思い出した。何もかも。
わしは幼馴染を、──アキを護れんまま、死んでいったんじゃった。
安らかな死を教義に掲げ、アキを"救いの手"と称して奉じた宗教団体「濡鴉」。その本部に攻め入ってきた刺客らしい奴らに負けて、わしは何も出来んまま犬死した。
あの時の無力感は、未だにこの胸の奥で燻り続けとる。「もしあの時、自分が勝っていたら」、「あの竜人の男のような力を手に入れていたら」、「もしアキの傍に居るのが、自分のような不甲斐ない男ではなく、何か伝承に語られるような、文字通り『英雄』たるだけの存在だったら」……。今更悔やんだって、もうどうにもならない過去の話じゃ。現実は理想とは違う。わしは英雄なんかじゃなかった。つまらない端役は退場するだけ、ってこと。じゃけ、「ハル」という存在は、そこで完全に消えるはずじゃったんに……誰がこがな事したんじゃろうか。もし神様がやったって言うんじゃったら、そいつは随分身勝手で、随分慈悲深いもんじゃ。"約束"も果たせずじまい、ましてや約束の相手まで殺した男に、ここまでの良待遇を与えるなんて。
……"約束"。小さい頃にアキと交わしたもの。「自分がどんなものからも絶対に護るから、ずっと傍に居続けるから。だからどうか、死ぬ事だけはやめてほしい」──ああ、馬鹿らしい。何一つとして出来んまま死んだんに、何が「絶対に護る」じゃ。あんな大言壮語言うといて、最後は……結局、何も成すことが叶わんかった。アキもきっと呆れて、もうわしの事なんて……。
……ああ、でも。もし叶うんなら。万が一の確率だったとしても、再びこの手に掴めるとするのなら。
願わくばもう一度、あの日のように、お前の傍に居られたら──。

わしがこうして前世の記憶を持って、その上見た目も何もかも変わらんまま生まれ変わったって言うんなら……アキがそうならん道理は無いはずなんじゃ。
……もし、アキを見つけられたら。今度こそわしは約束を守ってみせる。もう二度と違えん。死ぬまで守り抜いちゃる──。