“巳神”と“ヒモ”は別存在である。
巳神は基本ステージよりも至極真っ当で、「普通の人間」である。その呪われた生まれ以外は。
　
元より巳神は三人の姉なるもの達によってどんな邪神因子にも適合・収集できるように育てられた。時に慈しまれながら、時に嘲笑われながら20年もの時をかけて醸造された器は、姉達と同じ千の仮面のひとつに“される”ことで完成してしまった。オーヴァードとして覚醒し、邪神そのものとも言える人格を宿してしまった彼は姉達の指示（洗脳）に従い数多のオーヴァードから邪神因子を収集していた。その結果、巳神は邪神因子の蠱毒壺と成り果てた。正気を擦り減らし摩耗していく巳神の人格を見た姉達は、これまでの締め括りとしてその蠱毒を誕生させることを思いついた。理由はもちろん、最期まで彼を嘲笑う為である。毒を完成させる最後の一人として姉達が選んだオーヴァードは、白痴の王に限りなく近い因子を持つ男であった。姉達の計画通り、巳神はその男と接触し、蠱毒を完成させた。反応が面白いので、時折巳神の意識を浮上させてやることもあった。そうして彼は男の目の前で蠱毒を誕生させ、そのまま生命ごと役目を終える…筈だった。姉達の誤算はいくつかあった。一つは選ばれた男が並行世界の巳神の縁を知っていたこと。一つは、浮上させた巳神(ただのヒト)の人格が男に訳も分からず縋ってしまったこと。そしてもう一つが、男に蠱毒を潰せるだけの力があったこと。それらの要因が重なり、男の気まぐれによって蠱毒が生まれ落ちることはなかった。
　
これがまだ彼が大学生だった頃の話である。
　
それ以来、洗脳から逃れる事が出来た巳神は男に恩義を感じて彼の生活を、もっと言えば彼が“目覚める事がないよう”支援している。
しかし、今ではその精神は邪神因子により捻じ曲がってしまっている。蠱毒を無かった事にされた姉達は、最後の嫌がらせとして巳神の人格と邪神の人格を融合させた。現在邪神成分は人格の9割ほどを侵食しており、その状態の巳神をキャラシでは“ヒモ”と呼称している。ヒモは異世界の巳神を垣間見て同じように世話を焼いてみた結果、何故か気に入ってしまった。そのため今は世話焼きな一般人を装いながら、こちら側に落ちてきてくれる時を今か今かと待ち続けている。
　
なお巳神の人格は今も僅かに残っている。意識は全体の一割程度にも満たないが、これまで起こった全てを見せられ、一般人メンタルながら記憶している。何か大きな偶然さえあれば、巳神が浮上してくることもあるかもしれない。ただし巳神は並行世界の存在を知らないし、どうやって蠱毒が消えたのかも分かっていないだろう。（それでもCRC巳神は基本ステージよりもかなりまともな一般人である）