ワカタンの魂、それは元の持ち主の肉体であるワカン・タンカの魂の抜け殻に入ったものだった。

タンカ家に伝わる禁術、魂の器によって暗く狭い壺の中にその魂を封じ込められたワカンは、死霊を従え解放のときを待っていた。
ワカタンの魂と入れ替わる形で自らの肉体に戻ったワカンは、長い時の中で歪んだ妬みをもって、閉じ込めたワカタンと共に世界を廻っていく。
その道中で、ヘイルという死霊使いに出会った。魂の器の力を、世界中にばら蒔いて死霊の国にしてしまおうという提案だった。

最初はその話に、興味などなかった。人族でも蛮族でも死霊でも、なんでも構わない。
ただこのワカタンの魂を閉じ込めたまま、永い時を生き続けられれば、少しずつ魂の器の中にいた寂しくて悲しく辛い記憶が薄れていくから。

ただ少しだけ、ごく僅かに足りない満足感。
あの魂の器の中に閉じ込めたことで、あそこにいるのはワカタン。
満足感は得ているはずなのに、どこかまだ魂の器に囚われているような、そんな心の引っ掛かりがあった。

それも、世界を魂の器と同化させてしまえば良いのだと思い直し。
ワカンはヘイルの提案を受けるべく、約束の地へと向かった。
月狼亭の冒険者たち…ワカタンの仲間たちにそれを阻まれたのは、その時だった。

ワカンは肉体から離れ、死霊を操り戦う。
しかし冒険者たちによって倒され、力を失ったことでワカタンの魂と再度入れ替わるようにして魂の器へ引き摺り込まれてしまった。
暗く、狭く、寒い場所。
一度陽の当たる世界を知ってしまったから、尚更絶望を感じる。
精神が壊れ狂いかけたその時。
気がつけばまた、外の世界へ戻っていた。

ワカタンが、同居している。
ひとつの肉体に、居場所を用意されている。
広く、明るく、暖かい場所。

何故、と冒険者に問うた。
ワカタンはそういう奴だから、と返答があった。
ワカンはその時に、自覚した。
奪う必要のない場所を奪って、追いやる必要のない奴を追いやっていたことに。

死霊を扱う力はいつの間にか完全に消えていた。
魂の器との繋がりが完全に絶たれたからだろう。
ただ、魂を扱う術は知識として残っていた。
ワカンはそれを森羅術士としての力に応用した。

ワカタンとワカン。ひとつの肉体にふたつの魂。
ワカンはワカタンと共に、世界を巡りたいという願いを持った。
ワカタンはワカンの願いを受けいれ、世界を回ることにした。

月狼亭で一度取り消した登録を、そのままに。
ワカタンとワカンは、放浪者として歩み続けることになった。

ハーヴェス公国のとある孤児院に変わらず届き続ける寄付金。それが、二人が息災である証だった。