しかし、わたしはあなたがたに言う。敵を愛し、迫害する者のために祈れ。-マタイによる福音書 5:44より

とある教会にて神父として働く67歳男性。
そして、その裏でUGNとしての活動もこなすUGN支部長。
括られた白髪に皺の深い黒肌、サングラスに隠れた金瞳が特徴的。少し訛りのある話し方からも、彼が日本人でないことは明らかである。

快活で朗々とした性格で、人との関わりを好む。
世話焼きで、日々の生活や任務中に悲しんでいる者・怯えている者などを認めれば積極的に話しかけ、笑顔にさせようと試みる。
UGNの任務には精力的に取り組むが、規範意識は決して高い方ではなく、「真面目な支部長」とは言い難い。任務に関係ないことではのらりくらりと事勿れ主義っぷりを発揮している。
「みんな楽しくやろうぜ！平和が一番！」というのがモットーであり、基本的に(良い言い方をすれば)自主性を尊重する考えである。

煙草を好む。普段はライターを使わず、横着してEE《炎の理》を使い着火しているが、最近は火災報知器の精度が高くすぐ音を鳴らしてしまうのが悩み。
ジャズを好む。彼曰く、「ジャズ音楽は大人の嗜み」である。ゴスペル・ソングも好き。
争いを極力避けて、平和を好む。戦いは何も生まず、人への憎しみを増幅させるばかりだから。

しかし、戦いこそが未来への道を作る手段であったなら。
あなたやわたしの身体を流れる血液、銃弾を包む炎、それが平和の鐘を鳴らすための赫赫たる福音だったとしたら。

彼にとってはそれだけが、未だライフルを手放さない理由であった。

彼が生まれたのはアメリカ・都市部、とある娼婦館の一室。
誰からの祝福も受けられないような薄暗い部屋の中彼は生まれた。
上げようとした産声は大きな手によって阻まれ、彼の柔らかな身体は乱暴に掴まれて連れ去られる。
「あれをどこかへやってちょうだい、目障りだわ」
赤ん坊が最初に母親から賜った呼び名は、「あれ」であった。
「見よ、おとめが身ごもって男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。この名は、「神は我々と共におられる」という意味である。」-マタイによる福音書 1:23より-

娼婦館の離れで彼は5年の時を過ごすこととなる。
そこはひどく不衛生でうるさい場所で、何人もの子供たちが死んでいった。彼自身もそんな環境で、病原菌が目に入り込んだのか片目を失明している。
自分たちは死んでも構わないような存在で、生きていたら幾許かの労働力の足しにされるのだろうと幼いながらに誰もが直感しており、冷たい死の香りがいつも漂っているような場所であった。
彼はその中でも逞しく生き残り、言葉も話せるようになった。
気が向いた時に様子を見にくる娼婦は、彼のことを「アンブローズ」と呼んだ。どうやら同名の太客がいるようで、そいつと彼は声や顔立ちが似ていたらしい。
彼はその名前だけを握りしめ、5年が経った頃に娼婦館の離れから逃げ出した。
ひどく寒くて、誰も助けてはくれなかった。しかし、自由になったという実感だけが彼の細い足を絶えず動かしていた。
「預言者ダニエルの言った憎むべき破壊者が、聖なる場所に立つのを見たら――読者は悟れ――、そのとき、ユダヤにいる人々は山に逃げなさい。」-マタイによる福音書　24:15,16より-

そうして彼が走って走って、そうして辿り着いたのは小さな都市であった。
小さな都市といっても子供にとっては十分すぎるほどの大きさがある街で、あまりに小さかったアンブローズはすぐに迷ってしまった。
都市で迷い帰る場所も無い子供が行き着く先は決まっていて、アンブローズはスラムで一人生きていくこととなったのだ。
生きていくためにはなんだってする必要があった。盗みを働き、時には人を傷つけることもあった。
その努力の結果、彼は更に5年歳を重ねることができた。
10歳の春、穏やかな昼下がり。彼はいつものように食事を求め彷徨っていた。
路地に出て、とあるこじんまりとしたパン屋を見つける。腹がひどく空いていた彼は、今日はこのパン屋で盗みを働こうと思い、一歩を踏み出した。
しかし、その一歩が地を踏むことはなく、彼はその場に崩れ落ちた。
膝が笑っている。思えば二、三日は食事を摂っていない。体力が尽きたのだ。
無感情に人生の終わりを実感しながら、アンブローズは目を閉じた。
思えばなんの救いもない人生であった。こんなにひどく穏やかな昼下がり、誰にも認められずに生を終えるのか。
涙もこぼれず、死にゆくことに抵抗もできなかった。彼の生はここでおしまい…かと思われた。
彼の頬を叩き、目を開いた彼の前で笑顔を見せる少女がいた。
少女はアンブローズの身を起こして、ボロボロの身なりを不思議がり傷に小さな絆創膏を貼った。
そして、呆気に取られるアンブローズを置いてパタパタとパン屋の中に入って、小さなパンを差し出したのだ。
それはアンブローズが生まれて初めて触れた純粋な慈愛であり、彼は思わず目を見開き、大粒の涙を溢した。
主はあなたを苦しめ、飢えさせ、あなたも先祖も味わったことのないマナを食べさせられた。人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるためであった。-申命記　8:3より-

それからアンブローズと少女は度々会って言葉を交わすようになる。
少女はアンブローズの名を聞かなかったし、アンブローズも少女の名を聞かなかった。
知る必要も無かったし、何よりアンブローズと少女が会うのは親の目を盗んで作った数分間くらいのものであったから、時間が足りなかったのだ。
いつも決まった時間に少女は裏口から顔を出して、アンブローズにパンを分けてやった。
アンブローズはそれに感謝をして、深く手を合わせる。祈りの作法について勉強したことなどなかったが、自然と身体がその動作をとる。ひどく不恰好な祈りであった。
そんな数分間の交流が何週間か続いて、二人はすっかり顔見知りになったのだ。
しかし、とある初夏の午後。
その日もアンブローズはパン屋の裏口に向かっていた。



「御怒りの大いなる日が、すでにきたのだ。だれが、その前に立つことができようか」-ヨハネの黙示録 6:17 より-

だれでもキリストにあるならば、その人は新しく造られた者である。古いものは過ぎ去った、見よ、すべてが新しくなったのである。-コリント第2の手紙　5:17より-

「愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず、自分の利益を求めず、いらだたず、恨みを抱かない。不義を喜ばず、真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える。」-コリント第1の手紙　13:4,5,6,7より-

「しかし、わたしの言葉を聞いているあなたがたに言っておく。敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい。あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。」-ルカによる福音書　6:27,28,29より-

「灰山との関係」→友人以上親子未満のような、気の置けない関係
「灰山への感情(離反前)」→支部で一番信頼のおける男　面白いやつだとは思うが、時折見せる陰りのある表情を見ると心配になってついお節介を焼いてしまう　信頼/不安
「灰山への感情(離反後)」→そりゃあこうなるよな…という、半ば諦めの気持ち　UGNに害をなす存在となったなら立場上敵対せねばならないが、本当は関わらずに済むならそれでいいと思っている　未だに面白いやつだとは思うし、どこかで元気に暮らしていればいいと思っている　慈愛/隔意
「支部長に就任した時期（灰山の離反前か後か）」→灰山の離反前(8年前ほど)
「どのように分かれたか」→神宮寺はなんとか引き留めようとするが、のらりくらりとかわされて別れることとなってしまう…というのを想像しています