アタシの最初の記憶は、森の中で動物達が食べ物をくれた場面さ。まだ5つにもなってない頃の話じゃないか?それからは森の中で動物達と一緒に暮らしていたよ。朝日と共に起きて、日没になれば住処で寝る。そんな単調な日々の繰り返しさ。
あぁ?だから時間感覚がないのかって?ま、森の中じゃ時計なんてもんは無ぇし、つい太陽の位置で時間を考えちまうのはそうだな。……だからそれは悪かったって言ってるだろ?
話を戻すぜ。森での日々は単調だったが、ちっとも退屈じゃなかった。狩りとかのやるべき事は多かったし、遊び相手は沢山いたからな。それに「人族」の自覚も無かったアタシにとっちゃ、それが当たり前だったのさ。……そうだな、幸せだったよ。拾ってくれた群れは家族みたいなもんで、昼間は狩りで助け合って、日が落ちれば一緒に寝て。加えて親友と呼べる奴もできた。
でも、そんな幸せも長くは続かなかった。
森に来て、5年か?それぐらい経った頃だ。アタシは一番弱かったから、親友と一緒に下の子の世話を任される事が多くてね。あの日も、いつも通りに弟妹達とじゃれ合っていた。そしたら何かが近づいて来たんだ。そいつらは土のような肌に、ひらひらとした毛皮を持っていて…。
あ、先に言うなよ!今ちょうど良いとこなんだからさぁ。
…そうだよ。そいつらはソレイユの集団だった。普段だったら驚いただろうな。ひらひらとした毛皮、つまり服なんだが、それを剥げば自分とそっくりだって。
でも、そんなこと気づく暇なんて無かった。なんせ奴らはアタシの弟妹を攻撃してきたからな。今となっちゃ、奴らはアタシを守ろうとしたんだと分かるが、あの時のアタシから見たら家族を襲う獣だ。アタシは弟妹の逃げる時間を稼ぐため、奴らに襲いかかったわけさ。向こうは想定してなかったんだろうな。驚いた顔してたよ。アタシが気絶させられてる間に、親友が弟妹達を逃したから、弟妹達に被害はなかったらしい。目的は達成だな。
「らしい」って何だって?親友から聞いたんだよ。ま、この話は後だな。
結局、奴らはアタシだけを集落に連れてった。起きたらビックリだぜ。てっきり食われるもんだと思ってたら何故か生きてるし、目が覚めても攻撃してこないし、変な動きをしてくるし。不気味だったよ。逃げようともした、てゆーか、逃げた。でも途中で捕まっちまってね。それからはある夫婦に引き取られて、色んな事を教えられた。自分が人族である事を理解できるように、だろうな。実際、そんな生活が続けば嫌でも理解できたよ。本来自分は森の中ではなくこういう場所に居るべきなんだってな。
数年夫婦から教育を受ければ、自由に外出する事ができるようになって、集落でも自然に生活できるようになった。そうは言っても、ずっと森の中で暮らして来たアタシにとって、集落ってもんは息苦しくてね。ある日、気づいたら森の中の住処に向かってたよ。でも、住処の中には誰もいなかった。当然だよな。動物の住処なんて、数年経てば移動するに決まってる。諦めて集落に帰ろうとしたら……たまたま親友に会ったんだ。
親友って言い続けるのも何だから仮にフィロスって呼ぶか。アイツは穏やかな優しい奴でな。目の前で連れて行かれたアタシを心配して、定期的に知ってる場所を巡ってたらしい。それからは集落と住処を往復する日々さ。集落でイイ子に生活をしてれば自由に外出できた。夫婦は森に行かせたくないみたいだから、こっそり住処でフィロスと駆け回って。家族の近況もそん時に聞いたのさ。
……ああ、家族のトコには戻らなかったよ。森の掟は弱肉強食。誘き出されたりしないよう、敵に捕まった時点でソイツは死んだ事にするのが生き残るための知恵だ。アタシが戻ればその知恵を揺らがせちまう。フィロスは特殊だったが……。それに、暗くなってアタシが帰らなければ集落の奴らが森に来る。アタシのせいで森が騒がしくなるのは本意じゃねーしな。
そんな訳で、それなりに楽しく暮らしてたんだが……。間の悪い事に、アタシがフィロスに会ってる間に、蛮族共が集落を襲ったんだ。結果として、フィロスが蛮族の一味でアタシが情報を流したって事になっちまってな。集落の奴らも、冷静になればそんな事ないって気付けたんだろうが、蛮族の襲撃を受けて頭に血が上ってたし、加えて元々怪しい部外者だった奴がコソコソと何かやってたら、……思い込んじまうのもしょうがねーわな。
そんで、コレが集落の奴らからフィロスを庇って出来た傷。森の中で急に襲われて、庇うくらいしか出来なかった。結構深くて、やった奴もビビってたぜ。お陰でフィロスは無事に逃げられたんだが、当然アタシは集落に連れ戻された。
はあ?太陽の入れ墨を消すような傷だから、てっきり集落で罪人になったんだと思ってたって?ちげーよ。偶々そこに当たっちまったんだよ。
んで、目が覚めてから夫婦は、フィロスに騙されていたと証言すれば集落からは追い出されずに済むって説得してきたが、アタシ達は蛮族と内通なんてしてないからそんな証言は出来ない。結局、話し合いは平行線。全部めんどくなって、アタシはそのまま集落を飛び出したって訳。
コレがアタシが冒険に出た理由だ。…長えって…聴いたのはオメーだろーがよ。
それからは冒険者になって、各地を旅して色んなもんを見てるよ。器用な事は出来ないが、幸い身体は頑丈だ。
力になれることがあれば言ってくれ。まとめてアタシが守ってやるよ。