オスカーからの急な招集で何かと思ったが、とうとう冒険者の店を作るらしい。
……建物の中はすっからかん。知らねー奴も大勢いるし、すぐパーティを組んで既に勝手に受けてる依頼をこなせってさ。
忘れないように日記に書いておくことにする。

グラスランナーのミント・ペニー。奏者と斥候を務めるらしいが、少し性格が抜けている面に危ういところがある。フラメンコギターの弾き方も分かるなら、教わるのも悪くない。後衛同士で酒造りもする辺り、意外と話が合うかも知れん。

豚のリカント、ラトゥ=ヴァングロッソ。練体士と拳闘士、野伏もやるそうだ。草の扱いに慣れてる辺りはこちらとしてはありがたい。安くない魔香草を効率的に扱えるようにしてくれる。なんならオーダーすれば葉巻にもしてくれる。いい付き合いになりそうだ。

人間のアイン。剣士と練体士、斥候をしてくれる。冒険者セットを賭けて奪われる程度に頭は悪いが、立派な金属鎧を着こなしている。練技とキルヒア様の加護も加われば鉄壁だな。安心して前衛を任せられるだろう。……まぁ、金は掛かる立ちどころだ。ある程度の出資は融通してやるようにしよう。

賢者は俺だけ。今日はゾンビの弱点をど忘れしちまった。前衛に負担掛けちまったのが少しモヤモヤする。キルヒア様、私に知識を。蛮族とアンデッドを滅する力を。
この時点で書いている分は小休止の間の走り書きだ。日はかなり落ちているが、斥候の奴らも｢匂い｣を感じたらしいな。それがきな臭いのか腐臭なのかは知らんが、金になればそれでいい。

……さっきからラトゥが見てくる。ヤギのリカントじゃなかろうに、紙を食べるのか？ そもそもヤギのリカントはいないな。
魔香草を巻き終えたらしい。一服ついでに筆と紙を貸してみる。

マズった。敵にアダポシアが混ざっていた。あいつは名前や基本的な能力こそ知っていたものの、何に弱いかは分からなかった。分かったところでどうにかなるか……。

あいつに通常の攻撃は通らない。俺やミントの攻撃では押し通れそうにない。一斉に撤退しながらバニッシュを放ち、混乱させてあちらさんを逃げさせることで戻って来られた。キルヒア様、ご加護をありがとうございます。

何かの儀式が成功しちまったらしい。片腕が解放された、とか。嫌な予感がする。

とにかく、今回のこともあって蛮族やアンデッドへ対抗出来る魔術を習得した。やれることは広がってきたが、賢者が俺だけな現状では知識を追い求めることが何よりも大事だ。シガーを燻らせながらペンを握る毎日が続くだろう。

ギルドは大きく拡張され、正式に登録された。サカロスの寝言酒場亭、という名前が通ったが、どこかで聞いた名前だな……。