彼は勇者に憧れる少年だ。

生まれはどこかの田舎。それも小さな村である。
その村で仲睦まじく暮らす冒険者の夫婦がいた。
その愛情は周りから不思議な目で見られるほど凄まじいものであった。
そんな深い愛情の間に生まれた子供にはツノが生えていた。
そのツノは愛しい母体を殺し、男に殺意を抱かせるものである。
そうして最愛の妻と引き換えに生まれた息子を夫は、愛することができなかった。
しかし憎悪にふけて殺すこともできず、存在しないもののように扱うしかなかった。
村の人もその息子のことに関わることはせずに居ないものとして過ごす。

そんな孤独が当たり前の少年に光が舞い降りる。
それは遠く聞こえた吟遊詩人の語り紡がれる言葉、勇者の物語だ。
吟遊詩人の周りには村の子供たちが集まっているが、自分は近づけない。だけど気になる。そうして木の影から見ているとふと語り部と目が合う。
少年は驚いて木の裏に隠れる。
その様子を見た語り部は何を思ったのか、話し方を変え、大きな声で雄大に語るように子供達に語り始めた。
まるで、すべての子供達に聞けるように紡がれる物語は少年の耳にも届いた。
そうして彼は勇者の話を覚える。
迫り来る魔物を打ちのめし、邪悪なドラゴンを倒し、人々に慕われる勇者の話だ。

「僕もそんなふうに！」

そんな風に少年は願う。そうすればきっと、きっとお父さんから愛してもらえる。

そんなことを思ったのが冒険者になった理由。
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