ピコは幸せな家庭に生まれました。祝福されて生まれて、愛でられながら育てられました。アルヴでそうやって生きられるのは希少だったと、後に知りました。
しかし唯一幸せではなかったこともありました。それは、両親含め家族がピコのせいで迫害されてしまったことです。誰かを傷つけなければ生きていけないこの体、異様な見た目、何もかもが閉鎖的だったその町では受け入れられないものでした。
ピコたち家族は、家族の中では愛を育んで、幸せでした。
でもそれだけでは生きていけないのです。

やがて、服を売ってくれなくなりました。
明日着る服はもうぼろぼろです。お母さんはごめんね、と疲れた顔で言いました。
やがて、食べ物を売ってくれなくなりました。
外には魔物がいるのに、狩りに行くなんて危険です。いってくる、と覚悟を決めた目でお父さんは言いました。
やがて、井戸水を使わせてくれなくなりました。
泥水はおいしくないし、それを飲んだ日はおなかが痛くなりました。これを飲んで、とおにいちゃんが持ってきてくれたものはどこかのお洗濯後の排水でした。

ピコは生まれてきてはいけなかったのだと、毎日町の人から浴びせられる罵声で理解しました。
ならばと、幼いピコでもどうすればいいのかわかりました。

近くにあったガラス片を手に取り、それで首を斬り付けました。これで家族は、ピコ以外の家族は幸せになるだろうかと。
そう思ったんですが、上手くはいきませんね。

気付いたらぼろぼろのシーツの上に寝ていました。天国なのになんて現実的な場所なんだろう、と思ったらお母さんとお兄ちゃんがピコを見ていました。その目からはお水が流れています。
ピコの家族は、お父さん以外の家族はピコに死んでほしくなかったことを伝えてくれました。
お父さんは町の人たちのところに行きました。でも、もう帰って来ないのです。お父さんがたくさんの人に殴られ、蹴られ、斬られ、焼かれて死んだのを知ったのは、しばらくしてからでした。

ピコたちは今度こそ死ぬのかもと思っていました。でも、家族がいるから幸せでした。

だんだんと意識がふわふわしてきました。もうお腹が減った感覚も、喉が渇いた感覚もありません。朦朧としながら、掠れた声でおにいちゃんが言ってくれました。
ピコは生きてほしい、自分の血を飲んで生きてほしいと。
生きて、大きな町に行って――
後の話は聞こえませんでした。
でも、ピコは言われたとおりに吸精を行いました。
その時の血の味は、とても美味しかったです。冷たくなっていくおにいちゃんの亡骸を抱きながら、もう動かないお母さんの腕に抱かれながら、血を吸いながら。
みんなで、笑えてたんです。
ピコを見つけてくれた人も、お母さんとおにいちゃんも笑ってたって言ってくれてました。ピコたち家族は……そのときは、紛れもなく幸せでした。

誰に言われたか忘れたんですが、ピコはボウケンシャになろうと思います。
そうなったほうがいい気がして。
ボウケンシャになって……色んな人たちを”幸せ”にしたいんです。

そしていつか、ピコも本当の意味で幸せになります。

エルモート・ラディス

初めての冒険で一緒になった人です。この人といるとあまり自由に行動できませんが、ピコはジシュセイがないので引っ張ってくれるのは助かります。ピコも死体みたかったのに……