……というのが表向きの性格・性質。
実際は内面はとても弱く、いじけ気質で、悲観主義者。
『予言の子』である自分も、そんなものに期待をよせる周りの人々も（果ては目をかけてくれた御師様も）バカみたいだ、と内心では溜息をついている。
（冷め切っている訳でも、バカにしている訳でもない。「はあ……」と、気持ちが重いだけ）
しかし周りの空気を気にする彼はそんな内面を打ち明けられず、誰とも言い争いをしたくない、憎み合いたくない、という理由で、「任せてください！」と周りが望むムーブをして取り繕ってしまう。
要領悪くて、失敗が多く、道につまずいてばかりの努力家の一般人。転んだ後、立ち上がるのが早いだけが取り柄。なので、「弱くてごめんなさい。ナイトメアでごめんなさい。がんばります。がんばりますから許してください」が口癖だった。
そんな時、モノローグは、「戦いは恐いです。憎しみ合うのはしんどいです。普通の暮らしが幸せです。何も為せず何も果たせず。ただ生きていければ十分です」というもの。
本人はこんな感じで「自分にダメ出し」をしているが、どれほど酷い環境・酷い仕打ちをうけても「悪に落ちず、礼節を忘れず、周りを気遣える」性格がブレない事自体が勇者の証と言えるだろう。
……まぁ、悪徳の街ではそれは、命取りになるかもしれないが……

「予言なんて糞食らえ。約束なんて知っちゃこっちゃない」

「でも、それを言ったら皆困るから……ボクが我慢すればいいだけなんだ」

アヴァルフ妖精諸王国連邦にある7つのエルフの氏族の一部。
闇と炎の氏族の狭間にある集落に彼は生まれた。
若くして村を出、スフバール聖鉄鎖公国にて娼婦としてどこの馬の骨とも知れぬ男の子供を孕み帰省した母親は、集落の中でも爪弾き者であった。
そんな母親の腹を裂き、命を奪って生まれてきた彼に、村人が愛情をもって接するはずがなかった。

さらには悪いことにその年はアヴァルフ妖精諸王国連邦に伝わる古き予言に唄われし大破局から300年の年。連邦内でもこの予言の子に対する処置をめぐり、たびたび大きな問題となっていた。
直接連なる氏族の後ろ盾もない小さな集落の中では、その恐ろしい予言は尾ひれを付け、破滅の御伽噺へと謳われていったのだ。
であれば、彼がかの“予言の子”であるという筋書きは、彼を排除したい集落にとっては御の字だったのかもしれない。
“予言の子”が集落から出たと知られれば氏族からの処罰は必須。かといって、殺してしまえば呪い返しを受けるかもしれない。
そんな疑心暗鬼から、彼は名前すら与えられず（もしくは便宜上の呼び名“A”）、集落の地下にある座敷牢に囚われ、半奴隷として扱われていたのだった。

だが、物心ついた時から続いたその監禁も、彼が10の年になった時に、事件が起きた。
（当時は判明していなかったが）旧王都ルセアの魔術王によるナイトメア暗殺の為の大規模集団発狂だ。
件の予言を察ししたルセアの魔王は、連邦全土へ大規模な洗脳魔法を実行。“穢れの子”についての隠し事のある人物の凶暴性を引き上げるその魔法は大部分には意味はなく、合ったとしても氏族の加護を受けた集落には効果がなかった。
だが、彼という爆弾を抱えた集落に効果は絶大だった。飢饉と冬越しの為の口減らしも相まって、彼を除くすべての村人は死亡。唯一地下牢に囚われていた彼だけが残ったのだ。
そして、いつまでも配られない食料に気を失いかけたの元へ一筋の光が投げかけられる。
「やぁ、キミが“予言の子”かい？　少年」

声の主は年齢が不詳のエルフの魔術師であった。
6色の豪華な宝石の髪飾りは、彼女が高レベルの妖精魔術師である証だ。
「メルジン＝アヴェル」と名乗ったその女魔術師は、瀕死の状態の彼の体力を回復させると、問答無用で彼をセブレイ大樹海の外れにある自身の研究所へと連れて帰った。
「助手が欲しかったんだ」と彼女は言うが、それがどこまで本心なのかは分からなかった。
とにかく、生きていくために、彼には他に選択肢がなかったのだ。

そして彼——否、メルから「アンブローズ＝アヴェル」（通称アン）の名を与えられた少年は、彼女の下で暮らし始めた。
共に暮らし始めてからも、彼女の素性は分からなかった。
年齢不詳。能力不詳。とにかく強力な魔法使い、魔道具使い、医者、薬師、呪術師、etc...
時折とても身分の高そうなお客がやってきては“異端にして無法たる魔女”と呼び、尊敬と畏怖を込めて接しているくらいだった。
だが、少なくとも、アンに接するメルの態度は、少しからかい癖のある姉のようで、居心地の悪い気はしなかった。
いや、アンにとっては、かけがえのない時間だった。
彼女の下で、アンは妖精魔術や簡単な調理法、道具の扱いを学んでいった。
そんな日々が、続くのだと、彼は何一つ疑わなかった。
終わらないものなどないというのに――

アンが16になった年。突然メルが倒れた。
魔素の欠乏。漏出。如何なる魔法も魔道具も効かない、未だ解決策の分からない不治の病だった。
メルは半分予期していたのか、狼狽えるアンに苦笑いでこう言った。

「おいおい少年。一体5年以上も何を見ていたんだ？　私の――稀代の天才魔術師、メルジン＝アヴェルの一番弟子だろう？」
「キミはもう、囚われの籠の鳥じゃない――""キミが、為すべきことを為せ""」
「――幸せを祈る。私の大切な、アン」

それが、メルの最後の言葉だった。

アンの死を、一体どうやって知ったのだろうか。
彼女の死後数日のうちに、幾度か来たことのある客や、見たこともない豪奢な服装の魔術師然とした人々（中にはハールーン魔術研究王国の紋を持っている者もいた）が研究所を訪れ、彼女の私財を引き取っていった。
その手腕は鮮やかで、アンが口をはさむことはほぼできなかった。
最終的にわずかばかり残った物品では、数日食つなぐのもやっと……
そんな状態の中、師を失い気力も底をつき、3日ほど横たわっていたアンだったが、そんな彼の下に――否、今は亡き師の元に一つの手紙が届いた。

それが、“悪徳の街”(ヴァイスシティ)への招待状だった――