蛮族領、人族国家。テュシアが生を受けた国家とは名ばかりの集落は、けして恵まれたとは言えない環境だった。蛮族領では珍しく守りの剣こそ有していたものの、一歩でも外に出れば命の保証はないような、外界とは断絶された閉じた世界。外からの補給路などあるはずもない、活動できる人口にも限界がある環境で、独自の慣習が形成されていた。
　守りの剣を神格化し、それに根差した宗教体系。予言で選ばれた“希望の子”が、神のもとを目指す再生の旅。彼女はそれに選ばれた。これは集落においてこの上ない名誉なことである。家族のいない彼女はその喜びを分かち合うべく、親しき友にそのことを伝えるも、友はそのことを祝ってはくれなかった。その態度に腹が立ち、心無い言葉を浴びせた。生まれて初めての大喧嘩だった。
　集落総出の祭事、祝福の門出。そこに友の姿はなかった。守りの剣を手に教えられたとおりの一連の所作を終え、彼女は集落を後にする。友と仲直りができなかったのは心残りだったが、それを気にしていられるほど楽な旅路ではなかった。逃げ、隠れ、怯え、泥水をすする日々。一人でいたら気がおかしくなったであろう過酷な時に、小魔と出会えたのは幸運であった。
　期間にすればあっという間だが、とても長く感じた時を経て彼女は人族領にたどり着いた。力なき少女が蛮族領を無事に抜けられたのは奇跡と言う他ない。最初は集落の外で人が繁栄していたことに驚きを隠せなかった。次第に集落の異常さに気が付きかけたが、それ以上を彼女は考えないことにした。テュシアは知られたくない、知りたくない出自を胸に秘め、冒険者として新しい生活を送っていく。

自己紹介

「アタシはテュシア！こいつはタナトってんだ！」
「魔神使いってわけだな！あとできること言えば……どこでも寝れるし、なんでも食えるぜぇ！」
「アタシはやりたいことやったから、今は余生を過ごしてるって感じだな！そんなわけでよろしく頼むぜぇ！」