とある街の、とある職人街、煙があがり槌をたたく音、ときたま勇ましい声が聞こえてくる。
そんな中のひとつの工房では、ひとり背の高い男が武器を鍛えていた。

名前はカナブン、ドワーフの多い鍛冶界隈の中で人間として多くの武器を作り出している。

今日もまたひとつの武器を鍛え上げた、一息ついているところにひげもじゃのドワーフが話しかけてくる。

「よう、今日もいい武器を作れたか?思ったより続いているもんだなぁ。」

「まだまだですよ、もっと精進しないと。」

そう答えるカナブン、謙遜しながらも楽しそうに答える。

「しっかしよぉ。お前が弟子入りしたいと言い出して工房に入り浸ったときはどうかと思ったぞ。ひょろい人間のガキが武器を打ちたいと言い出した時には続かねぇだろうなぁと思ったしよぉ...。」

「いや恥ずかしいもんですよ、あの時はなんというか...いろいろ感情がぶっ飛んでたんですよね...。恥ずかしい。」

「まぁここまで続いて、ドワーフの世界にもなんとかかじりついたんだからその思いは本物だろうよ、がっはっは！」

そう言いながら師匠は懐から酒瓶を取り出し、一口あおっている。

「そういやそんな思いはどこから生まれたんだ?単純に武器づくりにあこがれたわけではないだろう?」

「それなんですけど。
　自分の生まれなんですが、もともと傭兵の生まれなもんで、戦いをずっと見て育ったんですよね。その中で武器のせいで勝てずに倒れていく仲間、あと敵を目の当たりにしたもんで、武器をいかにいいものにするかが、生死を分けるもんだと思ったんですよ。」

「まぁそれはそうだろう、武器は命だ。ただそれだけだったら俺たちからいいものを買えばいいだろう?どうして打つ方に走ったんだ?」

「あいにく、ぼくはあまり戦いが上手くなくて......傭兵の中でも役立たずだったんですよ。それなら何か存在意義を見出し勝った。親は優しかったけど仲間内ではやっぱり疎外感があったんです。傭兵役立たずはいつか捨てられるかもしれないから。僕が僕でいるため、居場所を作るために必死だったのもありますよ。」

しみじみと話すカナブンの言葉には、下手からながらも大切な意思が込められていた。

「なるほどなぁ...お前さんもいろいろ大変だったわけだ。
　ただ今ではありがてぇからな、俺らドワーフは力と酒、鍛冶は強いがこまけぇことが苦手でよぉ...そのあたりいろいろ助けてもらえるからだいぶ助かってんだぁ、これからも頼むぞぃ。」

「ええ、それはもちろんですよ、傭兵界隈でも大事ですが、ここ鍛冶の世界でもぼくの存在意義がないといけないスから。」

師匠は満足そうにうなずくと、一つの紙を手渡してくる。

「そういやいつもの依頼なんだが、この素材、頼めるか?」

「ええもちろん、任せてくださいよ、師匠。」

「いやぁよぉ、素材とってくることに関してはやっぱりお前に頼むのが一番なんだわ。鍛冶やってねぇと素材の良し悪しがわからねぇ時があるからなぁ。」

そうこのカナブン、鍛冶屋よはいえど素材を取ってくる冒険者としても仕事をしており、職人たちからこういった依頼を頼まれることも多い。こうしたことから冒険者としても活躍している。

「おう！任せたぞ!」

師匠は笑いながら店を後にする。

「さて、明日の準備でもしますか。」

青年は鍛冶を片付けると、いそいそと冒険の準備を始め、愛用しているウォーハンマーを手入れする。

明日は外だ、まだ見ぬ素材を探し、そして必要とされる人のため、冒険をしていくのである。