彼女ほど湖の白鳥という比喩がふさわしい人間もなかなか存在しないだろう。
　湖に潜ってみれば、彼女に近づいてみれば見るほど彼女の意外な一面が見えてくる。
　例えば食事。食堂での食事でこそ色、栄養バランスよく、適量摂取しているように見える。しかし、混雑が過ぎ、視線の減った食堂に足を運ぶと頻繁に食事をとっている彼女に会うことができる。期間限定スイーツなどが出た日にはほとんど確実に観測できる。夜の門限直前には、人通りの少ない道を怠惰な自分への呪詛を吐きながらランニングする彼女の姿が見られる。
　例えば勉学。彼女は品行方正成績優秀な生徒である。しかし、試験直前の彼女の様子をよく観察すると、毎回その目の下にはクマができており利き手の小指や中指は黒くにじんでいる。彼女は予習復習を欠かさず講義の内容はほとんど頭に入っているはずなので一夜漬けする必要などどこにもないのに。
　例えば娯楽。彼女はみなには隠しているようだが、動物を愛でることが趣味であり、頻繁に農園牧場エリアに姿を現す。そこで放牧されている動物たちを眺め、たまに触れようとしては逃げられたり伸ばした手をかまれたりしている。そのたびに彼女は残念そうな表情をし、そこを離れていく様子が観測できる。
　このように、彼女はそう望まないだろうが意外と身近な存在であり、それに気がついている人間も少なくはない。

　彼女は法、もとい校則を過剰に重視した言動が目立つ。風紀委員としての執行権を最大限活用し、少しでも校則を犯す生徒がいればその言い分がどのようなものであろうともかかわらず均等に正し、罰則を与える。
一切の弁明すら許さない彼女の強硬な態度には、同じ風紀委員の生徒も苦言を呈すほどのものであったが彼女は構わずに執行し続けている。

「どのような存在であろうとも世界の脅威となりうる超人社会において、真に信頼を獲得しなければいけないのは人ではなく法です。
自由で強力な存在である我々オーヴァードは一般人にも見える絶対の鎖で縫い留めておく必要があります。その役目を担うのが法なのです。
オーヴァードが決して害を生み出すことのないと安心させるための法、それは絶対厳守でなくてはならず、オーヴァードに恐れられる存在でなくてはいけないのです。
そうあることが異なる存在の共存を可能とするのです。」

「彼女の銃、執行銃は本来普通のオーヴァードが扱えるものではないんだよ。
FHの研究者が高威力の小銃を作ったのはよかったものの扱えるものがおらず、それ用の実験体を用意しようとしていたところで研究所は発見され制圧された。だから、僕たちの手元には誰にも扱えない銃だけが残った……、はずだった。
どうして彼女はそれが扱えるんだろう？血のにじむような努力をした？あるかもね。
彼女はあの銃に結構執着してるみたいだし
でも僕は違う線を考えずにはいられないんだよね。彼女に戦い方を教えアレを与えたダリオとかいうUGNエージェント。話を聞いてみたいなぁ～。」