スフバール聖鉄鎖公国、その東端にあるビルズの街。
エユトルゴ騎兵国との国境ともなっているその街でエンデは育った。
シャドウと呼ばれるアルフレイム大陸においては希少な種族の身の上ではあったが、それを彼自身が気にする事は無かった…と、言うよりも自分がこの地にいる理由を答えられる人物がいなかったのだ。
ビルズの街にあるとある孤児院、月神シーンを祀る神殿の横に建てられたそこが彼の家であった。
神殿の運営と兼任をしている神官がエンデにとっての親であり、本当の親と思わしき人物は街の外で怪我を負い生まれてからそう月日の経っていないであろう赤子の自分を守る様に覆い被さっている状態で亡くなっていたのだそうだ。
たまたま通りかかった冒険者が自分を見つけ、孤児院に預けられ───彼は今の年齢まで育ってきた。
それを不幸と思う事は無かったし、優しい神官と周囲の子供たちと共に過ごしエンデは幸せに暮らしていた。

年月が経つごとに、同年代の人物たちはやがて仕事を見つけ孤児院を出ていく。
大体成人を目途に離れていく事が多い中で、しかしエンデはこれと言ってやりたい事を見つけることができなかった。
彼にとっては世界の大半がこの孤児院の中で完結されており、その僅かな例外もビルズの街に収まる範疇だった。
神官からも将来をどうするのか度々聞かれる事があったのだが、エンデはそれに対し明確な回答を返す事が出来ず仕舞いだった。
遂には孤児院の中でも年長…と言うより成人してしまい施設には同年代がいなくなってしまうまでになってしまったが。
未だにやりたい事は見つけられず、このまま惰性で孤児院の運営を手伝う事になるのだろうかなどと考えていた。

｢やりたい事がわからないのなら、やりたい事を探しに行けば良いんじゃないか？｣
隣国…渡し舟を伝って行けるエユトルゴ騎兵国にて騎士の扱う騎獣を育成する牧畜系の仕事に就いた幼馴染。
彼が里帰りを兼ねて孤児院に顔を出し、夜の店で酒を交わしながら言った言葉がそれだった。
探しに行くと言っても、自分には外界に伝手が一切無い。
ビルズの街の外に出てもできる事は無いのだと、彼に話す。
｢伝手が無いならそれこそ自分で作れよ、自分から動かなきゃ環境だって変わらないだろ。｣
元々騎士を目指していた彼は、ベイセにて軍事に関する仕事に就きたいと言って孤児院を出て。
何があったのか聞く事はしなかったが、結果として彼は隣国でそれを果たしてはいる。
騎士への憧れ…夢が潰えた訳ではないが、それでも今の仕事は天職だと思えるほどに自分に合った…のだそうだ。

彼自身の体感を含んでいたからだろう、言葉には説得力を感じた。
しかし、孤児院での生活では碌に手持ちの路銀も無い。
"やりたい事を探しに行く"と言った所で、それを行うにしても先立つものは必要だ。
それを愚痴ると。
｢冒険者、やればいいんじゃねぇの？｣
軽い口調で友人は言う。
───冒険者。
人々の役に立ちながら危険に相対し、立ち向かい。
要塞壁から外に出てそこに続く世界をその眼に収める事が出来る存在。
確かに、今の自分の悩みを解消する上での条件はぴったりかもしれない。
それでも自分の消極的な姿勢に対して、冒険者として起こりうる危険性のリスクが釣り合う程魅力的にも思えなかった。

悩んだ末に、エンデは父代わりの神官へと内心を正直に打ち明け相談した。
神官はエンデの言葉に対し
｢私が意見を回答するのは構わないが、結局その言葉に君が流されては意味が無い。
しかし、その悩みは君にとって大きな経験になるだろう。｣
エンデは悩んだ。
悩んで、悩んで、悩んで───結局の所、自分にとって『正しい』と思われる答えは見つからなかった。
しかし、わかったこともある。
自分は頭が固く、知見も狭いと言う事だ。
己が納得する答えを得るには……このまま惰性で生活していても駄目なのだとは理解した。

そしてエンデは孤児院を出た。
将来を妥協しない為にも、自分にとっての最良の未来を見つける事を目的に。
───まずは交通の整備された場所での足場固めだ、と。
国の西端にある港町を目指して。

【経歴】

・育ての親に拾われた
・故郷の場所を知らない
・血縁者と死別したことがある

【冒険に出た理由】

・まだ見ぬ世界を見る為