エルフの貴族の家に彼女は生まれた。
その家は子宝に恵まれず、彼女は待望の第一子だった。
透き通るような白い肌、綺麗な翡翠色の眼、金糸のような髪をしたとても可愛らしい姿にその貴族は喜んだことだろう。
ただ1点、彼女の頭から角が生えていなければ。
嫁を喪い、その原因とは言えたった一人の我が子を立て続けに亡くすのはとても耐えられなかった貴族は王に懇願
難航したがなんとか国の外れに彼女を住まわせることを承認してもらった。
その対価のように成長した彼女は労働力として酷使され、また父も貴族としての立場を追われ奴隷のように扱われる日々であった。

そんな一生を、私は認めることができなかった。
必ず帰ってくると置手紙を残し、国を出た私は森でただただ闇雲に力を求めた。
私一人苦しい目に合うならともかくなんの罪もない娘想いの父が虐げられる、そんな国を私は許すことが出来なかったから。
その生活をどれほど続けただろうか、ある日私は神の啓示を聞いたのだ。
慈愛と復讐の女神ミリッツァの声を。
やはり私は間違えていなかった、虐げる国が！国王が！それを看過する臣下が！鵜呑みにして父を虐げる市民が！その全てに
復讐し父を助け出すことこそが私のやるべきことだとついに悟ったのだ。
そうと分かれば話は早い、今すぐにでも国に戻り森で鍛え上げた力を用いてでも父を救い出す。

つもりだった。
私が戻ると、国は滅んでいた。奈落に、飲まれていた。
必ず戻ると約束したのに、父と再会することもできなかった。
復讐してやると誓ったのに、その対象は私の手で何をするでもなく消滅していた。
ならば嗚呼、この怒りはどこに向けるべきなのだろうか。
「向ける相手などいない、時間をかけてでも昇華させるしかない」と私の深いところにある理性は言ったかもしれない。
でも私は、衝動のように沸き上がる言葉に身を任せることにした。
これもまた、ミリッツァ神の啓示なのかもしれない。

人を募り、パーティを組み魔神を殺せる喜びを今日も私は味わおう。
「全テノ魔神ヨ、私ガ殺シテアゲル」

相手の魔神がどんなに強くても弱くても関係なく、ただ殺せることに感謝しているように笑うその顔。
見たものはどちらが魔神かわからなくなることからそう呼ばれるようになった。