解説

馬車レース

ある時、短気な木工職人が街の反対の市場に買い物に行くために乗合馬車を待っていた。随分待ってやって来た馬車に乗り込もうとすると、御者が冷たく「もう満員だよと言い放って走り去っていった。
男は怒った。「こんなに待たせて、挙句乗れないだあ？俺は気が短いんだい！てめえのオンボロのノロノロ馬車で行くより、手前で馬車ぁ拵えて走ったほうが何倍も早く着くってもんだ！」
男は走って家に帰り、家にあった材料で馬車を組み上げた。男は近所の牧場から馬を借りて来て、馬車にくくりつけると市場に向かって走り出した。しかし何しろ急造だったので、走っている間にあちこちのパーツが取れていく。男は馬車が壊れるたびに大急ぎで治し、走り、治し、を繰り返しながら大急ぎで市場へ向かった。走り続けて、ようやく市場が見えて来た。木工職人を載せなかった馬車は、今まさに市場の門を潜ろうかと言うところだ。職人は最後の力で馬に鞭打ち、最後には両の足で車輪を押さえつけながら、半ば引きずられるような形で乗合馬車を追い抜いた。職人は「どうでい！お前さんより早く市場についてやったぜ！」と叫んだ。
乗合馬車の御者は呆れて呟いた。
「その借りた馬に乗って走ってれば、もっと早く着いたでしょうに。」