ここはどこだろう。
パパ、ママと喧嘩して家を飛び出したところまでは覚えているものの、
気付いたら月明かりが差し込まない森の奥へ迷い込んでいた。

「うぅ……暗いよ……パパ、ママ、どこにいるの……」

森の道はとても暗く、松明などの明かりを照らす手段を持たないこの状況において、
私はとても心細くなっていた。

しばらく真っすぐ進んでいると、明かりが見えてきた。
焚火の明かりだろうか。明かりの方向へ近づいてみると、人の気配がすることがわかった。

「あの……すみません。道に迷っちゃったんですが……」

藁に縋る思いで話しかけた。
そこにいたのは冒険家だった。この森の調査に来ているらしい。

「あのね、私、パパやママと喧嘩して家出しちゃったの。
　でも気づいたらこの森に迷い込んじゃって……」

私は安心したのか、自分のことをたくさん話した。
冒険家のお兄さんは何も言わずに、時折相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
私が一通り話し終えると、冒険家のお兄さんは自身の境遇について話してくれた。
……私はバカだ。つまらない事で意地張って、結局皆に迷惑かけて。

「グスッ……私、パパ、ママと仲直りしたい」

私がそう呟くと、冒険家のお兄さんは頭に手をポンと乗せ、まずは無事に帰って元気な姿を見せろと言う。
笑顔で「うん！」と返事をすると、明日無事に帰るために私たちは眠りについた。

私は一定の間隔で揺れている妙な感覚で目が覚めた。
周りの景色を見てみると、昨日迷い込んだ森の景色ではなく、普段よく見ていた集落の景色だった。
どうやら私は冒険家のお兄さんに背負われて移動しているらしい。

そういえば、私はこの冒険家のお兄さんの名前を知らない。
ここまでしてもらってずっと冒険家のお兄さんと呼ぶのも失礼なので、名前を聞いてみることにした。

「お、おはよう、冒険家のお兄さん。えっと……、ねぇ……。お兄さんの名前って何て言うの？」

名前を聞くだけなのに変に緊張してしまい、ちょっと言葉に詰まってしまった。うぅ、恥ずかしい。
冒険家のお兄さんはそんなことは気にも留めず、名前を教えてくれた。

「お兄さん、ワイルズっていう名前なのね。ふふっ、素敵な名前♪」

緊張していることを悟られないように、他愛もない話を続ける。
ワイルズには悪いけど、心地良い一定のリズムを刻む背中をもう少し堪能することにした。

ワイルズの協力もあり、私は無事に家に戻ることができた。
私はワイルズから離れ、玄関のドアノブに手をかけたが、
ふとワイルズの方を見てみる。何も言わずにここから去ろうとしていたので、私はの急いでワイルズの元へ駆け寄った。

「ねえ、ワイルズ。私たちまた会えるかな？」

ワイルズはしばらく考え、自身がつけているネックレスを私に渡した。
ワイルズは冒険家なのでまた会えるかどうかはわからないが、
もし私が冒険家になるつもりがあるなら、そのネックレスを頼りにギルドなどを訪ねてみるといいらしい。

「わかった！私、必ず冒険家になってワイルズのこと探しに行くからね！」

私の言葉を聞いたワイルズは私の頭をポンポンと軽く叩き、今度こそここから立ち去って行った。

その後家に戻った私はパパとママにこっぴどく叱られたが、今はこの両親の愛をしっかりと受け止めておくとしよう。

「これで持ち物はよし、と」

今日は私の15歳の誕生日。そして、冒険家として偉大なる1歩を踏み出す日でもある。
支度を整え、両親の元へと向かう。

「パパ、ママ。今まで育ててくれてありがとう。それじゃあ、行ってくるね。必ず帰ってくるから。」

両親へ暫くの別れを告げ、家を出る。
私は首から提げたネックレスをぎゅっと握り締め、高鳴る高揚感を噛みしめながら冒険家としての一歩を踏み出した。

・子供のころに家出したことがある
・命を助けられたことがある
・決して手放せない小物がある
・冒険に出た理由：探している人がいる