ゆとシートⅡ for SW2.5 - ゆと工公式鯖

神瀬 麦(井戸) - ゆとシートⅡ for SW2.5 - ゆと工公式鯖

“舶来の片角鬼”神瀬 麦コウノセ ムギ(井戸)

プレイヤー:謙虚な日本酒

人に仇なす鬼は、ぼくが討つよ」

種族
ウィークリング(ミノタウロス)
年齢
18
性別
種族特徴
[蛮族の身体][暗視][剛力]
生まれ
踊り子
信仰
禘旦之大女神
ランク
穢れ
2
10
8
5
10
8
9
9
9
10
成長
0
成長
1
成長
3
成長
0
成長
0
成長
1
器用度
20
敏捷度
19
筋力
23
生命力
17
知力
14
精神力
16
増強
増強
増強
増強
増強
増強
器用度
3
敏捷度
3
筋力
3
生命力
2
知力
2
精神力
2
生命抵抗
5
精神抵抗
5
HP
26
MP
16+2=18
冒険者レベル
3

経験点

使用
5,500
残り
-2,500
総計
3,000

技能

ファイター
3
エンハンサー
2
レンジャー
1

一般技能 合計レベル:5

農夫
5

戦闘特技

  • 《斬り返しⅠ》
  • 《薙ぎ払いⅠ》

練技

  • [補]【マッスルベアー】
  • [補][準]【メディテーション】

判定パッケージ

レンジャー技能レベル1 技巧 4
運動 4
観察 3
魔物知識
0
先制力
0
制限移動
3 m
移動力
19 m
全力移動
57 m

言語

会話読文
交易共通語
汎用蛮族語
地方語(龍骸諸島)
魔動機文明語
魔神語
技能・特技 必筋
上限
命中力 C値 追加D
ファイター技能レベル3 23 6 6
武器 用法 必筋 命中力 威力 C値 追加D 備考
〈妖精のモール(炎)〉[打] 2H 20 +1=7 35 12 +2=8 追加Dは種族特徴
技能・特技 必筋
上限
回避力 防護点
ファイター技能レベル3 23 6
防具 必筋 回避力 防護点 備考
スプリントアーマー 15 5
合計:ファイター/すべての防具・効果 6 5
所持金
0 G
預金/借金
G

所持品

名誉点
0
ランク

名誉アイテム

点数

容姿・経歴・その他メモ

日記

あまり書き物は得意じゃないんだけど……アルフレイムで経験したことはしっかりと書き留めておいた方がいい気がしたから日記をつけることにした。
いつかこれを読み返した時に楽しかったなぁって思えるようなものになるといいな。

ニルカンタ縫製工場Ⅱ・灼熱の動力炉

卯月の末頃、栄誉の旅からの要請で魔動機文明時代の遺跡の調査を行うことになった。
縫製工場とは名ばかりの軍事設備で、遺跡内には変わった戦装束や、炎や毒を使って攻撃してくる魔技鉄具が徘徊していてとても危険だった。
一度膝をついたりもして危なかったけどなんとか任務は達成できて良かったな。
……あと前から薄々思ってはいたけど、ぼくジャンケン弱い気がする。練習すれば強くなれるものなのかな。

同行した人

黄泉路:湊斗藩で時々一緒に任務についたことのある黄泉路と偶然再会して一緒に任務を受けることにした。相変わらず一本気の真っすぐな太刀筋で、言葉に迷いもなくて頼れたな。道中拾った靴をはいてから妙に足元が忙しなかったけど。

寧々:同じく湊斗藩からの知り合い。まさかこんな異郷の地で会えるとは思ってなかった。斥候としての腕もさることながら、海を渡って覚えたらしい敵の守りを崩す技術もすさまじかった。ちょっと黄泉路に傾倒し過ぎなのが危なっかしくて心配だけど……。

ヘロス:栄誉の旅に所属している冒険者で、盾を武器として扱う変わった人。場の流れで今回の任務の代表者みたいな扱いになっちゃって少し悪いことしたな。ぼくの角を見ても顔色一つ変えなかったけど……アルフレイムの人っておおらかな人が多いのかな。

フィエタ:ミルタバルっていう神様を信仰している神官さん。冒険者じゃないって言ってたけど……明らかに冒険者証を持っていたのはツッコミ待ちだったのかな?お金になりそうなものを見つけるのが上手で、フィエタのお陰でだいぶ実入りが増えたと思う。なんだか黄泉路との雑談で盗みがどうとか口を滑らせてた気がするけど……いやきっとぼくの聞き間違いだよね、うん。

捨身の魔域

皐月の初め頃、巡る空鯨亭でファーベルト平原に出現した魔域征伐の依頼を受けた。
魔域に入るのは初めてだったけれど独特の空気感というか……気味の悪さは幽世とよく似ていたと思う。
ぼくの妖術も使うことが出来た、アルフレイムにはアラミタマがないから使えないと思ったけど……代替となる力を魔域から引き出せるみたいだね。

同行した人

ウィング:天馬を駆るお姉さんで、明るい雰囲気の人。ぼくの角を見て少し驚いていたみたいだけどそれで酷遇したりせず、寧ろ優しくしてくれていた気がする。どうも弟さんがナイトメア……龍骸でいう鬼子らしいから、ぼくみたいな鬼にも優しいのかな。
そうそう、一緒に訓練をする約束もしたからそれも楽しみだな。

灰ネズミ:小柄な弓使いの人、戦闘では役に立てないなんて謙遜していたけど……いざ戦闘になってみたらここぞという場面で確実に敵の急所を射貫いて仕留めていて驚いちゃったな。
そういえば……最初年下だと思っていたんだけど年齢を聞いてみたらぼくより6つも上でそこでも驚かされた。

オリーヴ:高位の魔法を使いこなす草人さん。今回同行した人の中だと一番ぼくのことを警戒していたけれど、一緒に任務に当たっている内に信用してもらえたみたいで、魔域の攻略が終わることには随分態度が柔らかくなっていた……気がする。そうだといいな。
フロウライトという全身が石で出来た珍しい種族のお友達がいるらしい、好奇の目で見るみたいで失礼かもだけど……一目会ってみたいな。

フィエタ:フィエタには他の3人から一時的にでも信用してもらえるように誓いの魔法をかけてもらった、あれで少しでも他の3人の不安を軽減できたなら幸いかな。
今回は以前にも増してセクハラが多くて、ぼくだけじゃなく他の皆も隙を見て触りに行っていた。良くない。
適当に振舞ってはいるけど大事な場面ではちゃんと仕事をするし、ぼくにも分け隔てなく接してくれるから本当はいい人のはずなんだけどな。

Can't go home again, baby

皐月の初め頃、ミラージ共和国で龍骸諸島のものと思しき魔物が這い出す魔域があるという話を聞いて救援に赴くことになった。
魔域内には忍者や侍、妖と似た魔物が闊歩していた。向こうの戦闘技術は特殊で強者でも足元を掬われることがあるからぼくの経験が少しでも役に立ったのなら嬉しいな。
それと……畳や襖を魔域内でみて、少し懐かしい気持ちになった。まだアルフレイムへ渡って来てからそんなに経っていないのに……ぼくって自分で思っている以上に寂しがり屋なのかな。

同行した人

ツバインヒ:龍人の戦舞士さん。今回同行した人で一番驚いたのはこの人かも、龍骸じゃ龍人っていうのは龍皇様くらいしか見ないから……こっちだと一般的な種族なんだって聞いてビックリしたな。種族を抜きにしても何かにつけて踊ろうとするところに驚かされた、でも踊りは見事だったしぼくの角の事もほとんど気にしていなかったし……いい人なんだね。

グラス:レプラカーンっていう小柄な種族の戦士。龍骸では見たことない種族だったから一瞬子供かと思っちゃった、失礼な事言っちゃってないといいけど……。
ぼくが鬼であることに少し懐疑的な目を向けていたけど肩を並べて戦っている内に信頼してもらえたみたいで良かった。探索中罠として設置されていた銃を破壊したら勿体なさそうにしていた、少し悪いことしちゃったかも。

リャン:人間の弓使い、そして商人さん。冒険者ならではの需要に目を付けた商売に独特の話し方で、思わず湊斗藩の人達を思い出しちゃった。
今回少し故郷が懐かしくなったのは魔域の景色のこともあるけど、リャンの立ち振る舞いも一因だったのかも?
戦闘中借り受けていた魔符を一枚使わせてもらった、助かりました。

リベラ:サドゥールという神様の神官さん。神官としての腕は確かなんだけど、突然浮き始めたり言動の節々に厭世観のようなものが混じった……不思議な人だったな。もしかして神の声って少し変わった人しか聞くことが出来ないのかも?
う~ん……本当にそうかな?

経歴

龍骸諸島は南翅地方生まれの、人間と鬼族の間に生まれた忌み子。
灼尾の鬼との戦の最前線にある小村の育ちである。

麦の母親は一般的な村娘であり、鬼との戦の最中に攫われ、鬼の根城で強姦された折に麦を身籠る。
男しかいない種の鬼族であったために、女は比較的丁重に扱われるのも幸いして母親は鬼に殺されることもなく、その後鬼の根城に乗り込んで来た検非異使達によって救助されるまで生きながらえる事が出来た。

故郷の村まで無事に帰還して数か月後、村の者達に見守られながら母親は麦を出産する。
しかしその際麦が生まれつき持っていた牛のような角が母体を傷付け、その傷が原因で母親は麦が物心つく前には亡くなってしまった。
母親は死の間際に村人達へ「この子を村の仲間として迎え入れてあげて欲しい」と言い残しこの世を去った。
麦のことを排斥すべきだという意見の村人もいたが、最終的には母親の遺言を尊重し麦のことを村総出で守り、育てていくことになる。

生まれながらにして鬼の膂力を持つ麦はすぐに戦の才能に目覚め、10の頃には村を襲う鬼族との戦の最前線に立つほどの傑物となっていた。
村の為に身を粉にして戦う麦の姿を見て当初は懐疑的だった村人とも和解して信頼を勝ち取り、日々を命がけの闘争の中に生きながらも麦は満たされていた。

しかしある年の夏頃、悲劇を村が襲う。
突如として空を雷鳴と共に黒雲が覆い、それから程なくして村を疫病が襲い始めたのだ。
村人達が病に侵され次々に倒れていく中、麦はこの災いの元凶が『鵺』という妖であることを突き止める。

鵺とは猪の牙と獅子のたてがみを持つ大猿の頭、虎の四肢、穴熊の胴体、蛇頭の尾を持ち、病を振りまく黒雲と共に何処からともなく現れる恐ろしい妖で、一説ではアラミタマの活性化による凶兆を示す存在とされている。
どうやらこの鵺は灼尾の鬼族との戦によって周辺地域のアラミタマが活性化したことで姿を現したらしい。

麦は村人達を救うべく単身鵺退治に乗り出したが凶兆の具現たる妖の力は凄まじく、とても力及ぶ相手ではなかった。
死を覚悟したその時、とある検非異使が駆け付けて麦と鵺の間に割って入り、僅か数手の内に鵺を調伏してみせた。

検非異使の協力もあって鵺退治を成し遂げたものの、時すでに遅く村人達はみな病に侵され、最早助からない段階に達してしまっていた。
故郷を失い途方に暮れる麦だったが、助けに入った検非異使から「その力捨て置くには惜しい、検非異使として身を立ててみないか?」と声を掛けられ、それに応じた。

こうして検非異使となった麦だったが、鬼の身で事情を知らない人族の信頼を得ることは難しかった。
そこで鬼族から離反し人族についた存在であることを証明するために、鬼の証とも言える角を片方へし折ることで自分が鬼ではなく人の側の存在であることを示してみせる。

湊斗藩で検非異使として活動するようになって数年が経った頃、麦に新たな任務が下される。
「海を越えた西の地、アルフレイム大陸への船に乗り彼の地の事を学んで来い」という任務を受け、同じ任務を受けた検非異使達と共に大陸行きの船に麦は乗り込んだのだった。

虎鶫は黒雲と共に

「おーい麦!今日はもう見張りはいいから野良仕事の方を手伝ってやってくれ!」
「うん分かった!すぐ行くよ!」

『麦』、稲作が盛んなこの村においては異物だけれど、親しみを持てる言葉。
鬼であるぼくがこの村の一員として迎え入れられることを願ってお母さんが付けてくれたこの名前が、ぼくは好きだ。

鬼が強姦を行った末に産まれてきたぼくは所謂『忌み子』というやつで、本当なら堕胎させられていてもおかしくはなかった。
そんなぼくが今日までこうして健やかに育ってこられたのは、生まれて来る命に罪はないと説き、村の一員としてぼくを迎え入れてあげて欲しいと言ってくれたお母さんと、それを聞き入れてくれた村の皆のおかげだ。
お母さんはもういないけれど、その分村の皆にたくさん恩返しをしていきたい。

「麦、南の鬼共の様子はどうだ?」
「うん、今日も何も動きはなかったよ。最近は結構平和だよね、もしかして遂に諦めてくれたのかも?」

灼尾地方に程近いこの村は、頻繁に鬼との戦になる。
この村は特に鬼族の攻勢が苛烈で、多い時には週に3回交戦することもあるくらいだ。
けれどここ最近は随分と穏やかな日が続いていた。これほど長い期間戦がないのも珍しい。

「そうか……異常がないならそれでいいんだけどな」
「何だか浮かない顔だけど……何かあったの?」
「いやうちのカミさんが昨夜からなんかの病気になってしまったみたいでな、それにうちだけじゃなくて他にも何人か似たような病気にかかってるらしい。それでもしかして南の鬼共が呪術か何かを村に掛けたんじゃないかと思ってさ」

つい数日前までは皆健康そのものだったはずだ、それが突然似たような症状で倒れるというのは確かに少し引っ掛かる。もしかしたら本当に鬼が裏で手を引いているのかもしれない。

「確かに気になるね、夜になったら村の周りを見回ってみるよ。」
「いや野良仕事もあるんだし無理はしなくていいんだぞ、見回りなら他の連中でも出来るんだから」
「大丈夫任せておいて!ぼくが体力あるのは知ってるでしょ?それにもっと皆の役に立ちたいから!」
「あっおい!」

呼び止めようとする声を置き去りにしてぼくは田圃へと向かって駆け出した。
ふと南の方、灼尾の火山の方を見ると重い色合いの雲がかかっている。

「そっか、もう梅雨の時期か……恵みの雨のはずだけど何だか嫌な雰囲気だな……」


「ふう……こんな所かな」

田打車から手を離してぐっぐっと腰を伸ばし、額に浮かんだ汗を手甲で拭う。
日の高い内に作業を始めたはずが、空はすっかりと蜜柑色に染まってしまっていた。
今年は例年に比べて雑草……とりわけイヌビエが多く繁茂していたので想定よりも大分時間がかかった。
ぼくだって野良仕事を手伝うようになって結構経つから、稲とイヌビエの見分けくらいすぐにつけられるが、それでも多少気を付けて除草をしないといけない分集中力も時間も余計に食ってしまう。

「さて、日が落ち切る前に道具を片付けないと」

稲を誤って踏みつけないように避けながら畔に上がる。
作業用の脚絆と着物はすっかり泥まみれになっていて、このまま見回りに行くのは流石に憚られる。
道具の片付けが終わったら一度家に戻って着替えてから見回りに出ようか……そんなことを考えているとポツリと鼻先に冷たい雨が落ちてきた。

「えっあれ?さっきまで晴れてたよね……?」

空を見上げると先程まで鮮やかな蜜柑色に染まっていた空が、わずかに緑がかった重苦しい黒色をした雲に覆われており、ざぁざぁと雨を降らしていた。
雨足はどんどん強まり、雷まで鳴り始める。

「何だろう……この雨、すごく嫌な感じがする……」

胸の奥がざわざわするような嫌な感じ、戦場でも何度か感じたことのある死の気配。
鬼が襲って来たり戦いが起こっているような音は聞こえてこない。
けれど内から湧き上がってくるどうしようもない不安感に突き動かされるようにして、ぼくは走り出していた。

村の中心部まで辿り着いた時ぼくは目を疑った。
商店のおばちゃんも、大工の親父さんも、ぼくの武術の師匠も皆苦しそうに胸を押さえて地面に倒れ伏していたんだ。
全員血の気が引いたみたいに真っ白で、あまりの苦痛で雨に打たれているのにその場から動けずにいるみたいだった。

「む、麦……」
「あ……!村長さん一体何があったの!?」

ぼくを呼ぶ声がして咄嗟に駆け寄るとそこにいたのは村長さんだった。
村長さんも他の皆と同じように苦しそうに倒れていて、今の声だって必死に絞り出したみたいだ。

「よかっ……た、お前だけでも……無事で……」
「そ、村長さん無理しないで!すぐにお医者さんを呼んで来るから……!」

ぼくの足なら1刻もあれば町まで行ってお医者さんを呼んで来られる。
そう思って駆け出そうとするのを引き留めるように、村長さんがぼくの着物の袖を引いた。

「だ、駄目だ……もうわしは、いや他の者も……もう助からん、お前はすぐにこの村を離れるんだ……」
「な、何言ってるの?こんなただの病気くらいで大げさだよ……!」

違う。ただの病気なんかじゃない。
頭ではそう分かっていた。

兆しは出ていたんだ。
度重なる戦によるアラミタマの乱れ、突然出始めた病人、不吉な雨雲。
寝物語に聞かされる凶兆の具現、疫病を齎す妖の存在が脳裏にチラつく。

そしてそんな不吉な予想を振り払うように頭を左右に振った時、その鳴き声が聞こえてきた。

ヒョーヒョー

その笛の音のようなどこか物悲しい鳴き声は激しく降り続ける雨の中だというのによく聞こえ、あまりの不気味さに全身の皮膚が粟立ったようになる。
恐怖で射竦む身体を奮い立たせ、鳴き声のした方を見上げると、黒雲の中にそれはいた。
猪の牙と獅子のたてがみを持つ大猿の頭、虎の四肢、穴熊の胴体に蛇頭の尾を揺らす妖『鵺』。

アラミタマが活性化した土地に疫病と共に訪れるという凶兆そのものだ。
鵺は蛇の尾を揺らしながら真っ赤な瞳でぎょろぎょろと村を見回した後、一人だけ倒れ込んでいないぼくに視線をやった。

「う……あ……」

恐ろしい妖に見据えられ、ぼくは一歩も動くことが出来なくなる。
ただの小娘と同じように恐怖に震え、挑みかかるどころか武器を構える事すら忘れていた。
鵺はしばらくぼくのことを観察した後、興味を失ったようにして飛び去って行ってしまう。

ぼくは身体の震えが止まり動けるようになるまで、暫く呆然とその背を見送っていた。


鵺が村を飛び去ってから半刻が経った。
村の皆を安全な屋内に運び終えた後、ぼくは戦装束に着替えて出立の準備を整えていた。

時間が経ったことで少しずつ冷静になり、今の状況が整理出来てきた。
まずあの鵺が現れたのはこの村と灼尾の鬼たちの戦によるアラミタマの活性化が原因だろう、最近鬼族の襲撃がなかったのはきっと鬼族の集落に先に鵺が現れ、同じように災厄を齎したからだ。

それと村の皆は例外なく疫病に侵されているのにぼくだけピンピンしているのはきっとぼくが鬼だからだ。
鵺の疫病は本質的には病気よりもアラミタマによる呪いに近いらしい、アラミタマを鎮めるのでなく内に取り込むことで力の増強を図って来た鬼の血が、ぼくに鵺の齎す疫病に耐性を与えてくれたんだと思う。

鵺の疫病は非常に強力で、数日のうちに人を死に至らしめる力がある。
とても助けを求めている時間はない、今すぐに鵺討伐に動けるのはぼくだけだ。

肩に攻撃を受けるための急所護りを当て、身の丈ほどの大金棒を背負う。
万全の体勢を整えても限りなく勝ち目の薄い戦いになるだろう、だが村の皆を見殺しにするくらいなら僅かな可能性に賭けて戦わないとぼくの気が済まない。

「行ってきます」

すうと一つ息を吸い込み、鵺の飛び去って行った方角へ駆け出す。
既に日は沈み切っており真っ暗な夜闇が辺りを包んでいる。こういう時は夜目の利く鬼の身体がありがたい。

村からそう遠くない山の中に鵺はいた。
そもそも見つけ出せるかどうかが分からなかったが、鵺に近付くにつれて疫病に侵され死んでいる兎や雀などの小動物の姿が増え、それが目印になってくれた。

鵺もぼくの来訪に気が付いたのかゆっくりと身を起こし、闇夜の中で爛々と赤く光る双眸でぼくのことを睨みつけてくる。
一瞬気圧されそうになるがもう後に引く訳にはいかない。武器を握る手にぎゅっと力を込めて構える。

鵺はぼくの出方を伺っているようで姿勢を低くしてその場で待ち構えている。
ぼくは鵺がいつ飛び掛かって来てもいいよう、摺り足でじりじりと間合いを詰めていく。
互いに攻撃の間合に入った時、ガサガサと頭上の枝葉が揺れた。恐らく鳥か何かが飛び立ったのだろう、鵺はその音に気を取られたのか一瞬だけ視線をそちらにやり──ぼくはそここそが好機だと踏んだ。

「はぁぁぁぁ!」
気合の叫びと共に遠心力に任せて大金棒を思い切り振るう。意表を突いた一撃は真芯で鵺を捉える……はずだった。だが大猿の顔がニィと笑ったかと思うと鵺は前足の爪でぼくの攻撃を受け止め、鵺の身体を殴りつけるはずだった渾身の一撃は鵺の爪とぶつかり、宙に火花を散らすだけに留まってしまった。

「ぐ、硬っ……!うっ!?」
鉄のような爪に攻撃を弾かれ、体勢が崩れたところを蛇の尾が打ち据える。
ぼくの身体はその衝撃で吹き飛ばされ、ゴム毬のように地面を跳ねてそのまま木に打ち付けられた。

鵺の知性の高さを見誤っていた。
この妖は頭上の鳥に気を取られたと見せかけて、蛇の頭でぼくの動きをしっかりと観察していたんだ。
ぼくはまんまと攻撃を誘い込まれて完璧な反撃を受けることになってしまった。

「く、そ……まだまだ……!」
一度傷の手当てをして仕切り直すために、身体の悲鳴を無視して茂みの中へと身を隠した。
背負い袋を開けて傷薬を探していると鵺が「ヒョーヒョー」と不吉な声で鳴いた。
その鳴き声を聞いているとズシリと身体が重くなってくるようだ。
不気味な鳴き声を堪えつつ、ようやく探し当てた傷薬を一息に煽るが不思議なことに全くと言っていい程効き目がない。

「薬の効き目が悪い……さっきの鳴き声、もしかしてあれが何か……っ!?」
気が付けば背後に鵺が前足を振り上げて立っていた。
薬の効き目が悪いことに動揺している間に探し当てられたのだろう。
咄嗟に大金棒を盾にするが、抵抗も虚しく大金棒ごと前足で押し潰されてしまう。

まるで蟻を踏みつけるかのように足に体重がかけられる。
メキメキと骨が悲鳴を上げ、呼吸することすらままならなくなっていく。

(あ、これ……だめ……)
酸欠と激痛で意識が飛びかけたその時、鵺の背後で白刃が閃いたかと思うとボトリと蛇の尾が切り落とされた。
突如として身体の一部を失った鵺は苦しみ悶え、ぼくを抑える足も離れていった。

「な、何が……?」
大金棒を杖代わりにしてふらふらと立ち上がり顔を上げると、そこに立っていたのは一人の猫又の男だった。
椿の意匠が施された脇差を片手に構えたその姿は一見脱力しているようにも見えるが、その実一片の隙も見当たらない。

「ちょっと待ってな。すぐに終わるから」
「あっ危な……!」

ぼくの方を見て話す男の背後から怒り狂った鵺が襲い掛かって来ていた。
そして警告の言葉をぼくが発するよりも早く、幾つもの風切り音が聞こえて来る。

ぼくが認識できたのはその音だけだった。
気が付けば男は脇差を振り抜いていて、鵺は足を振り上げた姿勢のまま静止し、一拍置いて断末魔の叫びと共に地面に崩れ落ちた。

「あなたは……だ、れ……」
全身に走る痛みに耐えきれず、そこでぼくの意識は途切れた。


鵺を討伐してから10日程が経過した。
あの時助けに入ってくれた人はぼくのことを抱えて村まで連れ帰ってくれたらしく、気が付いた時にはぼくは自分の家で眠っていた。

結果的に鵺の疫病に侵された村の皆は助からなかった。
確かに鵺を倒したことで疫病は治ったのだけれど、既に身体が衰弱しきってしまっていて、後は死を待つことしか出来ない状態にまで悪化していたらしい。
ぼくが目を覚ました時にはもうほとんどの村人が息を引き取る直前で、ぼくに出来たことは皆の最期を看取ることだけだった。

「……悪かったな、もっと早く鵺の発生に気が付けていればこんなことにはならなかったのに。これは俺達検非異使の落ち度だ」

ぼくのことを助けてくれた猫又の人は『猫宮 猫之進』っていう名前で、検非異使本部に詰めている偉い人らしい。どうしてそんな上の立場の人がこんな田舎村に駆けつけてくれたのかは……分からない。

「麦って言ったか、お前これからどうするつもりだ?」
「……分からないです。鬼のぼくの事を受け入れてくれたこの村の皆に恩返しをすることがぼくの全てだったから……」

ぼくにとって皆の事を助けることだけが生きる目的だったのに、結局それは叶わなかった。
村で鵺と出くわした時勇気を出して挑みかかっていれば、もしかしたら猫宮さんが駆け付けるのが間に合って村の皆を助けられたかもしれないのに。
そんなもしもの後悔が頭の中でぐるぐると回ってまともに頭が働かない。

「いっそぼくも今死んじゃいましょうか、そうすればあの世で皆に謝れるかもしれませんし……」
「なあ、俺がこの村に駆けつけた時、村の連中なんて言ったと思う?」
「え……?」
「妖を追いかけて行った子を助けてやってくれ、鬼の姿こそしているが大事な村の仲間なんだって言ってたよ。今わの際に自分達のことよりもお前の身を案じてたんだ」

その言葉を聞いて目頭が今にも決壊しそうなほど熱くなり、堪え切れずそのまま大粒の涙が頬を伝った。
皆は最期までぼくの身を案じてくれていたのに、そんな大事な命を軽々に投げ出そうとしてしまった自分が情けなくて、悔しくて、悲しくて、どうしようもなくなってしまう。


「なあ麦、お前も検非異使になってみないか?」
「ぼく、が……?」

暫く感情のままに泣きはらし、ようやく落ち着いてきたところで猫宮さんはそう言った。
検非異使──龍骸諸島中で日々引き起こされるアラミタマによる事件を解決する組織とその構成員のことだ。
ぼくだって存在は知っていたがこの村を離れる気なんてなかったからどこか遠い世界の話だと思っていた。

「この国じゃ今回みたいな悲劇は毎日のようにどこかで起きかけてる。鬼族みたいな強力な力をもつ奴らに抗えるのはほんの一握りの者だけで、検非異使はいつだって人手不足だ。
お前の姿を見て白い目で見る奴は当然いる……いや寧ろ大半がそうだろう、でも俺がなんとかお前が民草に受け入れられるよう取り計らってやる。」

猫宮さんは言いながらぼくに手を差し出してきた。

「お前の力、捨て置くには惜しい。民草を鬼や妖から守るためにどうか力を貸してくれ」
「正直……村の外の人達にどんな目で見られるのか、怖いです。」

ぼくは猫宮さんの手を取った。出来るだけ我慢していたつもりだけど少し手が震えてしまっていたと思う。

「でも、今ぼくが生きているのはお母さんや村の皆のおかげだから……その恩に報いるために精一杯戦います。」

こうしてぼくは検非異使の世界に足を踏み入れる事になった。

本当に人族の皆にぼくのことを受け入れてもらえるかは分からないけれど……ぼくのことを助けてくれた人達に少しでも恩を返せるように、例え誰に疎まれようとも人に仇なす鬼や妖はぼくが討ってみせる。
それが今のぼくの生きる意味だ。

履歴

蛮族の身体/魔法ダメージ+2点

セッション履歴

No. 日付 タイトル 経験点 ガメル 名誉点 成長 GM 参加者
キャラクター作成 3,000 1,200 敏捷×1
筋力×3
精神×1
能力値作成履歴#478523-3
取得総計 3,000 1,200 0 5

収支履歴

モール::-440
スプリントアーマー::-750
ファルファッラにお金譲渡::-10

チャットパレット