ユーシズ魔導公国に生まれ、裕福というほどではないが貧しくもない普遍的な家庭で育つ。ユーシズの冒険者である父と、魔法学園七色のマナで教授をしている母の元に生まれる。有名人でみんなに慕われている両親が大好きだった。そしてシューも愛されていた。
しかしそんな日々が崩れ去るのも一瞬だった。冒険者で常に死と隣り合わせの父親が、奈落の魔域で死亡したのだ。蘇生しようにも出来ず、ただ父親の装備品の一部だけが家族に届けられた。シューは賢かったために、それがどういう意味なのかを理解していた。
しばらく悲しみに打ちひしがれていたとき、母親は新しい男を連れてきた。父のことは愛していなかったのか、そう疑ってしまうほどに母は男と愛し合っていた。

それからシューは家を飛び出して単身、他の地方へと向かった。とにかく遠くへ、とにかく母親のいないところへ。

冒険者に護衛してもらう荷馬車に同行したり、少しだけ心得の合った森羅魔法で日銭を稼ぎながらなんとかブルライト地方を抜け、ランドール地方のハルシカ商協国に辿り着いた。さまざまな種族が入り乱れるそこは、ユーシズとはまったく違った色を見せていたが、未知を好む性だったシューにとってはすべてが輝いて見えた。

そこでは宿の手伝いをしながら、森羅魔法のパフォーマンスで日々生きていた。シューの年齢からそういう自立した生活をするのは、ハルシカでも珍しいことだったが、人々は暖かく迎えてくれた。

ある日、宿のお得意様の一人と仲良くなった。白髪に黒目の女性。この辺りで活動している冒険者らしい。おとなしくて本当に冒険者なのかと疑ったが、他の冒険者たちから慕われているのを見て、ようやく信じられた記憶がある。
大人で、そして何よりも自分の使っている森羅魔法を使える冒険者。興味が沸いたが、しかし。冒険者と仲良くなるのは辛かった。
彼女の名前はニアと言った。
しかし、人の縁というのはそう簡単にやめられるものではなかった。森羅魔法で稼いでいる幼い自分に目をかけ、心配をしたり世話をしてくれようとする彼女。優しすぎる彼女。

彼女を好きになるのに、そう時間はかからなかった。

彼女が宿に来るのを楽しみにしていた。冒険の話を聞かせてほしい。彼女の魔法を見たい。
でも、その日はいつもの時間になっても帰ってこなかった。遅い、探しに行きたい、けど。夜は危険だから。

しばらくそうしていたとき、ある冒険者から聞かされた。
彼女は死んでしまったと。
また、失ったのか。

それ以来、シューは死を意識するようになった。死にたい、できることなら。できることなら。自殺したい。それか、殺してほしい。

冒険者。冒険者になると、死ぬ。なんとなくそう思うようになった。
でも、冒険者は仲間と一緒に冒険に行くから。人に好かれるようにならないと。
宿のおかみさんも言ってくれた。冒険者に向いてるよって。
だから、がんばらなきゃ。ね。