白い髪と浅黒い肌
翡翠の瞳
人里に紛れるべく、第三の目は前髪で隠している
第三の目は真っ黒な瞳をしている
森や茂みに溶け込むための深緑のマント

僕が生まれたシャドウ一族の村は、村と呼べるようなものではなく軍隊のようなものであった。
僕の村はシャドウの一族の中でも暗殺技術に特化していて、各国の暗部として派遣され暗殺を請け負う、所謂"掃除屋"を育てるための場所だった。

朝から晩まで暗殺技術の訓練。
資本である身体の品質を担保するために徹底的に管理された食事。
それらを耐え凌いだ先にあるのは、ただ他人の命を奪い続ける日々。

それが村にとって、そして僕にとって当たり前だと思っていた。
ーーーあの日までは。

その日、13歳だった僕は同年代の子供達と共に夜間の大型モンスター討伐の実地訓練を行っていた。
モンスターの攻撃で吹き飛ばされた僕は、その先の崖下に落下。
気が付いた時には陽は高く上がっており、そして周囲からは心地の良い鳥の囀りだけが響いていた。
そう、仲間達は僕が崖下に落下しても任務を続行し、あろうことか放置して帰還してしまったのだ。
そりゃあ僕は他の子供たちと比較すると戦闘能力が低い落ちこぼれだったけどさ、曲がりなりにも仲間だと思ってたのに。
仲間の冷たさに打ちひしがれる僕を、激しい痛みが現実へと引き戻す。
運良く木々や茂みがクッションになってくれたとはいえ、かなりの距離を落下した僕は当然その場から動けず、ただ助けを待つしかなかった。
ーーが、これまた運良く通りがかった冒険者のパーティに僕は助けてもらった。
その冒険者たちから振る舞われた食事が、僕の生き方をまるっと変えることとなる。
肉汁が溢れ出すステーキ、ごろごろと野菜を無造作に入れたスープ、自分の顔と同じくらいの大きさの、樽と見紛うほど大きなカップに並々と継がれた赤い酒。
それら狭い世界で生きてきた僕の価値観を壊すには十分すぎたものだった。

世界にはいろんな食事があり、景色があり、文化があり、人がいる。
そんな世界を知らずあの狭い村で一生を終えるのは、あまりにも馬鹿馬鹿しいだろ。

技術を外部に流出させないため、どんなことがあっても村に帰還しなければならないという掟がある。
でも、もうどうでもいい。
掟なんか知るか、僕は僕の意思で生きるんだ。

そうして僕は村には戻らず、そのまま冒険者を目指して世界を旅することとなった。
この広大な世界を自分の目で直接確かめるために。

因みに人は殺したことがない。人の血を見たら倒れちゃうかも。

本人に自覚はないが、とにかく運が良い。
酒は好きだが強くはない。
経歴もありシャドウ族には一種の同族嫌悪のようなものを抱いている。第三の目を隠している理由の一つ。
戦闘は得意ではないが、刺した所が偶然急所だったことが稀にあり、一応冒険者としてやっていけている。
モンスター以外を殺したことがない。