容姿・経歴・その他メモ

　魔法の名門ゼンハルト家の4男。文武両道、魔法まで使いこなす早熟の才人。軍部に送り込まれ出世街道を順調に進むも、求道者としての性質は持たず努力嫌い。同期には負けなし、上の世代もいずれ追い越すだろう。他人に興味がなく若くして厭世的。虚飾と形のない権威にすがりつく貴族社会、騎士とて蛮族の脅威が薄いこの国ではそう違いはなかった。

　雑事で魔術塔に赴いた時のことだ。裏手で孤児たちに施しをしている「彼女」がいた。その時は無駄なことをしているなとしか思わなかった。親の庇護を得られない子供などこの国には数えきれない程いる、ただの自己満足であると。

　2か月後、また施しをしていた。半年後、また施しをしていた。組織の性質上慈悲深さなど何の役にも立たない、こんなひっそりとしたやり方は名声にならない。何の益のない行為を半年は続けているということか。少し興味が湧いて裏手に足を向けた。

　「彼女」はその行為の無意味さは理解していた。もっと賢いやり方はいくらでもあるし見返りもない。でも今の自分には力がなく、だけれど何もせずにはいられないと言った直後、「彼女」の腹が鳴った。昼食用に用意したものは上げてしまったらしい。人が優しくなれるのは余裕があるときだけ、己とて機嫌がいい時くらいは人に親切にする（いつも退屈に膿んでいて機嫌いい時などほぼないが）。「彼女」は身を削ってでも見知らぬ誰かの為に行動していた。その在り様を美しいと思った。なお貧しい者達は貰えるものは貰ったともういなかった。

　それからは暇を見つけては「彼女」を尋ねた。聞けば聞くほど聖人のような部分が見えた。

　ある日世界から不幸が消えた。それは「彼女」の犠牲によって訪れたものだ。世界は愚かで醜い者だらけだ。そんな彼らに「」が救う価値などあるものか。かつて出席した晩餐会、大量の贅を凝らした料理の余りはゴミとして捨てられ、貴族たちは見るに堪えない足の引っ張り合い。それが今では平民など使い捨てとのたまたった口で慈悲を謳い施しをしている。「彼女」のような美しさは微塵も感じなかった。
　
　獣に「彼女」を食わせる気はない。「世界を幸福にした魔法」を壊す。

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