先日の襲撃事件から二日後。
再び仮面舞踏会の舞台に、アナタ達は舞い戻ってきた。流石に豪胆なキングスフォールの住民でも、襲撃されて即座に舞踏会とは行かなかったのだ。
その間、アナタ達はVIP待遇としてキングス観光に洒落込んでいただろう。多分。

レーニンの友人である美夢と、もう一人の副長であるアズールの他、キングスの上級冒険者達と交流を深めていると・・・気がつくとレーニンがいない事に気づいた。
少し辺りを見回すと──大窓の向こう側にあるバルコニーで一人、絢爛な舞踏会を背にして夜景を眺める紅いドレス姿のレーニンの姿を発見した。

「あら・・・見つかっちゃった」

レーニンがいるバルコニーに入ると、少々艶やかさを感じる仕草でレーニンが振り返った。
彼女は珍しく微笑を浮かべており、夜を彩る夜景に照らされた姿も合わさり、有名な女優のようだとアナタは感じるだろう。

▶︎どうしてこんなところに？

「ちょっと酔い覚ましに。ここのワイン・・・美味しいけど少し強くって・・・」

そう言われて見ると、レーニンの手元には深紅の液体が入ったワイングラスが握られていて──彼女はグラスを回しながら一口飲む。

「・・・美味しい」

また微笑を浮かべる──ソレは年頃の女性より大人びてはいるが、何処にでも普通の女性だという事を認識するだろう。
──クレイマリーポートでのレーニンといえば、まず一言目にくるのは「変人」であり。その次に「鉄面皮」だろう。
大破局前の思想である【社会主義】という思想を広めるため、女の身でありながら日夜問わず演説を行い。例え誰も耳を、顔を向けなくとも顔色一つ変えず、演説を続ける奇異な女──ソレがユキナ・ウラジナル・レーニンという女だ。
・・・故に、アナタはこう思ってしまう。

▶︎レーニンは何故、危険を犯してまで社会主義を広めようとするの？

「・・・ソレは口説いてるのかしら？」
「フフ。冗談よ──そうね・・・一言で説明できないけど、最終的な目標は決まっているわ」
「──全ての人族が、幸せになる世界。理想郷を創りたいのよ」

▶︎・・・どうして？

「・・・長話になるわよ」

▶︎構わない

「そう、ねぇ・・・アレは学生の頃だったわ」

当時の私はある学園の生徒だったわ。
その学園では【コンジャラー】【ソーサラー】【ドルイド】【マギテック】のスペシャリストを育成する学園で、私は【マギテック】を学んでいた。
その授業の一環である日。魔導機の実物を見るために、私を含めた生徒数名と教授は『はきだめの魔道死骸区』へと課外授業に向かったわ。
・・・そこで目にしたのは、明日を生きられない物乞いの子供達に、ゴミのように捨てられたナイトメアの赤ん坊。私達にナイフを持って襲いかかってくる子供──そして・・・返り討ちにする、無慈悲な教授の姿・・・。

「いま思うと、私は幸せだったわ」
「ハーヴェス王族との血縁関係を持つ大貴族の生まれで、高い知性と美しい美貌を持ったツノが小さいナイトメア・・・自分で言うのも何だけど、そのまま進めば私は女王になれたわね」
「けどね・・・突き詰めたら私は、生まれが良かったのよ」
「物乞いの子供も、捨てられたナイトメアの赤ん坊も、殺された子供も──もしかしたら、私だったかも知れない」
「後はもう知っての通りよ。飛び級で学園を卒業した後は世界を放浪しつつ、政治を変えようと組織を作り──テロを企んだわ」
「けど失敗したから、クレメリアに逃げた」

そこまで話した彼女はアナタに背を向け、夜景を眺めながらグラスを傾ける。
・・・よく見るとその背中には、小さなコブのようなツノが生えていた。

「・・・無論。すべての人族が幸せになる世界なんて、到底無理だと私は理解しているわ──しかし、それでも私は求め続ける」

再び振り撒いたユキナは──クレメリアでのレーニンになっていた。

「全ての人族がお互いを慈しみ、生まれで人生が決まる事がなく、努力や見た目で評価されることない、平等かつ安全で平和な停滞した世界を──私という絶対独裁者の名の下に、統治された世界を作ってみせよう」
「故に私は学ぶのだ。己を知り、全てを学び、この世界の理を統べる」
「そんな独裁者に、必要ならば悪魔にだってなってみせよう」
「その果てに願う。数百年先の子供達が笑って暮らせる世界を──その礎になるならば、私は最悪の独裁者として殺されても構わないわ」


【その女はどうしようもなく──狂っていた】

設定:ハーヴェス王の暗殺計画の首謀者（直前で発覚した模様）。