数年前、ブルライト南部のエルフの森で大規模な疫病が発生しました。どの新聞でも取り上げられましたから、賢明な読者の皆様は覚えていらっしゃることでしょう。その疫病は人ではなく、森の木々を侵すもので、エルフたちは次々と住む場所を失っていったのです。しかし、もうこの国にその疫病の影はありません。なぜか？──『救世の炎』が現れたのです。その名はエメリア・フォレストバーン、まだ無名の冒険者だった彼女が、危機に瀕した森を焼き払い、疫病の蔓延を食いとめたのです。森を焼く、という大胆な判断は、その地に住んでいたエルフには下すことができませんでした。しかし彼女は途方に暮れるエルフたちの間をさっと駆け抜け、疫病の蔓延する森の中へと飛び込んだのです！彼女はその、類まれなる炎属性魔法と風属性魔法の才を発揮し、森を必要な分だけ焼き払い、疫病を根絶することに成功したのです。彼女は今も、世界中で同様の事件を解決するなど、活躍を続けています。皆様もどこかで、彼女の美しい炎を目にすることがあるかもしれませんね。

「炎というのは破壊的な力です。忌避感を持つ人も多いでしょう。私も火事によって故郷の森を失いました。ただその力は、使い方次第では人の命を救うということにも繋がります。私は自分の力を、この世界をより良く、より美しくするために使っていきたいのです」
　これは彼女が本誌のインタビューに答えてくれた時の言葉です。炎だけでなく、心も美しい人物のようですね！

　頭が痛い。今朝のクソ新聞の記事のせいだ。やっと皆が忘れかけてきた頃なのに、掘り返すんじゃない。
　本当に失敗した。3年前のあの日、よく燃えそうな木を前に理性を飛ばしてしまったのが運の尽きだ。欲望の赴くままに燃やし尽くしていたらいつの間にか英雄のように崇められ、変なテンションのままインタビューに答えて有名になってしまった。そうすると常に人の目がついてまわる。『日課』も随分やりにくくなってしまい、イライラする日々が続いていた。まあ、合法的に森を焼ける機会が増えたのは良かったが……。
　最近はようやく自由な時間が増え、『日課』を行えるようになってきた。しかし時折、爆ぜる枝の音を聞きながら、虚しさを感じる時がある。理由は明白だ。
「人……そうだ、人が焼きたいんだ」
　それは禁忌の願い。え？森を焼くのも禁忌？うるさいよ。……森を焼くものは、やがて人も焼く、偉い人もそう言っていた。これは正常な心情の変化なのだ。
　ただ私は、人を焼いてはいけないということも知っている。事が露見する危険性が、森のそれとは比べ物にならないからだ。どこかにいないだろうか。燃やしても死なず、むしろ喜んでくれる変態とか。欲を言えば、私好みの美少女であれば良いのだが……。