キールは元々セブレイ大樹海の奥地で両親と暮らしていた。
　父親からセブレイ森林共和国とハールーン魔術研究国での"狙い目"な家々を叩き込まれており、そのスリの腕前はなかなかの物である。
　母親からは魔動機術についてや魔動機文明語についてを多く学び、「いつかボクも研究者になるんだ」と目をキラキラさせていたが、父親からは13歳になったら一人で旅に出るようにと言われてしまう。その事で大ゲンカとなり、つい売り言葉に買い言葉で「だったら11歳になったら出ていってやる！」と宣言してしまい、口は災いのもとなのだなと身を持って学んだ。
　そうキールは60数年生きてきた時の中で、あれが一番の大きな失敗だったと語る。
　慣例では15歳前後な所を父親が2年前倒しした物だから、ならば2倍の4年前倒しで出ていってやると思ったのだ。
　しかしながら、このラクシア世界で生きていくのはそれほど易しくはない。ましてや、社会常識を全く学んでいない11歳のレプラカーンなど、もってのほかだったと口にする。

　時が流れて、今では両親に顔を見せるべきかとも考えられるようにはなったが、ここまで曲がりなりにも一人で生きてきた矜持がそれを許さない。
　家を飛び出した当時は行く先々で厄介者扱いされ、まともに働き口を探すこともままならない。本当は魔動機文明について研究がしたい。いや、それしかしたくない。だが、生きるためにはそれをある程度忘れないといけない。そんな浮足立っているような11歳過ぎの子ども。ましてやレプラカーンなのである。残された道は冒険者たちに同行して荷物持ちなり、便利な小間使いのように走り回ることくらいだった。そうして生きてきたキールが冒険者をしていることは、なんら不思議なことではないだろう。
　顔を見せられない代わりに冒険者として名を馳せることが出来たなら、それを両親への挨拶としよう。そんなある意味呑気な考えでキールは元気に今を生きている。

「父ちゃん母ちゃん。ボクが冒険者として魔動機文明を復興させた暁には、これまでの分、い～っぱい甘やかしてもらうからな！」

　そう決意も新たにしつつも、もはや日課となっている毎朝恒例行事。背負い袋の中から使い慣れた小型ナイフをおもむろに取り出し、川の水面を鏡替わりにヒゲ剃りに精を出すキールであった。

性格

　我慢強い。極度の人見知り。そのため、はじめての人だと身構えがち。（身構えちゃう理由は後述）
　基本的に森の中や背の高い草など、自然環境の中で生きてきたため、人工物に囲まれると固まる。
　長い間、とある冒険者たちと行動を共にした結果、如何に恥ずかしく許容しがたい扱いをされたとしても、レプラカーンには珍しく、姿を隠さなくなった。だが、その冒険者一行に加わった経緯はなかなかに可愛そうなのである。
　ある日、冒険者たちは草原で野宿をしていた。そこへ姿を隠した状態のキールが現れる。ほんの少し、保存食を拝借しようとしたのだろう。背嚢をまさぐるキールだったが、ある人物に毛布で簀巻き状態にされてしまう。

「ねぇ！　みんな！　なんか捕まえたぁ！」

　観念したキールは［姿なき職人］を解くと、簀巻きにした張本人に顔をじっくりと覗き込まれることになる。

「ルッツ～。コレってレプラカーンだよね？　ヒゲがボサボサで顔が分からないんだけど～」
「じゃぁ、ひんむいちまうか？」

　以後、綺麗にヒゲを剃り落とされ、休憩時間中は取っ替え引っ替え、みんなの膝の上に抱え込まれる日々を送っていく。

「いい？　これからは毎日ヒゲを剃りなさい！　こ～んなに可愛いんだからっ！」

　この一件以降、キールは初対面相手だと「抱きつかれるっ！？」と身構えるようになったとか......
　（刷り込みってコワイですね）

その後

　冒険者たちは年齢を理由に引退を余儀なくされていた。
　キールは少し寂しく感じたが、人間という種族とは生きる時間が違うものだ。
　最後の最後まで、子ども扱いだったのは気に食わないが、楽しくて、温かくて、心地よい時間だった。

「キール。もうあなたと旅はできなくなっちゃったわね。でも、大丈夫。私たちとの記憶はもういっぱいあるはずよ？　　
だから、お行きなさい。これからはあなた自身で道を切り拓く時よ。
あ、キングスフォールに美味しいお菓子屋さんが出来たらしいのよ？　買ってきてくれない？」

「えっ？　今の流れでお菓子のお使い頼む？　ねぇ！　リサ！　聞いてる！？　ボクの話、聞いてる！？」

「紅茶もお願いね～」

経歴

・大ゲンカしたことがある
・大きな失敗をしたことがある
・家族から探されている

冒険に出た理由

・失われた文明を取り戻すため