見かけたことも聞いたこともない、白色の生地を基準とした赤色の模様が目立つ服装。
白色の髪は傷んでおり、赤みがかった毛先もボロボロだ。
全体的に広がるかすり傷と、痣のようなものが目立つ。

人族に怯えており、発する声が完全に委縮するほど。
特定の神に執着している節がある。

アルフレイム大陸より南東の大陸、混沌海に隔たれているケルディオン大陸に彼女はいた。

リカントとは本来、アルフレイム大陸にしか存在しない種族だ。だがなぜ、彼女はそこにいたのだろう。


「むかしむかし、ある帝国にお金持ちの男がいました。」

「その男は、この世に退屈を感じていました。なぜなら、有り余るお金で手に入らないモノはないからです。」

「故に、男は見たことのないような珍しいモノが大好きでした。」

「ここは、そんな男が足繫く通う裏奴隷市。今日も今日とて、虚無を見るようにステージを見つめていました。」

「そして奴隷が全て出品され会場を後にしようとしたところに、司会の男がサプライズ商品と声を会場に響かせました。」

「どうやら、この大陸には存在しない獣耳が特徴の種族が売り出されるとのことでした。」

「男は、興奮気味に食いつきその奴隷をまだかまだかと待っていました。」

「白く美しい、透き通るような肌に髪、彼岸花を薄めたような妖艶な紅がかった目。そして、頭に生える双方の獣耳。」

「彼はごくりと唾をのむ。そして―――」

「そこは、彼女にとって希望でした。訳も分からずそこにいて、初めて優しく接してくれる人がいる場所。」

「彼女は故郷を想い、どうにか帰る方法を探すのでした。」


「しばらくの時が過ぎ、彼女は男の腹の内に潜んでいた凶暴性に襲われました。」

「男はストレスを一気に発散する性格だったのです。その矛先は彼女に向けられて。」

「透き通るような白い身体は痣だらけ、傷だらけ、変わり果ててしまいました。」

「そこからは彼女にとって地獄のような毎日が待ち受けていました。」

「彼女の意識はある一時を境に、途切れてしまいました。」

「目を覚ますと身体に違和感を覚えます。」

「額には二つの角、そして、手足の先端には痣のようなものがありました。」

「彼女は直感的に、穢れが溜まったことを悟りました。」

「それでも、彼女に降りかかる暴力は止まりませんでした。」


「そんな彼女を神様は不憫に思い、手を指し伸ばしました。」

「神様は道を切り開き、助け船を与えました。」

「彼女を再び元いた大陸へと返してあげました。」

「おしまい。」

名前はまだ無い。

アルフレイム大陸へ移る。