年若いレプラカーンの少女。
レプラカーンの中でも比較的小柄であり、成長次第でようやく平均といったところ。
元気いっぱいで、おいしいものを食べるのが好き、などという野生児気質。
あまり知恵がなく、即物的なものの考え方をする。
喉に怪我をしており、その損傷ゆえか痛みを嫌って、まるで犬のように鳴くか、たどたどしい喋り方をする。
静かに時間を過ごすよりも、大抵はせわしくなく活動的に動いており、興味が向いたものにすぐ近づく。
体を動かすことは好きだが、逆に考えることは苦手……というよりも嫌い。
依頼などでも基本的には誰かに頼まれたことを、その是非にかかわらず、そのまま考えずに実行する方が気楽だと考えている。
すなわち「ついてこい」「戦え/殺せ」。彼女は戦闘要員としての己に満足しておりそれで良いと思っている。
大抵はほかの冒険者/放浪者についていって仕事をこなす。
そんな彼女がまっとうな冒険者などになれる訳もなく、今期の舞台の場所へやってきたのも。
たまたま気に入った相手にくっついてこの場所へやってきただけだ。
誰かに命じられて、あるいは依頼を受けて。
荒事に繰り出し、戦い、傷つけ傷つけられることは彼女にとっては苦ではないようだ。
日々言われたことをこなし、温かい食事と、暖かい寝床。
わずかでも優しさを与えてくれる誰かがいれば、彼女にとって満足なのだった。
【経歴】
とある蛮族領に隣接する地域。そこにひっそりと建てられた施設に、彼女はいた。
そこでは人族領から集めてきた人族を、食用に加工する工場だった。
そこに彼女がいたのは、奴隷商に売られてきたのか、併設された牧場で生まれたのか、本人も定かではない。
コボルドや人族奴隷がそこで就労を強いられており、ある程度成長した彼女もそうした仕事を与えられた。
そうして労働を与えられ、ある程度成長したり、使い物にならなくなった奴隷はそのまま"出荷"された。
彼女はその中でも種族的に小柄なことから「まだ出荷に適さない」と誤認され、ほかの奴隷たちより長く働いていた。
労働を監督する蛮族は、成長が遅い不良品と見做し、ほかの奴隷よりも適当に扱うことにしたようだ。
まともな食事は与えられず、ほかの奴隷が嫌がるような仕事を与えられ、いつ動かなくなるか賭けの対象にすらなっていた。
悲鳴が煩いからと、喉を潰されたのもこの頃だ。
たまたま頑丈に生まれついた彼女は、運よく生き延びて、腹を立てた彼らに、「使えないゴミ」と罵られ、名付けられた。
そのような環境で彼女が心を壊さずにいられたのは、ひとえに、「それ以外の環境」を知らないからだった。
「やれ」と言われたから仕事をこなしたし、「殺せ」といわれたから殺した。
幸福を知らなければ、不幸もない。そうした比較をする対象もなく。
自分が"そういうもの"だと彼女が受け入れることはごく自然なことだった。
人族の肉を加工して、不要な廃棄物を片付けて、食事など与えられないから。
そこにこびりついた、冷たい死肉を食んで生き延びていた。
「ゴミがゴミを食っている」などと嗤われながら。
―――
――
そんな常人であれば地獄のような、―――彼女にとっては変わりない日常―――は、とある日に終わった。
施設の存在を知った冒険者たちによる、襲撃である。蛮族や協力者は抵抗するも追い散らされたのだ。
その時助けられるのではなく、逃げ出す者らに連れ去られたのは、不幸というべきか。
若い子供の、女の奴隷は売り先がそれなりにあるのだ。例えば蛮族領に、例えば魔神の贄や、魔法の実験台に。
つまりは逃走するための軍資金の一部だ。
何も変わらずに、ひっそりと終ろうとしていた彼女の生がつながったのは、偶然だった。
偶然、逃走途上で魔物に馬車が襲われて。
偶然、護衛や奴隷が食い殺される中で、抵抗して生き延びて。
偶然、そこに旅人が通りかかってた助けられたのだ。
その二人の旅人は不思議だった。
暴力ではなく優しく言葉をかけられたのも、傷の手当てをされたことも。
なにかを「やれ」と言われずに食事を与えられたことも。
好きなだけ食べても怒られなくて、驚いたことも。
何もかも初めてのことだった。
だから、その二人について行ってみることにした。
前にいたところより、居心地は悪くないんじゃないか、とそう思ったから。