忘れられない恐怖を体験したことがある

ナイトメアとは、穢れた種族である。
生まれた時から忌み嫌われる存在であり、迫害され生きてきた。
死にはしないが生きてるとも言い難い生活を送り続け、人族への信頼が欠けている。
優美なエルフの中に一人、穢れを持った少年は存在しないいのちだった。

ある日、蛮族たちによる権力争いが勃発し、ほど近い故郷は炎に撒かれる。
郊外にいた少年は、去っていく男の手によりすくわれた。自分とよく似た男だった。
冒険者として歓迎されることを知らぬ身は、そのままモルドレードにつくこととなる。
浮き出る痣と消えない痕を隠すため、常に包帯を巻いている。

毒を食べたことがある

死ねたほうがマシだった。
人族から与えられる食事を摂るたび、思い出す。

決して手放せない小物がある

ブレスレット型の小さなマギスフィア。
モルドレードが気まぐれに渡したオモチャが、手に馴染んだ。

失われた場所を取り戻す

――どこかに、きっと。

モルドレードに拾われ、迷宮踏破時代から傘下にいた。
当時は戦力にはならず見ているだけだったが、"見る事"についてのスキルは磨かれた。
また、魔動機文明に関する本を読んでいるうちに読み書きができるように。
モルドレードの手伝いをしているうちに雑用は板についた。色々出来るようになった。
故郷にいる頃と比べて快適になった生活に満足している。服はモルドレードから貰った。

人族を奴隷として入れるようになってから、魔動機文明の発音を冒険者から盗み学ぶ。
とある冒険者から剥ぎ取ったマギスフィアをモルドレードから貰い、
役に立てるようにと、いよいよマギテックとしてのスキルを磨くように。
銃は商館で調達している。使うアテのなかったガメルを注ぎ込んだ。

人族であることを利用し、人族の冒険者を引き込む。人族であるからこその役目。
――そうして、ちぐはぐな4人組と出会った。

ちぐはぐな4人組を迷宮に引き入れた。力試しは難なくクリア。カーマが痛そうだった。
自分の意志がどうとか言う。従わされてるわけではないが、外の世界が気にならないかと……。
いや、どうせどこも変わらない。なら、このままでいいじゃないか。どこかなんて、どこにもない。
不思議な歌が気に入った。彼らも長く居ればいいのに。

案内した。相変わらずブートはうるさいし、ボポロはおっちょこちょいだ。
皆が言う「信仰」というのは随分と面倒らしい。相性がある事は覚えておこうと思った。
自分も何か信仰を持った方がいいのだろうか。
ルウェインは相変わらずだった。……訓練と整備はあまりサボるものじゃない。

人嫌いは好きにすればいいが、規律を乱すのは頂けない。今のままが続けばいい。
……バルバロスとしてはあれのほうが正しいという。よくわからない。
どうして自分は拾われたのか。気まぐれ、なのだろう。

もういないマスターの命を遂行し続けるだなんて哀れだと思う。終わらせる以外に解決方法があったのか？
死んだ者が再び動くなんて見たくもない。あいつらはもういない。だから今が、ふつうに生きていられる。
……嗚呼、嫌だ。怒鳴る声を思い出す。痛い、いたい……。
あの日の炎を思い出した。属性魔法を使えるようになって、無意識に出るのはやはりこれなのだと思った。
全てを無くしてくれた炎。今日は蝋燭でもつけて眠ることにする。

耄碌していた爺さんに最後まで振り回されていたような気がする。仕事を完遂出来なかった。
生きる意味とは、何なのだろうか。生きる意味がなければ生きてはいけないのか？
これが原因で国とやらと衝突しなければ良いのだが。
……世界が、変わってきている気がする。俺も変わらなければならないのだろうか。

俺の魂に"死の刻印"とか言うのが刻まれているらしい。あれが最期に遺した言葉の所為だろうか。
――……結局、何も、変えられない。全く、"穢れもの"に相応しい運命じゃあないか。
モルドレードに恩を返すどころか、仇で返す事になりそうだ。彼は俺の事をどう思うのだろう。
別に、気まぐれで生まれた余生が終わるだけ。怖いと思うのが正常なのだろうか。分からない。
そもそも俺はいつ刻印を受けたのだろうか。モルドレードは、どうして……。
せめて、迷惑にならないようにしたい。1年後にここを去れば、あるいは。俺は何処へでも行ける。