彼女は「黄金呪刻術」の技術を代々受け継いでいる家系に生まれた。
その為、彼女の家はこの技術に誇りを持っており家柄を大事に思っている。そのせいで、彼女の家は規律に厳しく遊びたくても遊べない窮屈な生活を送っていた。
彼女はこの家の長女ではあるが、上に一人兄がいる。本来であれば兄がこの技術を引き継ぐはずだった。
しかし、兄はナイトメアとして生まれてしまう。
両親は彼の事を蔑ろにしたりはしなかったが、どこか疎んでおり彼に技術を教えることはなかった。
やはり、ナイトメアというのは迫害されることが多く最悪の場合彼が技術をもてば過去の黄金呪刻師達のように殺される可能性があったからだ。
それに家柄を気にする両親はナイトメアが生まれた事を隠したかったところもあった。

だから、兄が冒険者になることを止めなかった。

彼女はそんな自由な兄がうらやましかった。でも、妬んだりはしなかった。
それは、家の中で兄だけは彼女にやさしくこっそり遊んでくれたり、冒険の話を聞かせてくれたりと彼女にとって自慢の兄だった。

兄が冒険者になったのは5年前の事だ。成人してからすぐに彼は村を出て、冒険者になった。
兄が家を出ていくときに彼女は離れたくないと泣いたが、兄は困ったように笑い彼女に約束した。
「いつか一緒に冒険に出よう」と。

そして、彼は冒険に出ていった。
とはいっても、初めのうちは小さな依頼ばかりだったため頻繁に家に戻ってくることが多くたくさんの冒険話を聞いた。
そんな話を聞いているうちに彼女も冒険に憧れた。
だが、彼女が冒険に出るのは両親が許してくれるはずもなかった。

だから、彼女は両親に冒険者になりたいといったことは一度もない。

彼女は生まれてから16年間恋というものをしたことがない。兄には憧れては居たし、好きではあったがそれは家族愛であり、恋というには違う。
かといって彼女は他人に興味がないわけじゃないし、理想が高いわけでもない。ただ、そういう機会がなかったのだ。
理由は単純。両親が彼女に技術を継がせるために勉強させ続け家から出ることがあまりなかったからだ。
それに、家から出て知り合いを作っても両親が認めてくれなければ好きに遊ぶこともできず、会うこともできなかった。
そのせいか、周囲の人達はあまり彼女にかかわることをやめていく。

だから彼女は恋をしたことがない。友人と呼べる人もいなかった。

今から1年前の事だった。兄は冒険者として成功しており、大きな依頼をこなすことも多くなっていった。
それは兄が多くの人に認められた証であり、彼女にとってそれは自分の事のようにうれしかった。
その反面、忙しくなった兄は家に戻る頻度が減っていきさみしさが募っていく。だけど、それでも兄が帰ってきたときはたくさん話しを聞けるし、一緒に居られる。彼女にとってはそれだけで十分だった。

だが、そんな生活は唐突に終わってしまう。
それはギルドからの報告だった。
兄が参加していたパーティその全員が依頼の途中で行方不明になってしまったというものだった。
そこでは魔域も確認されており、そこで消えてしまっては生存は絶望的だった。

彼女はその報告を聞いて、絶望した。
けれど、彼女は兄が死んだと信じられなかった。
だから、彼女は家を出た。
両親の事なんて知らない。黄金呪刻術の事なんて知ったことか。
自分を認めてくれたのは兄だけだった。だから、その兄を見つけるために…真実を知る為に彼女は家を飛び出した。

しかし、ただの少女が一人で兄を捜すことなど、ましてや一人で旅をすることなど不可能だった。
一か月もたたないうちに彼女は、疲労と空腹によって倒れてしまう。

次に気が付いた時には彼女は荷車の上だった。
彼女は幸運だった。たまたま渡りを行っていた黄金のキャラバンによって保護されたのだ。
そして、彼女はそこで様々な話を聞いた。けれど、兄の事を知っている人はいれど兄が今どこにいるかは知る人はいなかった。

彼女は彼らに兄を捜したいと話した。彼らは一緒には捜しに行けないが、兄を捜すなら強くなれとそしてそのための場所を教えられるといってきた。
兄は強い冒険者だ。だから、兄を捜すのなら自分も強くなくてはならない。
彼女は彼らの言葉を信じ、マカブの住人になった。
そして、そこで一年が経過した。

まだ恋をしたことがない
規律に厳しい環境で育った
家族に冒険者がいる(いた)

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