも限りがある。
大切なものに全てを注ぎたいと願うなら、それ以外のものに与える施しなど一滴も存在しないのだ。
そうだ。ここには彼のためにきた。愛しい彼の愛し方を、間違えたくなくてきた。
父に知られてはいけない。だが父に察知されないよう独学で学ぶには限界がある。やはり実地で学ばなければ、どうあっても机上から抜け出せない。
だから男が男を抱く現場を、現実として見るために少年はここまで来たのだ。

少年は澱みなく燕尾服に手をかけて、床へと落としていく。蝋燭の灯りでオレンジに照らされた肌。それよりなお朱の髪は鮮やかで、金の瞳に揺らぎはなかった。

セッション履歴

No. 日付 タイトル 経験点 ガメル 名誉点 成長 GM 参加者
キャラクター作成 3,000 0 0
1 R5.1.8 【虹の彼方へ プロローグ】 2,000 800 器用
筋力
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
2 R5.1.9 【虹の彼方へ 第一章 跳べよ、兎】 3,000 1,800 敏捷×2
器用
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
3 R5.1.14 【虹の彼方へ 第二章 炎の糸】 4,000 3,000 筋力×2
敏捷
生命
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
4 R5.1.23 【虹の彼方へ 第三章 炎の糸】 5,000+50 5,000 敏捷×4
精神
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
5 R5.1.23 【虹の彼方へ エピローグ】 3,000 21,200 150 敏捷×2
器用
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
6 R5.2.11 【虹の彼方へ Re:プロローグ】 たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオ
フルメタルアーマー、クーゼ、ロングバレル
7 R5.2.23 【天国の二重虹】 2,760+1,500+300+100 4,470+1,500+300 45 知力×2
精神×2
器用
ざると アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオヤンゼ
8 R5.2.25 【虹:魔物討伐と素材の回収】 5,596+100 10,766 47 敏捷×2
器用×3
たつや キャベツジェイス・デル・スヴェンネミィ・ティンピラーマリオインブリム
9 R5.3.5 運命の扉:ユニ編1:黄樹の森に住まう教授 5,630 7,600 46 筋力
生命
知力×2
器用
アイラ アンチャンタマモユージー・サルヴァエルユニ・アーリアジャスール
10 R5.3.6 【一番目の帰還】 6,416+100 9,949 49 知力×2
器用×2
精神
敏捷
たつや バレモトヤンゼ
11 R5.3.12 【虹の彼方へ Re:Re:プロローグ】 800+500 800+1,000+500 5 知力
精神
たつや アンチャンカイドロンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオヤンゼ
12 R5.4.11 【野伏の心得…?】 1,000+1,500 1,000+4,000+1,500 15 筋力
知力
器用
たつや アンチャンジョーマリオヤンゼ
13 R5.4.18 【ニ舎四房の男たち~憤怒の魔域~】 6,996 9,606 40 生命
知力×2
敏捷×3
器用
たつや アシュト・ハーマインアンチャンエンヴィー=サリーヘイタイマリオ
14 R5.5.17 【一番目の帰還から】 1,400+800 1,400+2,000+800 20 敏捷×2
器用
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオヤンゼ
15 R5.6.8 【スターロードに轟け歌声】 8,736+50 10,320 54 敏捷×3
精神
筋力
器用
知力×2
たつや アシュト・ハーマインジョーベシハ・エレンヤンゼ
16 R5.6.25 【帰還者へお返しを】 1,200+700 1,200+ 2,000+700 10 敏捷
知力
たつや アンチャンスッポンマリオヤンゼ
17 R5.7.2 【罠の魔剣のダンジョン】 1,300+1,300 1,300+3,500+1,300 10 筋力
知力×2
たつや ジョー
18 R5.7.12 【俺たちが得られなかった当たり前を】 6,968 17,834 36 知力
精神
敏捷×2
器用×2
たつや アシュト・ハーマインケヴィンヘイタイ
19 R5.7.16 【プライドをチップに】 6,434+50 19,070 71 器用×3
知力×2
敏捷
たつや アシュト・ハーマインマリオヤンゼユニ・アーリアジャスール
20 R5.7.17 【メグルのお仕事】 1,400+900 1,400+2,000+900 15 精神
敏捷
生命
たつや アクロアンチャンイクサラスキャベツケヴィンジライヤジョースッポンバレモトヘイタイマリオヤツルギヤンゼルーシスマクラ
21 R5.9.28 ★キャラシ評価 300+300 300+300 生命
ざると、たつや
22 R5.10.22 【ギルドスタッフからの特別依頼:ウッド編②・灰色の懲悪】 1,800+2,420+500+50 6,500+2,420+500 0 筋力×2
精神
知力×2
ざると ウッドエンヴィー=サリーバレモトヨウ
23 R5.11.23 【11月23日時点 イージリオの経歴評価結果】 3,500 3,500 40 知力×2
敏捷
器用
たつや
怪盗の足
24 R6.1.22 【間隙より繋ぐ、虹の欠片】 1,500+2,000 1,500+3,000+2,000 15 器用
知力
精神
敏捷
たつや アンチャンキャベツジョースッポンバレモトヘイタイマリオヤンゼラギノ
取得総計 96,956 170,535 668 95

収支履歴

アールシェピース::-480
ポイントガード::-100
スカウト用ツール::-100
救命草*4::-30*4
怪力の腕輪::-1000
巧みの指輪::-500
疾風の腕輪::-1000
アイソアーマスク::-2000
ブレードスカート::-4580
疾風の腕輪::-1000
ミスリルスピア::-7930
多機能ブラックベルト::-1000-3000
救命草*4::-30*4
宗匠の腕輪::-1000
俊足の指輪::-500
魔香のパイプ::-1360
野伏のセービングマント::-1000-8000
冒険者セット::-100
着替えセット*7::-10
保存食*7::-50
叡智の腕輪::-1000
魔法の発動体::-100
ラル=ヴェイネの金鎖::-7500
魔香草*5::-100*5
巧みの指輪::-500
知性の指輪::-500
巧みの指輪::-500
スマルティエの風切り布::-25000
MC5点::-2500
宗匠の腕輪::-1000
スマルティエの銀鈴::-7500
軽業のブーツ::-11600
俊足の指輪::-500
ラル=ヴェイネの羽冠::-60000

チャットパレット