最大の特徴は女性には珍しい筋骨隆々とした体、さらには傷跡と日焼け跡付きの欲張りセット。
片目は故郷の国で戦働きをしていた頃、沼地での長期戦の折に病で腐り落ちた。
白鞘の野太刀はローニンが最も大切にしているものの一つであり、いついかなる時も肌身離さず持っている。
立派な甲冑も所持していたが、旅の最後に同行者に裏切られ盗まれてしまった。なので現在はその場しのぎで購入した布鎧を身に着けている。
また野太刀の刀身には鍔元十寸にかけて麻糸が括られており、即席のリカッソとして機能している。

遥か東、この世の果てに、“暁の国”があると言う...そしてそこは、酷く血生臭い。
もう長い間、その地に王はなく、多くの小国が生まれては消えを繰り返していた。
故に人々は、長すぎる戦争に倦みながらも、血の沼の中...殺し合いを続けている。
そんな場所に生まれ落ちたローニンは、幸か不幸か斬り合いの才を持って生まれた。
牛に引かせる唐犂を、十と少しの少女であるにも関わらず、軽々と引き回すことができた。
そんな所を当時の大名が見かけ、養子として徴用したのである。
ローニンは成長するにつれその才能を発揮した。戦場を駆けまわり、授かった野太刀でもって多くの敵を屠った。
戦友にも恵まれた。力は弱かったが、すこぶる頭のキレる者であった。彼の指示であれば、死地だろうと地獄の釜の底であろうと迷いなく飛び込んだ。
...楽しかったのだ、本当に。これこそ自らが、天より授かった運命であると確信していた。死ぬのだって、怖くは無かった。
だが、ある時戦友が病に倒れた。全てが急につまらなくなった。気づいてしまった、自分が好きなのは戦いではなく...この男と共にいることなのだと。

立つことすらままならなくなった男を背負子に乗せ、海へ行った。波の音が聞きたいと言われたからだ。

男が言った「もう長くはない」
女は返した「黙れ、そんなことはない」
「この海の向こうには、大陸がある。」
「知っている...今日はもう話すな、体に障る。」
「断る......では、その大陸の遥か先に砂の海があることは？」
「....知らん。そこへ行きたいのか？」
「いいや、さらにその先だ。そこに一年中ずぅっと冬の森がある。他にも雨の止まない森に火の山、ずっとずっと世界は続いているらしい。....貿易商から聞いたんだ」
「そんなもの、実在するとは思えん」
「俺も全て事実だとは思っていないさ...だが、この国がとても狭いことは確かだ。俺たちは...小さな鳥籠の中でもう長い間殺し合いをしている。...外に、飛び立てる力があるのにだ。」
「....回復すれば行こうではないか、どこまでも付き合うぞ」
「分かっているだろう、それはできない」
「やめてくれ、そんな事を言わないでくれ...さあ帰るぞ」
「西の果てに、この世で最も高い山があるらしい...山頂には龍が住み、吐き出した息が雲となり、世界に雨を降らせているそうだ。...俺が行ってみたいのはそこだ。...伊吹よ、俺の遺灰をその山の頂で撒いてはくれぬか？」
「............あい分かった。」

かくして女は旅に出た、友との約束を果たす為に。