家族で旅行に行き、片割れと共に遊んでいた時。二人は怪しい人影の実験現場に踏み込んでしまった。フードを被っていたため人相は分からなかったものの、目撃者が現れたため人影は逃げ出し…その際に懐から何かが零れ落ちた。

片割れがそれに興味を惹かれて手を伸ばし、咄嗟に割り込んで静止したところ…そのまま、茨に絡み取られた。振り返れば、そこには金属質な輝きを放つ、禍々しい薔薇の花が咲き乱れる茨の山。…それが、とてつもなく危険なものと直感したから。

「逃げろ！」
「で、でも…置いてなんて…」
「…なら、助けを呼んできて！これ、全然千切れないから…！人と刃物があれば、変わるはずだから！」
「う、うん…わかった…！」

分かっていた。気が付いていた。これは刃物でも人の手でも解決しないことは。でも…あの茨たちはまだ蠢いていて、確実にあの子の事も狙って動いていた。というより、本当の狙いはあの子だったのだろう。…冗談じゃない。私の片割れが、茨程度に傷つけられてたまるものか。

「…僕の片割れは、あげないよ」

咄嗟に伸ばした手で何とか掴んだ、金属質な薔薇に挑発するように微笑む。それに怒るかのように、周りの茨が殺気を放ち…体に、無理矢理に入り込んできた

「(…守ろうとして、この様だ。ごめんね、もう一人の僕)」
「(君の所為じゃない。…って言っても、絶対に気にするね。僕がその立場なら…見捨ててしまったと思うし、自分があの場所に行こうと言わなければ…とか、考えるもの)」

「(…でも、僕は…自分勝手だから。勝手に傷つかないで欲しいと思ってしまうから)」

「バイバイ、僕の片割れ。…どうか、僕のことは忘れたままで。父さんと母さんのこともよろしくね？」
「…さて、あの薔薇の持ち主は僕に気が付くかな？近づいてきてくれると情報源にできるんだけど」