クラルス・アウァルデア(以降、クラルス)はキルヒア神殿所属の神官であり、数少ない"キルヒア神殿の神官騎士団"にも所属する。
　神殿内と騎士団内、共にそれなりの立場を持ち、実際に内外の評価は高い。
　クラルスは教会に拾われた孤児であり、赤子の時から教会で育てられたが為に、故郷の場所を知らない。
　彼女がそれに興味を示さないのは、幸運であると思うべきか。

　クラルスが冒険者ギルドに名を置く理由は、キルヒア神官としてより知識を深める為とのこと。
　だが、あまり"それらしい"冒険者は性に合わないのか、頻繁にギルドと神殿を行き来する姿が見受けられる。
　休暇の際も街の巡回に出ていることが多く、ザイア神官に間違われる事もそれなりにあった。
　それらのお陰か、地域浸透は順調に進んでいるらしい。

　無論、知識を広め、深める為の会話に身を置く事もある。 彼女が道すがら、顔見知りと談笑している姿は幾度か見ることができるだろう。
　(……談笑？ 笑い声の一つを聞くのも稀だが。)

　その振る舞いは穏便にして時に苛烈。 敬語の混じる硬い口調に迂遠な言い回しや、
　無益な表現を加えて語るのが特徴で、無論それがある程度は通じるものとして話す。
　それが万人に通じるものだとは勿論思ってはいないが、分かり辛いと言うほどでも無いだろう……と言うのが、彼女の解釈らしい。
　その言い回しのせいなのか、皮肉屋でもある。 また、時に符丁か暗号の如き酷く迂遠な言い回しをする事もあるが、その場合は本当に符丁である事も多い。
　知識は知るべきものに。 そう言う考えも、彼女の根底にあるのだ。

　彼女の出生は、ドーデン地方内の辺鄙な村である。 だが、その村も今では存在しない。
　彼女の生まれた村は蛮族に襲われ、一人残らずその略奪の犠牲となっていた……ハズだった。
　神殿騎士団が到着し、まだ赤子でしかないクラルスを保護した時、彼女の姿は隠されてすら居なかった。
　ただ乱雑に、或る家の中に取り残されていた。
　騎士団が来るまで食事等を取る事も出来ずに、何故生きていたのか。
　そして隠されてもいないのに、何故殺されなかったのか。 或いは、喰われなかったのか。
　保護した者が言うに、淡い光にくるまれていたと言うが……信じ難い。

　それをただの嘘と切り捨てることができないのは、クラルスと言う女が、真に祝福を受けたの如き才質を発揮する為だろう。

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